第十三話 記憶
三日ほどして、男が目を覚ましたとき、一緒にいたのはヒメだけだった。他の者は、とりあえずヒメに治療をまかせることにして、しばらく男との接触を断っていた。村人にとっては、ただただ気味の悪い存在だったのだ。
「ここはどこですか」
男は目の前にいたヒメに話しかけた。ヒメは穏やかな目で男を見つめていた。
「その前にお前は誰じゃ。名を名乗れ」
「僕は・・・・」
「名乗れぬか」
「いえ」
「スパイ活動をしておったな」
「いえ」
「・・・」
「僕は・・・誰ですか」
しばらく、ヒメと男の間で、かみ合わないやり取りがされた後で、やっとわかったことは、男が記憶を無くしているらしいということだった。頭の傷はたいしたことはなかったが、どうやら打ちどころが悪かったらしい。
ヒメは男の言葉を信じた。
「荷物は、役人が持って行ってしまったよ。なにしろ、スパイ容疑がかかっていたからな。荷物の中には、ヤクモの島の、すごく詳しい地図が入っていた。あれほど正確な地図は、おそらく、この国にはまだあるまい」
ヒメは言った。
「何も覚えてないです」
男は本当に何も覚えていないようだった。自分の名前はもちろん、自分がどこの国のものかもわからないという。
「お前の服装は、ヤクモの国のものだった。それが、ヤクモ島の地図を持って、この海岸に流れ着いた。ということはだ。お前、おそらく、ヤクモの国へスパイとして侵入していたな。地図はその戦利品だろう。これから、お前の雇主に地図を渡すはずだったのだと、わしは思うが・・・」




