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第10話 海賊

ヤクモの国の民は基本的には海洋民族ではあったが、農業も行い、多くは自給自足の生活をおくっていた。

確かに戦争もあったが、平和を愛する民族だ。しかし、当然のことながら例外と呼ばれる人々もいる。特に、王の政策に反発する人々は、時として過激な活動をすることがあった。彼らは徒党を組み、船で移動をしていたために、「海賊」と呼ばれていた。

しかし、一般民衆から略奪をするようなことはなかった。天誅と称しては、役人を襲う。その場合も、殺人をすることはなく、賄賂などで私腹を肥やしている役人から財産を奪うのみだった。そのため、貧しい民衆からはむしろ慕われていた。


夜の海を、灯りをともさずにゆっくりと走る船があった。このあたりではめったに見られない大型船である。甲板には、数人の影が見える。

「あと、一時間ほどでターゲットに到着します」

甲板で、やや小さい影の人間が、その横の大きな影に報告した。

「上陸準備」

大きな影が、小さな影に指示を与える。小さな影は、甲板から船内へと走っていった。大きな影が甲板に残った。しばらく影は動かなかった。

雲の間から月光が刺した。男の顔が月の光に照らし出された。体格のよい初老の男性である。

男の名は、シロといった。

彼は、自分が海賊のお頭だと、世間から呼ばれていることを不本意に思っていた。

自分達は海賊ではない。船長ということになっているが、お頭だと思ったことは一度もない。クルーに上下関係はない。みんな友達だ。


しばらくすると、甲板に駆け出してくる男の姿があった。

「船長、偵察の者が戻ってきたのですが、何かおかしいとのことです」

シロは、その男の曖昧な言い方が気にいらなかったが、平常心を装って質問した。

「おかしいとは?」

「は。屋敷には人影がなく。馬なども、一頭もいなくなっているとのことです。襲撃がばれたものと思われます」

 そんなはずはない。シロはそう思った。今回のターゲットのことを自分の頭の中から外に出したのは、昨日のことだ。昨日までは、この船のクルーでさえも、ターゲットのことは知らなかったはずだ。

シロは、襲撃する相手のことを、いつもターゲットと呼んだ。今回のターゲットは、ヤクモの国の役人だった。シロの仲間達が調べたところによると、自分の地位を利用して、国民を虐げる、いわゆる悪いやつだ。そんな奴には、我らが天誅を下す必要がある。シロは、そう考えていた。

もとより、殺す気はない。あくまでも、懲らしめるだけだ。そのことで、我々のメッセージが伝わればよい。ちょっとだけ、強奪はする。自分達の活動資金を稼がなくてはならない。

既に、ターゲットの屋敷は見えている。海岸に建つその大豪邸は、役人が不正に私腹を肥やして建てたものだ。しかし、本来、灯っているはずの灯りはどれも消されており、確かに、ひっそりと鎮まりかえっていた。

「とにかく。予定通り、天誅をくだす。我に続け」

シロは静かにそう言うと、十人ほどのクルーと一緒に、上陸用の小舟に乗り換えた。全員、武装していた。


雲間から再び顔を出した月は、その光を海賊達に投げかけていた。照らし出された海賊達の姿は、くっきりと海岸に浮かび上がった。

そのときだ。空を切り裂く鋭い音とともに、シロの足元に一本の矢が突き刺さった。どこかから、狙撃されている。クルーは、全員がシロを守るために盾となった。

足元に突き刺さった矢を見ながら、シロは思った。狙撃手の腕はかなりのものだ。おそらく、その気になれば、あっと言う間に我々を全滅させることが可能だろう。しかし、おそらく奴に殺意はない。我々になにか要求するつもりか。


「屋敷の人間は全て避難しました」

灯りのついていない建物を背にして、二人の人影が見えた。一人は弓を構えている。しゃべっているのは、矢を構えていない方の影だ。

「なぜ、我々がここに来ることがわかった」

シロは大声で質問した。

「我々が妖術使いだということを信じていただけますか」

シロは考えた。おそらく妖術使いというのは本当だろう。そうでなくては、ターゲットを襲撃する今日という日がばれるはずがない。だとしたら、下手に反撃をするのは得策ではない。

「目的はなんだ」

「僕は、ヤクモの国のタクミ。こいつは、クナ国のポチ。僕たちをギの国へ連れて行ってもらいたい。こっそりとね」

「あ、こら、タクミ。今、僕達っていったな。すみませーん。僕は行かないんで、こいつだけお願いしまーす」

シロはポチの言葉を無視して言った。

「ヤクモの国のタクミと言ったな。お前をギに連れて行くことに、なんのメリットがあるというのだ。ふざけるなよ。お前の国では、ものを頼む相手に矢を射かけるのか」

「ポチの矢は絶対に当たらないから安心してください。あなた方にメリットはありますよ。僕は、あなたが満足するであろう情報を提供することができます」



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