第1話 始まり
ゆっくりと坂道を登ると、一時間程で、丘の頂上にたどり着いた。空を漂う雲の影がその丘を下っていった。
冷たい風が頬に心地よい。
ドーム状のなだらかな頂には、木と呼べるような、大きな植物は何もなかった。生えているのは、短い牧草ばかりだ。
「馬でもいれば、もうちょっとアクセントがついたのにな」
タクミはそんなことを考えたが、馬も牛もそこにはいなかった。
南側の斜面に立ってみた。
田園がはるか遠くどこまでも続いているのが見えた。ポツリポツリと間隔をあけて、農業を営む人々の家が見える。それは、質素な造りの家だったが、そこには、他人からは干渉されずに気楽に生きる人々の営みが感じられた。
タクミの育ったヤクモの国は、大陸から数十キロ離れた、小さな島の中にあった。その島の中で、人々は三十程の国に分かれて住み、数年前までは、お互いに戦をしていた。
今でこそ、美しく整備された農村だったが、たびたび、そこは戦場と化し、そのたびにせっかく育った稲は踏み潰され、人々の苦労は台無しにされてきた。
それでも、人は、忍耐強く生き残った。
戦時中に即位した現在のヤクモの国の王は、諸国に停戦を呼びかけた。多くの周辺国はその呼びかけに応じて、戦争をやめ、やがて、ヤクモ連合と呼ばれる連合国を作った。
こうして、唐突に平和がやってきた。
人々の平和な暮らしは、この丘の上から見た景色からもうかがわれる。昼時になって、一斉に上がる煙は、人々が、食うことに困っていないことを、意味していた。
タクミは幸せな気持ちになって山を下りた。




