「死後裁きにあう」
この山の標高は、65,535mあると言われて居る
富士山と比較すると軽く17倍以上であり、そのため麓が砂漠であるにも関わらず、山肌から生命を拒む冷たい白色が消えた事は一度も無い
僕はその山頂に在る、洞穴に住んで居る
当然、人間では無い
元は人間だったとは思うが、今は違う
僕自身は、もう躰が朽ちてから相当な月日が経って居る
それでも存在し続ける理由は、この山頂には恋人の死体が在るからだ
元々、死ぬつもりの旅だった
僕と彼には行ける場所など無かったから、眠るように死ねる場所を探して、結果、雪山という事になった
実際には僕たちは、麓からさほど離れていない場所で死亡している
この場所まで移動したのは、僕の心が躰を離れて少し経ってからだ
少しずつではあるが、僕の精神は山と繋がれる様になり始めて居る
完全に繋がりきった時、僕の精神は摩滅して死ぬのかも知れない
しかし、悔いてどうなるものでも無い
それより、それさえ踏まえ僕は支度を行っていた
君を綺麗な姿のまま、永遠に弔う為の支度だ
絶え間ない吹雪の合間に、大勢の足音が聞こえた
また人間が来たのだろう
人間達は、僕が山頂へ人が来るのを拒む事だけは知っている
もしかすれば、僕が存在している事すら解っていない可能性はあるが、少なくとも『何らかの意志が山頂へ人が踏み入るのを拒んでいる』事だけは把握して居る
生きたまま下山した者達から、いつしか噂が立った
『山頂の財宝』の噂だ
以来、これ程までに生命を拒む場所に、それでも挑む者は後を絶たない
───また、つるはしか何かで入口を壊しに来たのだろう
僕は洞穴の入口を隙間無く覆う氷に意識を通わせると、吹雪を纏わせて厚さを増やそうとした
瞬間
灼ける様な熱さに、精神が恐慌を起こす
人間達はこれまでの失敗を元に、今回は爆薬を持ち込んでいた様だった
僕が氷の厚さを増す程に、人間は新しく爆薬を燃やし始める
氷と意識が繋がっている為、痛みは現実のものとして襲い掛かってくる
精神の背中に相当する部分に、言葉では表現出来ない様な痛みが在った
人間の躰なら僕は今頃、白眼を剥いて叫び出す程の苦痛を受けている事は間違い無い
それでも、既に手は尽くして居る
僕は『助かりますように』と願った
しかし、助かる方法がどうしても思い付かなかった
─────
「お母さん、雪!」
村落に朝が来た
晴れ渡った砂漠の空に、雪の破片が舞っている
はしゃぐ子供を抱き上げると、母親は頭を撫でた
「あれはね」
「風花と呼ぶんだよ」
「風花?」
「そう」
「すごく綺麗!」
「そうだね」
村人の中の早起きな者達が、ぞろぞろと家から出て空を見る
「今日も良い事ありそうだな!」
誰かが言った




