レベル8 ご利用は計画的に
「小梅さんからメールが届きました。」
拝啓
虫の音に秋の訪れを感じる今日この頃、お変わりなくお過ごしのことと拝察しております。
先日は、昼行灯をご利用していただき、まことにありがとうございました。
何分にも微力ゆえ、不行き届きの点も多々あるかと存じますが、多くのお客様に愛され、
心温まる店になるよう精一杯努めてまいる所存でございます。
どうか、末永いご指導ご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。
略儀ながら、まずは書中をもちまして御礼申し上げます。
敬具
追伸
おいてめぇこら!
あれから1度も店に顔ださねえじゃねえか、まさかてめぇに貸した30万忘れたわけじゃねえだろうな?
取り合えず3日以内に今もってる全財産持って来いや!
もし来なかったら、二度とこのゲームをプレイできなくしてやるから覚悟しとけよ。
オーベルビリア。サマルガルドから北にある山道を抜けた先にある、マラトヤ高原と言われる広大な高原の中心にある町だ。
このマラトヤ高原はかなりの広さを誇っており、クエストも大量に存在する為多くのプレイヤーがここでレベル上げをしている。
さらにこのマラトヤ高原に存在するモンスターは、サマルガルド周辺とは比べ物にならないぐらいの強さなのだ。
サマルガルドからオーベルビリアまでの道のりがこのゲームの最初の試練と言われており、オーベルビリアに自力でたどり着くことで初心者を卒業する、という認識になっている。
つまり初心者を卒業したプレイヤーであふれた町なのだ。
数多くのプレイヤー達が目の前を過ぎ去っていく。
オーベルビリアには、北、南、西の3つの出入り口があり、ここはオーベルビリアの西にある出入り口につながる道の途中だ。
西出入り口から町に入ったプレイヤー、もしくは出て行こうとするプレイヤーは必ずここを通らなければならない。
その道の端に立ち、何人のプレイヤーが通りを過ぎ去っていくのを見ていただろうか。
話しかける! そう意気込んでこの道に立って30分近く経ってしまった。
このオリジナルオンラインというゲームを始めてまだそんなに日が経っていない為、知り合いと呼べるプレイヤーはまだ1人もいなかった。
と言うよりもまず、今までMMORPGなるゲームをやった事がなかった。いやMMORPGに限らずオンラインゲームといわれている物をやった事がなかった。
その為、他のプレイヤーとどうコミニュケーションを取っていいかわからず、ゲームを始めてから今までほとんど誰とも喋ることなくここまで進めてきた。
まあこのままでもいいか、と悠長なことを考えていたのだが、そうもいかなくなってしまった。
あるクエストをどうしてもクリアしたいのだが、1人では絶対に無理だ。
大体このオーベルビリアに辿り着いたのでさえ奇跡の様なものなのに、さらにこのマラトヤ高原を1人でうろつくなど無理に決まっている。
だからこうして人通りが多いここでPTを組んでくれそうな人を探していたのだ。
巨大な斧を持った者、ゴツゴツ鎧を着込んだ者、背中に剣を背負った者、なんとも可愛らしい服を着た者、みんな同じ服を着た3人のPT、他にも様々なプレイヤーが通って行ったが誰にも話かけられなかった。
実際はどうかわからないが、みんな自分よりも遥かに強く見え、誰も私なんて相手にしてくれなそうな気がしてならなかった。
はっきり言って私は弱い、PTを組んだら間違いなくお荷物になるだろうという自信があった。
そう思うとどうしても話かけられない。
いかにも弱そうで初心者っぽい人はいないだろうか、それならば話しかけられそうな気がする。
そんな事を考えていると、通りの向こうから1人のプレイヤーが現れた。
そのプレイヤーはある意味浮いていた、みんなが剣や斧、鎧などを装備しているにも関わらず、裸(装備なしの状態)に布でできたぼろぼろの服を着込み、武器とおぼしき棒を持っているだけだった。
私の期待通り、いやそれ以上のプレイヤーだ。
弱すぎるというのも問題だが、私がやろうとしているクエストは時間制限がある、いつまでもこんな所に突っ立っているわけにはいかない。
なけなしの勇気を振り絞り、そのプレイヤーに向かって歩き出した。
俺はオーベルビリアの西出入り口に向かって歩いていた。
オーベルビリアには出入り口が3つある。それをなぜ西から出ようとしているのかと言うと、特に理由などない、単なる気まぐれだ。
初心者狩りへの復讐を終えた俺は、とりあえずサマル周辺を探索することにした。そこで見つけた山道を抜けマラトヤ高原とかいう無駄に広い高原を進み、このオーベルビリアに着いたのは昨日の事だ。
初心者狩りの正体が新聞で暴かれる、ゲーム内は一時期その話題で持ちきりだった、だが最近は初心者狩りの正体を暴いた者は誰なのか? という話題に切り替わってきていた。
○○新聞でも「正義の使者!? 初心者狩りを裁いたプレイヤーに迫る!」などという分けのわからん記事が書かれていた。
正義の使者っておまえ……。
個人的な恨みで仕返ししてやっただけだから。
あの写真を新聞社に無記名で送ったのは正解だった、正体がばれるとめんどくさいことこの上ない。
初心者狩りを倒したのが俺だと知っているやつは、俺を抜かすと初心者狩り本人、あと小梅と茜の3人だ。
初心者狩りは正体がばれたあとは誰も見ていないらしい、おそらくキャラを消したのだろう。
そうするとあとは小梅と茜の2人だ。
茜には否定したがたぶん俺がやったとばれているだろう、でもおそらく誰にも言わないだろう……たぶん。
小梅は……言いそうだな。
というかまず情報屋だから金積んだら絶対言うだろ。
次会ったときに誰にも言うなと、いっとかなければ。まあたぶん俺の言うことなんか聞かないだろうけどな。
そうそう小梅と言えば、小梅から脅迫メールが届いたのも昨日の事だ。
最初はメールなんて見なかったことにしようかと思ったのだが、そんなことしたら小梅のやつに何をされるかわからん、本当にゲームができなくなるようなことをあいつならしかねない。
3日以内と書いてあったのであと3日ある、だから今から少しでも金を集めようとモンスター退治に出かける所なのだ。
しばらく歩いて行くと、遠くの方に門が見えてくる。
町の外に広がる高原のモンスターは経験値と金が結構手に入る、しばらく狩れば借金の足しになるだろう。
「あ、あの~」
借金を返す手段を考えながら歩いていると、横から急に声を掛けられた。
「ん?」
声のする方に振り向くと1人の女性プレイヤーが立っていた。
整った顔立ちで、見た感じ年は17、18ぐらいだろう、身長は俺と同じかそれより少し低いぐらいだろうか、腰近くまで伸びた、軽くカールのかかった赤い髪が印象的なプレイヤーだ、真っ白なローブを付けている為赤い髪がより際立って見える。
なかなかの美人だが、なぜか木で出来たちゃちな杖を両手で構えるように握っている。
その杖で俺を殴ろうとでも言うのだろうか?
「あ、あの……」
俺が何も言わずにいると、あせったように喋りだす。
「わ、私とPTを組んでくれませんか!?」
「PT?」
「はい! えーと、ちょっとやりたいクエストがあるんですけど、1人じゃ無理なんです」
なるほど、1人じゃ難しいからPTを組んでクエストを手伝ってほしいということか。
赤髪のプレイヤーが怯えるような目で俺の返事をまっていた。
正直いってめんどくさかった、PTを組むと戦闘では有利になるかもしれないが、知らない奴とPTを組むなんて疲れることこの上ない。
「あのさ、他にもいっぱいプレイヤーいたのに、なんで俺なの?」
PTを組む気はないが気になるので聞いてみる。
「あ、あの。そ、それは……弱そう……だったからです」
俺の動きがピタッと止まり、なにごともなかったように町の出入り口に向かって歩きだす。
「あ! いや違います! 違います! 話かけやそうだったんです!」
赤髪のプレイヤーがあわてて俺の前に移動して弁解する。
「私、オンラインゲームとかしたことなくて、だからその……話かけやすそうな人を探してたんです」
つまり強そうな奴にはちょっと話かけずらいので、弱そうで話しやすそうなプレイヤーを探していたわけか。
自分の格好を改めて見直して見る。
うん、分かってたけどたしかに弱そうだ。
「悪いけど俺いまからちょっと用があるから……」
「そ、そうですか。すいませんでした」
悲しそうな顔でそう言われると、なんか悪いことしたような気になってしまう。
しかし俺も忙しいのだ、構ってる暇などない。
そのまま赤髪のプレイヤーの横を通りすぎようとする。
「お金あきらめるしかないかな」
そこで再び俺の動きがピタッと止まる。
「今なんて言った?」
赤髪のプレイヤーに向き直る。
「え? あの、お金あきらめるしかないかなって……」
「そのクエストもしかして報酬で結構金もらえるの?」
「はいそうですけど……」
「そのクエスト手伝いましょう!」
そういうことは速く言ってもらいたい。
「え? でも用があるって……」
「よく考えたらその用、もう片付いたんだった。というか困ってる人を助ける方が全然優先されるから!」
「そ、そうなんですか?」
俺のいきなりのハイテンションにちょっとびびったように言う。
「うん、マジで俺そういうのほっとけない性質なんだよ」
金! 金! 金!
「じゃ、じゃあ、ぜひお願いします。」
俺の邪な思いにまったく気づかないのか、そう言って笑顔で右手を差し出してくる。
「私クレアノーズといいます、長いのでクレアと呼んでください」
差し出された右手の意味に一瞬気づかなかった。
なるほど握手か……。
ゲームで握手って普通やらないんだが、オンラインゲームは始めてと言っていたし一応付き合ってやるか。
赤髪……クレアの手を握る。
「俺は、たしか……ロダ、そうたしかロダだったな」
自分の偽名をちょっと忘れてしまっていた。
「ロダさんですか?」
「まあ一応ね」
「わかりました。ロダさんよろしくお願いします」
さっきの悲しそうな顔とは対照的に、うれしそうな顔でそう言った。
オールドベリアの西出入り口付近で、ものすごく弱そうな2人のPTが結成された。
ちょっと間が空きましたが、なんとか9話目更新できました。
一応ここから第2章の始まりです。まあ借金返済編と言ったとこですかね。
第1章は、途中からなんか話が適当になっていった様な気がするので、ここからはそうならないよう注意して書いていくつもりです。
ではぜひ次の話も読んでください。