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RPGで一番大切なもの  作者: ロロ
第1章
8/18

レベル7 決着

 もうまもなく日が沈み夜が来る。

 夜は好きだ、すべてを黒く染める夜が好きだ。

 夜が近づくにつれ俺の腕が徐々に疼いてくる。まるで、殺せ! 殺せ! と俺に訴えかけてきているかのように。

 初心者狩り、俺はそう呼ばれている。初心者だけを狙って狩る、その行為自体は結構前から行っているが初心者狩りと言われ始め有名になり始めたのはつい最近のことだ。

 有名になることは俺にとってあまり喜ばしいことではなかった。

 有名になるにつれ低レベルのプレイヤーは警戒し始め、夜に街から出てこなくなったり、ソロで冒険をするプレイヤーが少なくなったりしていった。しかも高レベルプレイヤーが俺を討伐しようとまでし始めた。

 おかげで俺が初心者狩りとして行動できる時間は減っていった。

 しかし俺は初心者狩りをやめる気はなかった。まったく相手にならず悔しそうに死んでいくプレイヤーの顔を見たときのあの優越感、恐怖に歪んだプレイヤーをなぶり殺しにしていく時の高揚感、あれはそう簡単にやめられるものではない。

 一体きっかけは何だっただろうか?

 そうたしかあの時、何か腹の立つことがありイライラしていたのだ、そんな時に偶然闇の衣を手に入れた。最初は1回だけのつもりで低レベルプレイヤーを殺したのだが、その時のなんとも言えない感覚にやめられなくなったのだ。

 そして今日まで正体がばれる事もなく初心者狩りを続けてきた。

 今まで正体がばれずにこれたのは、もちろん闇の衣のおかげもあるが俺のオリジナルスキルである“サーチ”のおかげだろう。

 俺の“サーチ”は通常よりも遠くを見る事ができる、しかも暗闇の中でもそれは変わらない。そして“サーチ”した相手のレベルを見ることができる。このスキルを利用して俺はソロの低レベルプレイヤーだけを狙って殺すことができたのだ。

 ふと気づくとすでに初心者狩りの活動時間である夜になっていた。

 ここは魔性の森という低レベル用のダンジョンだ。

 俺はこの森で狩りをすることが多い。この森は広い上に木や草で視界が悪いため俺にとっては最高の狩場なのだ。

 さっそく“サーチ”で辺りを見回して見る。

「いた」

 少し離れた所にプレイヤーがいるのを発見する。

 プレイヤーは特に何をするでもなく無防備にその場に突っ立っている。

 今日は運がいい。毎回狩りの対象が見つかるわけではない、誰も来ずに夜の間ひたすらに待つだけの日もある。

 プレイヤーのレベルは9。

 俺は念のためレベル10以下しか狙わないことにしている、つまりぎりぎり対象の範囲内だ。

 プレイヤーは布の服を着ており左手にひのきのぼうを装備していた。

「ん?」

 よく見てみると数日前に狩ったプレイヤーだ。たしか前襲った時はレベル5か6だったはずだ、この数日でレベルを上げたのだろう。

 俺は一度襲ったプレイヤーは襲わないことにしている。

 しかし最近はみんな警戒し獲物が見つかりにくくなっている、こいつを見逃したら今日は誰も現れないかもしれない。

 しばらく考えたがやはり襲うことにした。

 獲物に気付かれないように少しずつ少しずつ近づいていく。

 獲物はこちらにまったく気付く様子はない。

 そして獲物の背後の数m離れた草むらまでたどり着く。

(さて、狩りの始まりと行きますか)

 このあとの狩りを思い浮かべると自然と笑みを浮かべてしまう。

 俺は武器であるグロッグバスターを握る手に力を入れ、一気に草むらから飛び出す。

 ガサ!

 草の音に反応して獲物がこちらを振り向く。

「よお」

 俺を見て驚いた顔をした獲物に対して軽く挨拶をする。

 ほんの少しだけ固まっていた獲物はすぐさま俺とは反対方向に走り出す。

「逃がすかよ」

 俺も急いでその後を追う。

 1回目の時はびびって動けずにいたのだが、2回目はさすがに状況を理解するのが速い。

 夜の森の中逃げる獲物を追いかける。

 これはこれでなかなかに面白い。だがいつまでも追いかけっこを続けるわけにはいかない、このまま森を抜けられたらめんどくさい事になる。

 俺の方が多少早速いのだろう、徐々にだが獲物に近づいていく。

(もう少し、もう少しだ)

 そう思った瞬間、獲物が急に180度反転し俺に向って何かを投げるようなモーションをする。

(ちっ! だがこの距離ならぎりぎり避けられる!)

 しかし獲物が投げた何かは俺の予想をはるかに上回るスピード、まるで弾丸のような速さで俺に向って飛んできた。

(なっ!)

 ドォン!!








「よお」

 草の音を聞き後ろを振り向くと、右手にギザギザの大剣を握った真っ黒な人の形をした影が俺にそう挨拶をしてきた。

 初心者狩りは数日前に俺を襲った時とまったく同じ姿をしていた。

(きた!)

 そう思った瞬間あまりの嬉しさに笑みを浮かべそうになる。

 だがここで笑うわけにはいかない。

 すぐさま初心者狩りとは反対方向に逃げる、ここで不審がられて追いかけてこなかったら元も子もない。

 逃げながら後ろを確認する、問題なく俺の後を追いかけて来ていた。

 初心者狩りに遭遇するという一番の難解はクリアすることができた。

(さすがだぜ小梅)

 確証はないと言っていたが、一体どうやってこんな情報を手に入れたのだろうか。

 しばらく追いかけっこを続けていたが、徐々に初心者狩りに追いつかれ始めて行く。

 だが問題ない、これは俺の計画通りなのだ。

 今右手に持っているアイテムを初心者狩りにぶつけなければ、まず俺に勝ち目はないだろう。そのためにある程度は距離を縮めなければならない。

 そしてある程度の距離に来た瞬間、180度反転し手に持っているアイテムを初心者狩り目掛けて投げつける。

 いきなりのことで初心者狩りは反応が一瞬遅れるだろう、しかしそれだけではおそらく避けられてしまう。

 投げる瞬間にスキルを発動させる。

 “加速”

 俺のスキルによって“加速”されたアイテムは初心者狩り目掛けてものすごい速さで飛んでいく。

 ドォン!! 

 投げたアイテムが初心者狩りに直撃し爆発する。

 このアイテムは調合によって作られたアイテムで相手にダメージを与えると共に相手の魔法防御力を下げる特殊効果をもっている。

 ちなみにこのアイテムは小梅に紹介してもらったダロメというプレイヤーに作ってもらった物だ。小梅の言うとおりダロメはいいやつで、すぐにこのアイテムを作ってくれた。

 爆発が起こった瞬間、初心者狩りに向って全力で走り出す。

 初心者狩りはそのことにまだ気付いていない、予想外のスピードで飛んできた上にそれが爆発したのだ動揺しても仕方がないだろう。

 2メートル近くまで来るとさすがに気付いたのか、あわてて剣を構えようとする。

「おせぇ!!」

 老師に教わって“瞬足歩方”で2mの距離を一瞬で詰める。

 そしてがら空きの腹に“内気功”で強化された拳を全力で叩き込む。

「ぐはぁ!」

 初心者狩りがうめき声を上げる。 

 だがそれだけでは終わらない。

 初心者狩りに拳を当てた瞬間、初心者狩りの腹に叩き込んだ右手から魔方陣が高速で展開され爆発が起きる。

 ドォン!!

 爆発を0距離で食らった初心者狩りは数m吹き飛び地面に倒れこむ。

 今のは小梅から貸りた金で買った、補助スキルの“エクステンション”といわれる魔法だ。

 “エクステンション”は武器の先から球上の玉を放出しそれを爆発させる魔法だ。

 だがこの“エクステンション”、攻撃力はそこそこ高いのだが発動させるまでの時間がかなり長い、あまり使用しているプレイヤーはいないだろう。

 なぜその発動時間が長い“エクステンション”を高速で使用することができたのかは言うまでもない、“加速”させたのだ。

 初心者狩りに拳が当たった瞬間に“エクステンション”を使用し発動時間を“加速”させ、ほぼノータイムで発動させた。

 ここまでは計画通り進んでいた。アイテムによるダメージと“内気功”で強化された拳のダメージ、そして“エクステンション”を0距離で受けたダメージ。

 おそらくはこれで倒せるだろうと予想していた。

 倒れた初心者狩りに起き上がる気配はない。 

 勝った。そう思い油断した瞬間、初心者狩りが急激に起き上がり俺に向って走り出す。

(しまった!)

 走りながら初心者狩りの大剣が白く光りだす。

「“トリプルスラッシュ”」

 たしか“トリプルスラッシュ”は大剣の素早い3連撃スキルだ。

 右から左へ繰り出される1撃目を後ろに下がって避ける。

 そこから1歩踏み出し左から繰り出してくる2撃目をなんとかしゃがんで避ける。

 そして最後の3撃目が上から振り下ろされる。

(避けきれない!)

 2撃目を避けたとき体勢が崩れ3撃目を避けきれない。

 ガッ!!

 寸前の所で左手に持っていたひのきのぼうで受け止め、すぐに相手の剣の範囲外へと距離を取る。

 危なかった、もしひのきのぼうを錬金で強化していなければ最初のころの二の舞だっただろう。

 相手の剣を受け止めたひのきのぼうが折れる。強化しても1撃しか耐えられなかったようだ。

(マジで助かったぜ相棒)

 心の中で相棒に感謝し、目の前の初心者狩りを睨みつける。

 おそらく相手はほぼ瀕死状態なはず、あと1撃与えれば倒せるだろう。

 しかしどうする、もう一度あの3連撃を避けられるとは思えない。

(やはり切り札を使うしかないか)

 しかしあれには問題がある、しかも失敗すればもはや俺に勝ち目はなくなるだろう。

 だが出し惜しみなどしている余裕はないのだ。

(やるしかねぇ!)

 初心者狩りに向かって走り出す。

 それに気づいた初心者狩りが大剣を構える、そして再び大剣が白く光りだす。

「“トリプルスラッシュ”」

 そう言って初心者狩りが右から1撃目を繰り出してくる。

(ここ!)

 “加速”

 目の前の初心者狩りがまるでビデオのスローモーションを見ているかのように遅くなって行く。

 思考の“加速”

 最初できた時は夢を見ているのだろうかとさえ思った、まさかこんな馬鹿げたことがゲームでできるなど思ってもいなかった。

 いやゲーム、仮想現実バーチャルリアリティだからこそできるのかもしれない。

 素人の俺にそんなことが分かるはずもない。

 使えるものは使うただそれだけだ。

 遅く見えるだけでけして俺のスピードが上がったわけではない、だがこれだけ遅く見えれば避けるのは容易だ。

 ゆっくりと右から左に振られる剣を、剣の届かないぎりぎりの所で俺がゆっくりと止まる。

 そのほんの1,2cm前を剣が通り過ぎていく。

 俺から見るとまるで遊んでいるかのように見えるが、実際は普通の速さで進んでいるのだ。

 1撃目を避け1歩前に進む。

 そして左からゆっくりと右へと進んでいく2撃目をしゃがんで避ける。

 2撃目を避けさらに1歩前へ。

(次を避けて止めを刺す!)

 3撃目が上から振り下ろされる。

 それを左へ避けさらに1歩前へ。

 その瞬間スローモーションで進んでいた世界が急激に速さを取り戻していく。

(ぐっ! MP切れ!)

 MPが切れたのだ。この“加速”はものすごくMPの消費が激しい、しかもこの思考の“加速”は1秒毎にMPが消費されていく。

 急に速さを取り戻した世界について行けず動きが一瞬止まる。

 チャンスとばかりにそれを見た初心者狩りが再び剣を振り上げる。

 MPが切れたのだこれを避けたところでもう俺に勝ち目はないだろう。

 ここで相手よりも早く攻撃する、もはやそれしか勝つ方法はない。

 おそらくどちらも1撃で死ぬ状態なはず。

(先に攻撃した方が勝つ!)

 真っ暗な森の中、振り上げられた剣と握られた拳がほぼ同時に動く。

(速く! 速く! 相手よりも速く!)








 ○○新聞社、という名のギルドを作って半年近くが立つ。

 最初の頃はゲーム内で新聞なんてとよく馬鹿にされたものだが、今や多くのプレイヤーが読むようになり○○新聞を知らないものなどゲームを始めた初心者プレイヤーぐらいしかいないだろう。

 ここまで来るのになかなか苦労した。最初は無料でひたすら街で配り続け少しずつ少しずつ読むプレイヤーが増えていった。

「マスター、なんか荷物が届いてますよ」

 メガネを掛けた三つ編みの女プレイヤーが箱を持って近づいてくる。

「エリコ君、私のことは編集長と呼べといつも言ってるだろ」

 エリコ君は私がギルドを立ち上げたときから一緒にいるプレイヤーの1人だ。

「すいません。編集長、荷物が届いてますよ」

「なんだいったい」

 プレイヤーはホームにアイテムなどを送ることができる、つまり○○新聞社のホーム宛てに誰かが送ってきたのだ。               

「誰からだ?」

「それが名前が書いてないんですよ」

 たまにこんな感じで無記名で荷物が送られてくることがある、まあ大抵は悪戯か嫌がらせだが。

 荷物を受け取り中を確かめる。

「……」

 中には2枚の写真が入っていた。

 これはキャンピングカメラというアイテムで取られた写真だ。キャンピングカメラはどこの街でも売っている、ただしかなり値が張る代物だ。

「編集長何が入ってたんですか?」

「エリコ君……」

「な、なんですか?」

「次の新聞のネタの変更だ」

「えー! でももう次の新聞できちゃってますよ」

「そんなもんは中止だ、急いで作り直すぞ」

「む、無理ですよ~」

「うるさーい! いそいで人を集めろ!」

「わ、わかりましたー!」

 バタバタと走り去っていく。

 久々に面白ネタが手に入ったのだこれを使わない手はない。

「ふふふ、面白くなってきたぞ」

 部屋の中で1人不気味な笑みを浮かべていた。








 ズズーとアイスコーヒーを啜る。

 今日も雲ひとつない空がどこまでも続いている。

 視線を空から下に戻すと、通りの向こうから茜が走ってこっちに向かってくるのが見える。

「はぁはぁ!」

「どうしたそんなに急いで」

 俺が声を掛けると茜は息を整え、俺に突きつけるように手に持っていた物を見せてくる。

「これあんたの仕業でしょ!」

 突きつけられた物……○○新聞を受け取る。

 新聞には「ついに明かされる初心者狩りの正体!?」とでかでかと書かれていた。

 そしてその下に2枚の写真が載っている。

 左の写真は真っ黒な人の形をした影が倒れている写真、右の写真は左の写真と同じ格好で人が倒れている写真だ。その右の写真は倒れている人の顔がばっちり映っている。

 おそらく右の写真が初心者狩りの正体だという意味の写真だろう。

「知らねえよ」

 そう言って茜に新聞を返す。

「うそ! 絶対うそ! このタイミングはあんたしかありえないわよ」

「んなわけないだろ、大体初心者狩りなんて興味ないって言っただろ」

「俺は楽しんでゲームをしてる人を弱いもの虐めみたいにPKして回るやつが許せない! って力説してたじゃないの」

 そういえばそんなことを口走ったかもしれない。

「そ、そうだったっけ? 覚えてないな~」

「目をそらして言っても説得力ないわよ」

 茜が呆れたように俺を見てくる。

「新聞に書いある、無記名で写真を送ったのってあんたなんでしょ?」

「ちがうって言ってんだろうが」

「なんでうそつくのよ」

「うそじゃないから! なんでそんな決め付けんの! 俺お前が思ってるよりダメな奴だから! ほんとダメな奴だから!」

「分かったわよ、もう聞かないであげるから私のギルドに入りなさい」

「なんでだよ! どうやったらそこで俺がお前のギルド入る事になるんだよ!」

「よーし、じゃぁ今からウチのギルドのホームに行くわよ」

 俺はサッと立ち上がり走ってスズメの涙から逃げ去る。

「誰がいくかー!」

「ちょ、逃げるんじゃないわよ!」

 後ろから茜が追いかけてくる。

「追いかけて来んじゃねーー!」

 サマルガルドの街を全力で走り抜けて行く。

 ゲームの中は雲ひとつない空がどこまでも続いていた。




どもー。

最初で言っておきます、けしてこれで完結ではありません。


今回で第一章、初心者狩り編は終了です。

おかげさまで取り合えずの目標である初心者狩り編をなんとか書ききることができました。

しかし最初のころよりも文章を書くのが下手になってきた気がするのは何ででしょうか?

まあきっと今からうまくなっていくと信じてやっていきます。

ここ2,3話かなり速く更新することができてましたが、次は少し遅れるかもしれません。できるだけ速く更新できるようにがんばりますが。

文章のおかしい所、誤字があったら教えてください。あとできれば感想があればぜひお願いします。

ではこれからもよろしくお願いします。


 

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