レベル6 あしたのために その3
ズズー。
しばらく来ていなかったスズメの涙で、久しぶりにアイスコーヒーを楽しんでいる。
この3日ほどはひたすらモンスターと戦っていた。
スキルを覚えるためにレベルを9にする必要があったのだ。まあレベルは格闘を覚えたおかげで1日でレベル9にすることができた、あとは何をやっていたかと言うと技術スキルである投てきスキルのレベルをひたすら上げていたのだ。
技術スキルはそれを使用すればするだけ成長していく、前にも言ったが成長速度は人によって違うらしいが。
これに結構時間がかかった、なんせレベルをこれ以上上げられない状態のため、極力モンスターを倒してはいけないのだ。モンスターに物を投げては逃げる投げては逃げるをひたすら繰り返していた。
まあ運良く俺の投てきスキルの成長速度は早かったらしく結構なスピードで上がっていた。
「やっほ~」
考え事をしていて気付かなかったが茜がすぐそばまで来ていた。
「よう」
「最近来てなかったけど何してたのよ」
そういって相変わらず勝手に向かいの席に座る。
「まあレベル上げだな」
「ふ~ん」
茜はそういって少しテーブルに乗り出すように聞いてくる。
「で? 結局格闘は覚えられたの?」
「ああ、おかげ様で使えるようになったよ」
「よかったじゃないの」
うれしそうに茜が言う。
「お前になんかお礼しないとな」
「別にいいわよそんなの。あ、でもやっぱりお礼してもらおうかな~」
途中で思い出したのか言い直す。
「えとね……」
「言わなくてもいい、分かってるよ」
茜の言おうとしていた事を途中で止める。
俺は笑顔で、右手の親指だけを持ち上げてグーサインをする。
「ここのアイスコーヒーはうまいもんな」
「違うから! 全然違うから! なにいい顔でアイスコーヒーなんか奢ろうとしてんのよ! どう考えてもウチのギルドに入るってことでしょうが!」
「おいおい、アイスコーヒーなんかとはなんだ! ここのアイスコーヒーうまいから! めちゃくちゃうまいから! まじうまいから! 味しないけどな!」
激しく言い返す。
「ふー、まあいいわよ別に。大体あんたがお礼なんておかしいと思ったのよ」
ため息混じりに言う。
それからズズーとアイスコーヒーを啜ってから聞いてみる。
「なあ、自分よりレベルの高いやつに勝つにはどうしたらいいと思う?」
「そうねー」
茜は考えるように空を見上げる。
「装備ね、相手より強い装備でレベル差を補うとかじゃない」
「装備ねー」
「それがどうしたのよ?」
「いやまあ特に意味はないんだけどな」
そう言ってアイスコーヒーを飲み干し立ち上がる。
「じゃ俺行く所があるから」
茜に別れを告げそのまま歩き出そうとするが、なにかに服を引っ張られる。
後ろを振り返って見ると茜が俺の袖を掴んでいた。
「なんだよ」
「まだコーヒー奢ってもらってないんだけど」
「結局飲むのかよ!」
チリーン
鈴の音を流しながら扉を開ける。
この店……昼行灯は前来た時と同様に小さな照明一つで照らした薄暗い店だった。
「いらっしゃい」
聞き覚えのある声が店の奥から聞こえてくる。
俺は無言で店の奥へと進んでいく。
数m進むと喋った相手がよく見えてくる。
「なんだおまえか」
あんまり興味なさそうに小梅が言う。
「なんだとは失礼な」
小梅は相変わらず椅子に偉そうに座っていた。
こいつもしかしてずっとこんな所に引きこもっているのだろうか。
「お陰で目的のプレイヤーと合えたよ」
「あっそ」
まったく興味なさそうに答える。
「……」
「私はね情報屋だよ、情報屋は情報を売るのが仕事なんだ、売ったあとはお前が死のうがどうなろうが私には関係ないね」
相変わらず見た目に反して可愛くないやつである。
文句の1つでも言ってやりたい所だが、今日はこいつにお願いがあってきたのだ、できるだけこいつを怒らせないようにしなければならない。
「そうか、でも一応お礼を言っとくよ」
そう言うとまるで変なものでも見るような目で見てくる。
「おまえ変なものでも食べたのか?」
「はっはっはっ、何言ってるんだい僕はいつもこんな感じさ」
「気持ち悪いからいっぺん死んで来い」
この小娘は……。
俺が無言で睨んで見るが、まったく気にした風もなく言ってくる。
「で? 今日は何の用だ? まさか礼を言いに来たわけじゃないんだろ」
「実はちょっとお願いがあるんだけど……」
絶対に断られるだろうから、非常に言いにくい。
「なんなんだよお願いってのは」
「あのさー…………金貸してくれない?」
思い切って言ってみる。
「断る」
予想はしていたが即答で却下された。
「たのむ、そこをなんとか」
「なんで私がお前に金貸さなきゃならんのだ」
「だってお前しか貸してくれそうなやついないんだもん」
最初は茜に貸りようかと思ったのだが、これ以上あいつに貸しを作ると本当にギルドに入らなければならなくなりそうなので、小梅から貸りることにしたのだ。
「知るか」
「マジでたのむ」
「帰れ、そして死ね」
「よーし分かった、俺も男だ」
道具袋からアイテムを取り出す。
「こいつをお前にくれてやる、だから貸してくれ」
俺の取っておきのアイテム……ひのきのぼうを小梅に突きつける。
「いらねえよ! 誰がそれもらって喜ぶんだよ!」
「いやほら武器装備できないプレイヤーとかきっと欲しがるって」
「そんな特殊なやつそうそういねえよ! 大体そんな運営がおふざけで作ったような装備してるやつなんてお前ぐらいだよ!」
「うそ! まさかこれでも駄目だとは……」
「なんだよその以外だ、見たいな言い方は。全然以外じゃないから」
小梅はハァー、とため息をついて聞いてくる。
「なんで金貸してほしいんだ?」
「初心者狩りを倒すのに金がいる」
「ほー」
小梅がちょっと面白そうな顔をして言う。
「初心者狩りはお前よりレベル10以上高い、そんなやつを倒せるのか?」
「ああ、初心者狩りは防御力はあまり高くないうまくすれば倒せる」
「引くいといってもレベル差はでかい、少なくとも5,6撃は攻撃しないと倒せないぞ。しかもお前はやつの攻撃を1撃食らっただけで死ぬんだぞ」
たしかにそうだ、やつの攻撃が掠っただけで死にかねない。
「分かってる、だから必要なものがいくつかあるんだ」
そのあと小梅と俺はしばらく無言で睨み……見つめあっていた。
「いいだろう……。金を貸してやる」
「よっしゃ!」
うれしさのあまり思わずガッツポーズしてしまう。
「そのかわり利子を付けて返してもらうからな」
「やっぱり?」
「当たり前だ」
おそらくそうなるんじゃないかとは思っていた。
「で、いくら必要なんだ?」
「え~と、30万ゴールド」
ちなみにひのきのぼうと布の服は50ゴールド、スズメの涙のアイスコーヒーは1ゴールドだ。
「いいだろう。利子は十一だからな。」
「は!? 十一っておまえ十日で3万じゃねえか! 無理に決まってんだろ!」
その後激しい交渉の末なんとか1ケ月1割にまで下げることに成功した。
「それと欲しい情報があるんだけど」
「おまえなー。金貸りといて情報も漬けで聞こうってのか」
「うんまあ」
ハァー、と再びため息を付く。
「もう分かった、言ってみろ」
「次初心者狩りが出そうな時間と場所が知りたいんだ、それとこの街に調合の得意なやついたら教えて欲しいんだけど」
調合は技術スキルの1つで、いくつかの材料を調合させさまざまなアイテムを作り出すスキルだ。
「調合の方はサマルの中央広場から西に少し行った所にある魔法の館って店を尋ねてみろ、そこにいるダロメというプレイヤーははなかなか腕もいいし人もいいぞ。初心者狩りの方は……確証はないが2日後の日が落ちてすぐに魔性の森に行ってみろ」
相変わらずなんでそんなこと知っているんだか、まあ聞いても教えてはくれないだろうが。
「分かった、じゃ俺はこれで」
「おおー、帰れ帰れ」
シッシッと猫でも追い払うように手を振る。
店を出ようと扉に手を掛けるが、ふと止まる。
「あ、そうだ老師……爺さんがお前によろしく言っといてくれって言ってたぞ」
「……そうか」
扉の所まで来たせいで薄暗い部屋の奥にいる小梅の表情は見えない。
どうゆう関係なのか聞くつもりだったが、なにか聞いてはいけないようなそんな感じがしたのでそのまま昼行灯を後にした。
今回は早々に更新できました。いつもこんな感じで更新できればいいんですがね。一応次の話で第1章初心者狩り編は完結する予定です。それ以降は第2章が始まります(たぶん)。では次も早く更新できるようがんばります。