レベル4 あしたのために その1
チリーン
鈴の音を鳴らしながらドアを開けると広さ7、8m四方の部屋に棚が幾つか並んでいる、その棚によくわからないアイテムがずらっと並んでいる。
天井に小さな照明が1つだけぶら下がっており、薄暗い部屋はちょっとしたお化け屋敷のような雰囲気をかもし出している。
昼行灯と店のドアに小さく書いてあったのでここで間違いはないだろうがなんとも怪しい店である。
部屋の先に暗くて見えにくいが人がいるのが分かる。
「いらっしゃい」
狭い部屋の中でなんとか聞こえるくらいの声で喋りかけてくる。
おそらくこの店の主であり裏で情報屋をやっている、たしか小梅とか言う名前のプレイヤーだろう。
ゲーム内で情報屋などやっている奴など今まで見たことがない、情報屋ということは情報を売って金をもらうということだろうが、ゲームでそんなことして楽しいのだろうか。
まあどうであれ、まともなプレイヤーが情報屋などできるわけがない。
少し緊張しながらゆっくりと店の奥へ進んでいく。
するとそこには社長が座っていそうな椅子に堂々とした態度で幼女が座っていた。
年は7.8才くらいだろうか、真っ黒な髪を後ろで左右に縛った小さくてかわいらしい女の子だ。
「……」
無言で180度反転し店のドアへと歩き出す。
「おい!」
後ろから幼女が呼び止めてくる。
「…………」
ちらっと後ろを振り返るが、何事もなかったようにそのまま無言で店のドアへと……。
「おい! ちょっとまて!」
再び呼び止めてくる。
「なにか御用でしょうか?」
後ろを振り返りながら聞いてみる。
「それはこっちのセリフだろうが! 店に入ってきといて人の顔見るなり無言で出て行こうとするんじゃねえよ!」
幼女は椅子の上の立って怒鳴りつけてくる。
「いやなんか想像してたのとちょっと違いすぎて……」
「私だって好きでこんな姿してんじゃないんだよ!」
このゲーム、姿もランダムなのだがまさかこんな姿があるとは思わなかった。
「まあいい。どうせアイテムを買いに来たんじゃないんだろう?」
幼女もとい小梅はそう言って再び椅子に座る。
「ここで情報屋をやっていると聞いたんだけど……。でもなんでわかったんだ?」
「こんな店来るやつはみんなそっちに用があるやつばかりさ」
小梅はそう言いながら机を蹴って椅子をくるくると回し始める。
まさしく子供がお父さん椅子で遊んでいるような感じだ。
「さっそくなんだけど、欲しい情報があるんだ」
かわいい姿にちょっと和んでしまったが本題に入る。
「まあいいんだけどあんた金持ってんの? 見た感じ超初心者っぽいんだけど」
俺の布の服とひのきのぼうを見ながらちょっと馬鹿にしたように言ってくる。
ちなみにひのきのぼうは初心者狩りの野郎に折られたので新しく買ったものだ。
「俺あんまり持ってないんだけどいくらぐらいなんだ?」
「その情報によるけど、たぶんあんたじゃ払えないね」
「う……」
予想はしていたがやはり金が足らなかったようだ。
「まあでも」
小梅はくるくると回っていた椅子を止める。
「最初の1回はサービスにしてあげてもいいぞ」
「え、マジで!?」
「ああ、まあやばい情報とかは教えられんがな」
「ありがとー、助かるよ」
見た目に反して言葉遣いと態度がでかいやつだと思ってたが、どうやら結構いいやつのようだ。
「で? なにが聞きたいんだ?」
「実は初心者狩りの情報が聞きたいんだ」
「初心者狩りね~。なにあんたあれに襲われたの?」
「ぐっ……」
この小娘は痛いところを突いてきやがる。
「そ、そんなことはどうでもいいだろ!」
「ふ~んまあいいけど」
再び椅子を回しながら何かを思い出すようにしゃべり出す。
「初心者狩りと言われてるやつは大体レベル20前後。武器はグロッグバスター。防具は不明。闇の衣を装備している。サーチ系のスキルを覚えていて通常より広範囲を見ることができる、あとサーチした相手のレベルを見ることができるな」
「ちょ! はやいって!」
「しょうがないな、ゆっくり言うぞ」
ため息を混ぜつつもう一度ゆっくりと言いなおす。
「20前後? 高レベルって聞いたんだけど?」
「そう言われているが実際は20ぐらいだ。おそらく攻撃特化型だな防御力はあまり高くないだろう。それと初心者狩りは用心深いやつでレベル9以下でソロプレイヤーしか襲わない、2人以上はレベルが1でも絶対襲わない」
ということはレベル9以下でレベルが10以上高い奴を一人で倒さないといけないわけか。
「難しいな……」
「なんだ倒す気か? いくらオリジナル要素が多いとはいえRPGにおいてレベルは絶対と言っていいほど重要な要素だぞ。10以上高い奴を倒すのは無理とは言わないが、かなりきついだろうな」
「だよなー……。しかしよくレベル20とかの情報を持ってるな。初心者狩りの正体とか知らないのか?」
冗談で聞いてみる。
「…………」
あれ? え? もしかして?
「知ってんの?」
「知らないよ、知ってても教えないけどな。まあそれ相応の金を積めば別だがな」
小梅のが二ヤっと悪そうな顔で笑う。
結構いい奴だと思ったのは取り消そうかな……。
「私が知ってるのはそれぐらいだよ、他になにか聞きたいことはあるか?」
「あーあと1つ、武器の格闘持ちで親プレイヤーを探してるんだけど誰か知らないか?」
「格闘持ちねー、まあいる事はいるけど」
「本当か! 誰だ!?」
「私も名前は知らんが、ここ最近精気の滝にいるって聞いたね」
「精気の滝?」
「そんなことも知らんのか、サマルから西にちょっと行ったところにあるよ。東の魔性の森同様で初心者用のダンジョンだモンスターはあまり強くない」
「そうか、それなら俺でもいけるな。でも名前分からないんじゃ見つけられないか」
「それは大丈夫だ」
「なんで?」
「私とは反対の意味で特徴のある奴だからな、まあ見ればすぐに分かる」
どういう意味だろうか? まあ考えてもしょうがない。
「取りあえず行ってみるは、じゃありがとな」
そう言って店からでようとドアに手をかけた時、後ろから小梅がボソっととんでもない事を言ってくる。
「それと今の格闘の情報はつけとくからな」
さっと後ろを振り返る。
「ちょっと! サービスっていったじゃねえか!」
「最初の初心者狩りの情報はな。2つ目は有料に決まってんだろ」
「なら教える前にそう言えよ」
「どうせ金持ってないんだろ ?だからつけにしてやると言ってんだよ」
下から余裕顔で見上げてくる。
「詐欺だ! 詐欺だー!」
「うるさいさっさと行け」
しっしっと野良猫でも追い払うように手を振る。
結構いいやつと思ったのは焼却炉で完全に燃やすことにした。
精気の谷はサマルから平原を西にしばらく行ったところにあり、魔性の森同様で初心者用のダンジョンだ。
今その精気の滝入り口に着いたところだ。サマルからここまでずっと平原だったがこっから先は山道が続いている。
少し前に精気の谷と言う事は知らずにここまで来た事があるが、まだレベル的に早いと思いここで引き返したのだ。
「ここか……」
マップを確認しながらつぶやく。
こうして改めてマップを見てみると、ゲームを始めてからサマル周辺しか行ってないことが分かる。すぐ死んでしまう為あまり遠くに行こうとしていなかった、おかげでマップは9割以上真っ黒く染まっている。しかもNPCや他プレイヤーと会話をして情報収集などといった事がめんどくさくて、全然やっていなかったのでどこに何があるのかまったく分からない。
「これはまずいな、この件が終わったら色んなとこに行ってみるか」
そんなことをつぶやきながら滝を目指して山道を進んでいく。
しばらく山道を進んで行くと道が左右に別れいている場所に出た。
「どっちに行くかな……」
左は道が続いているが右は岩で先が見えない、取りあえず道の先を見てみようと右の道を少しだけ進んでみる。
「うお!」
岩で見えなかったがすぐ近くに人の半分ぐらいの身長の緑の肌をしたモンスターが立っていた。
「ギシャー!」
モンスターも俺に気づいたのか奇声を上げる。
頭の上にゴブリンと書いてあるモンスターは持っている斧を振り上げて突っ込んでくる。
「くっ! 雑魚モンスターのくせに俺よりいい武器を持ってやがる!」
八つ当たり気味にひのきのぼうを振りまくりゴブリンを消滅させてやった。
「ふ~、思ったよりも弱かったな」
なんの根拠もないが取りあえず右に進むことにした。
そのまま進んで行くが行き止まりになりそうな感じはしない、おそらくこっちが正しい道だったのだろう。こうなると左はどうなっていたのか気になってしまう、俺はゲームではできるだけ間違った道を最初に行きたいと常々思っている。最初っから正しい道を行くと他の道はどうなってるのかとか、あっちにはアイテムが落ちていたんじゃないかと気になってしょうがない。
一瞬引き返そうかと思ったが今はやめておくことにした、親プレイヤーがいつまでもこのダンジョンにいるとは限らないできるだけ急いだ方がいいだろう。
それからしばらく進んで行くうちに3,4匹のゴブリンと遭遇しすべて倒すことに成功した。
ゴブリンはそこそこ経験値がいいのかついさっきレベルが1つ上がった。
「レベル7か……」
ゲームを始めて1週間近くたちようやくレベルが7になったのだが、あまり素直には喜べなかった。
初心者狩りはレベル9までしか狙わないのだ、間違ってレベル10にでもなってしまったらもう初心者狩りに会うのは不可能に近いだろう。
ここからはできるだけモンスターを倒さないようにした方がよさそうだ。
このダンジョンに入って1時間ほどさ迷っただろうか、遠くのほうに滝があるのが見えてくる、この距離からでもザーと水の音が響いてきている。
「……」
しかしゴールは目の前なのだがその場を動けずにいる。
「…………」
動けずにいる原因を無言で見つめる。
滝へと向っている道の真ん中に大の字で人が倒れている、背中しか見えない為よく分からないがNPCでもモンスターでもないのは確かだ。
(どうするよこれ)
取り合えず心の中で3つの選択肢を導き出す。
1、助け起す
2、無視して先に進む
3、止めを刺す
(止めを……無視しよう)
あまり広い道ではないので倒れている人のすぐ近くを通らなければならない。
できるだけ音を出さないように慎重に進んでいく。
近づくにつれ倒れている人が鮮明に見えてくる、1m近くまで来ると後ろ向きに倒れていてもどんなやつか大体分かる。
爺さんだった、倒れているのは髪の毛が真っ白なよぼよぼの爺さんだった。
そのとき小梅の言葉が蘇る。
「私とは反対の意味で特徴のある奴だからな、まあ見ればすぐに分かる」
(こいつだー! 絶対こいつだよ! もはやこいつしかありえねえよ!)
心の中で全力で叫ぶ。
この時点で選択肢の2と3は消え、強制的に1を行わなければならなくなってしまった。
すごく関わりたくはないが起きる気配がないのでゆっくりと近づいて話かけてみる。
「あの~、大丈夫ですか?」
声を掛けるといきなりガバ! と起き上がった。
「うお!」
突然のことに思わず尻餅をついてしまった。
「ついてこい」
突然立ち上がった爺さんはそう言って180度回転し滝の方へ向かって歩き出す。
「ちょ、え?」
なに? どういうこと? てか何で倒れてたの?
よく分からないが爺さんはこっちのことなどお構いなしにどんどん進んでいく、仕方なく爺さんの後を付いていく。
なにもしゃべならいまま滝の根元までたどり着く。
そこで立ち止まった爺さんがこっちへ振り返り聞いてくる。
「わしになにか聞きたいことがあるのじゃろ?」
「あ、ああ。なんであそこでに倒れ……」
「そうじゃ、わしは格闘の親持ちプレイヤーじゃ」
俺の質問を途中で掻き消すように喋りだす。
この爺さんまったく俺の話を聞いてねえな。
「ん? なんで俺が親プレイヤーを探してるのを知ってるんだ?」
「親プレイヤーは格闘持ちプレイヤーを見れば親か弟子かが分かるのじゃよ」
そうだったのか、しかし親プレイヤーはそんなことまで分かるなんて弟子プレイヤーとは随分待遇が違うな。
「じゃ話は早い、俺を弟子にしてくれないか」
「ふ~む。」
爺さんは考え込むようによぼよぼの顔を曇らせる。
「まあいいじゃろう」
「おおー! ありがとう」
意外と簡単にOKがでたな、小梅の様子からちょっと難しそうな気がしていたがどうやら杞憂だったようだ。
「あ、自己紹介がまだだったな」
なんかいろいろ突然過ぎて忘れていた。
「俺は……」
「待て!」
突然爺さんが大声で叫ぶ。
「な、なんすか?」
「名前など我々の間に必要のないものじゃ、師匠と弟子ただそれだけじゃ」
なんかよく分からんが……かっこいいぜ!
「分かりました! では……老師、老師と呼ばせていただきます!」
老師の特に意味もないかっこいいセリフにテンション高めで答える。
「うむ」
満足そうに頷く。
「所で老師、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんじゃ」
「なんでさっきあんな所に倒れ……」
「よし、早速始めるかのー」
「……」
意地でもさっきの倒れていたことは答えないつもりらしい。
取りあえず親プレイヤーを見つけるという第一歩は進めたが、初心者狩りを倒すという目的地まではまだまだ遠い道のりである。
かなり遅くなりましたがなんとか更新できました。今回はちょっと自分的にあまりいい出来ではないと思ってます。次はできるだけいい物が書けるようがんばりますのでよろしくお願いします。それといいサブタイトルが思いつきませんでしたが、あまり気にしないでやってください。