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RPGで一番大切なもの  作者: ロロ
第1章
4/18

レベル3 初心者狩り

スズメの涙、サマルガルド中央広場からすこし西に行ったところにある小奇麗な宿屋である。

 このスズメの涙では宿屋業だけでなく街路に張り出した喫茶店、まあ俗に言うカフェテラスも兼ねて営業している。


 ゲームを始めて今日で1週間目になるだろうか、スズメの涙で休憩がてらアイスコーヒーを飲むのがすっかり日課になってしまった。

 ゲームだから飲み食いしても腹はふくれないのだが、まあ気分の問題だろう。

 この1週間で俺もそこそこ成長しだろうか、今現在の最強装備(ゲーム内ではおそらく最弱装備)であるひのきのぼうと布の服を装備し、スライムくらいなら2,3匹同時(スライムの攻撃3回食らったら死にますが)に相手にできるようになった。

 レベルも多少は上がったが、すぐ死ぬのであんまり上がっていない。

 スキルにいたっては新しく覚えた物はなし、最初にあるスキルの使い方もまだ判明していない。

 こうやって振り返ってみるとあんまり成長していない気がする……。

 うん、スライムを倒せるようになっただけでも十分成長してるな、そういうことにしておこう。

 しかし使えるスキルがないというのはかなりきつい、通常攻撃のみでどこまで行けるだろうか。

 ヘルプなどで調べてみたが、スキルには3種類存在する。

 まずはこのゲームの要と言ってもいいであろうオリジナルスキルだ。

 最初で説明した用にオリジナルスキルはランダムに覚えるスキルで、かなりの種類があるらしくレアスキルやらも多数存在するらしい。オリジナルスキルを覚えないプレイヤーもいるとかいないとか。ちなみに俺には使い方が分からないが“加速”というスキルがある。

 次は補助スキルだ。

 補助スキルと言っても回復とか蘇生とかいう補助ではない、このスキルは店で買ったりクエストの報酬で貰えたりするスキルで、オリジナルスキルがないやつとか使えるのがないやつの為の補助スキルなのだ。武器屋や道具屋のようにスキル屋という店がありそこで購入可能だ。でもこの補助スキルは威力が乏しかったりモーションが遅かったりしてオリジナルスキルに比べて使い勝手はあまりよろしくない。まあ他にスキルがないプレイヤーにとってはありがたい代物だろう。

 ちなみにこの補助スキルは非常に高い、ゲームを始めて1週間の俺には手が出せる代物じゃない。

 最後は技術スキルだ。

 技術スキルは料理とか錬金とか投てきとか言ったスキルだ、これは全プレイヤー最初から覚えている。成長速度だとか限界成長値はランダムらしい。

 と、まあこれが調べた結果である。

 補助スキルはお金が足りないし、技術スキルは使えるがレベルが低いし戦闘にあまり役立つスキルでもないのであまり上げる気はしない。

 要するに今はレベル上げと金貯めをしないとスキルはどうにもならんわけだ。

 テーブルに置いてあるアイスコーヒーをズズーっと啜る。

 なんとなく通りの方に目をやると、見慣れたやつがこっちに向ってくるのが見える。

「あいつまた来たのか」

 めんどくさそうに呟く。

 そいつは迷う事無くまっすぐにこちらへ向って歩いて来る。

「やほ~、相変わらずここでダラダラしてるわね」

 身長は俺より少し低めで、茶色の髪を肩まで伸ばしている。見た感じ15、6才といった所だろうか、パッチリとした目が特徴的な美人というよりはかわいいといった感じの女性キャラだ。

 かなり周囲から目立っている、目立っているのはその容姿のせいではない。

「おまえも相変わらずすごい格好だな」

 目立っているのは容姿ではなくその格好、セーラー服だ。

「このアバターはウチのギルドの正装よ」

 そう言うと勝手にテーブルの向かいの椅子に座る。

「そんな事より、そろそろウチのギルドに入る気になった?」

 この女性キャラ、(あかね)と初めて会ったのはゲームを始めて3日目のことだった。



 狩りに疲れてスズメの涙でアイスコーヒーを飲んでいた時、突然女が話かけてきた。

「こんにちわ」

「こ、こんにちわ」

 突然の事でちょっと焦ったがなんとか返事を返す。

「私茜っていいます、突然なんですけどウチのギルドに入りませんか?」

 あー、ギルド勧誘か。ギルド勧誘を受けるのはこれで2回目だ、今のところギルドには入る気はないので断ろう。

「あー、すいません俺ギルドには入らない予定なんで」

 これで大丈夫だろう、前の誘いもこれで断ったのだ。

「まあそう言わずに、ウチのギルド“生徒会”って言うギルドなんですけど、体験でもいいですから入りません?」

 あれ?

「いやだから入らないって」

「まあまあ体験でいいから、ね」

 ね。じゃねえよ。

「だから入らないって」

「いいじゃん、楽しいって。それにウチのギルド結構有名なんだよ」

「……」

 めんどくさくなってきたので無言で立ち上がる。

「お断りしますー!」

 そう叫びながら走って逃げ去る。

 これで逃げ切ったかと思ったが、やつは予想以上にしつこかったのだ。

 それからほぼ毎日スズメの涙にいるとこいつが勧誘に来るようになった。



「だからずーーーと前から入らないって言ってるだろ」

 あんまりにもしつこいので“生徒会”についちょっと調べてみたのだが、ギルドメンバー数が4人なのにも関わらず、ゲーム内でもかなり強力なギルドらしい。特に会長ことギルドマスターはゲーム内でも最強クラスのプレイヤーの1人らしい。

「まあいいわ、気長に勧誘するから」

「大体“生徒会”は少数精鋭のギルドだろ? なんで初心者の俺をそこまで誘うんだよ」

 つまりこいつも変な格好をしてはいるが、かなりの高レベルプレイヤーなのだ。

「ん~、感かな。今は弱っちいけどあとでかなりのやつになると私は睨んでるのよ」

「そうだといいけどな~」

 本当にそうだといいんだけど……。

「まあそんな事より、これ見てよこれ」

 そんな事って、お前はそんなことしに毎日来てんじゃねえか。

 茜はそう言うと手に持っていた紙切れを俺に渡してくる。

 紙切れには「被害者続出!? 初心者狩りまたも現れる!」とでかでかと書いてありその下に男性キャラのインタビュー写真が張ってある。

 この紙切れは“○○新聞社”(まるまるしんぶんしゃ)とか言う物好きなギルドが発行している、○○新聞だ。

 ちなみにこの○○と言うのはOriginalOnline(オリジナルオンライン)のイニシャルであるO(オー)を○(まる)と読んで○○新聞と付けたらしい。

 新聞といっても文字でびっしりと埋まってあるわけではなく、写真をメインに最近の事件やら流行ってるものなどのニュースが書いてある、新聞といっても学級新聞のような物だ。まあゲームのシステム上それが限界だからしょうがない。

 しかしこの○○新聞はかなりプレイヤーが読んでいるらしい、ゲーム内で新聞を作るなど俺には考えられないが色々と情報が手に入るのでありがたいのだろう。

「初心者狩り? なにそれ」

 まだ1週間しかプレイしてない俺の耳には届いていない話だ。

「知らないの? ちょっと前からレベルの高いプレイヤーが初心者だけを狙ってPKして回ってるらしいのよ」

「へ~、犯人は分かってないのかよ?」

「それが闇の衣を装備してるらしくて、犯人がわからないのよ」

「闇の衣?」

「闇の衣ってのは装備すると姿が真っ黒くなって誰だか分からなくなるの、夜にしか装備できないらしいけど。結構レア装備でね私も欲しいのよねー」

「ふ~ん、じゃ犯人分からないじゃん」

「相手のHPを0に、つまり相手を倒せば闇の衣の効果はなくなるのよ」

「じゃお前が倒して来いよ」

「何人か討伐しようとしたらしいけど高レベルプレイヤーの前には現れないらしいわ、たぶんサーチ系のスキルを持ってるプレイヤーじゃないかって話よ」

「ふ~ん」

 興味なさそうに返事をしてアイスコーヒーをズズーと啜る。

「なに? 全然興味なさそうね」

「まあどうせ俺には関係ないしな。そんなやつにやられるやつが悪い」

 そう言ってアイスコーヒーを全部飲み干す。

「さてそろそろ狩りにでも行きますかね」

 ひのきのぼうを肩に担いで立ち上がる。

「あんたさー、まだひのきのぼう装備してんの?」

「うるせー、これしか装備できないんだから仕方ないだろ。というか俺の相棒であるひのきのぼうに文句をつけるんじゃないよ」

 俺にとって幾つもの戦場をともに戦ってきた相棒なのだ。

「本当に何も装備できないの?」

「当たり前だ、ほら見てみろ」

 どうだと言わんばかりにステータス画面を茜に見せ付ける。

「……」

 ふふふ、言葉もでまい。

「ね、ねえ」

 茜がちょっと焦ったように言ってくる。

「あんた格闘のマークが付いてるじゃないの!」

「ん? それはみんな付いてんじゃないの?」

 腕の形をしたマークが光っている。

「格闘は滅多ないレア武器なのよ!」

「レア武器って殴る蹴るはみんなできるだろ」

「それはみんなできるけど、格闘があるプレイヤーは素手で武器を装備したとき並みの攻撃力があるのよ」

「えー! いやいやいやいや俺殴ってもほとんどダメージなかったよ」

 初日のスライムとの決戦を思い出す。

「たしか格闘持ちは師匠と弟子の2パターンあって、師匠は即格闘を発動できるけど弟子は師匠持ちのプレイヤーの弟子にならないと発動できないって聞いたことあるわ」

「弟子ってどうやって?」

「なんか師匠に弟子入りの許可をもらえばいいみたいだけど、どうやるかまでは分からないわね」

「よし、じゃあ師匠持ちのプレイヤーとか知らないのか?」

 これで俺もひのきのぼうとおさらばできるぜ! さっきまで相棒と読んでいたのはもう忘れた。

「……ごめん、私の知ってる人にはいないわね。まず格闘持ちなんてほとんどいないから」

「そ、そうか。ま、まあどっか探せば見つかるだろ」

 一気にテンションが下がってしまった。

「うん、私もちょっと探してみるから」

「お、おう、まあぼちぼちでいいからな」

 頼むぜー! 俺あんまり話すの得意じゃないからまじで頼むぜー!

 言ってることとは裏腹に心の中で懇願するように叫ぶ。





 

 突進してくるスライムを左側に避け、スライムの背中目掛けてひのきのぼう振り下ろす。

「グアアアア!」

 奇声あげながらスライムが消滅していく。

「ふー」

 スライムとの戦闘を終え一息つく。

 茜と別れたあと1人で狩りに出かけたのだ。

 ここは最初のゲームスタート地点のすぐ近くの狩場だ、ここ辺りはスライムがよく沸くので、よくここでスライム狩りをしている。

 空を見上げるともうまもなく太陽が西に沈もうかという所だ。

「そろそろスライムも飽きたきたな」

 スライムもかなりの数狩ってきたので飽きてきた、そろそろ違う狩場に移ろうかと考えながら周囲を見渡してみる。

 ゲームを始めた当初は避けたが、ゲームスタート地点から街とは反対方向に森が広がっている。

「あの森にでも行ってみるか」

 たしかこの森は魔性の森とか言う名前だった気がする、この森のモンスターはあまり強くないと聞いたのでたぶん大丈夫だろう。

 太陽が沈んだのか辺りがゆっくりと暗くなっていく。

 特にあてもないのでしばらく森の中を適当に歩きまわる。

 ガサ!

 後方で草が擦れる音が聞こえる、すぐに後ろを振り向くが特に何もいない。

 モンスターでもいたのだろうか、念のため草むらの方へ確認に行く。

「よう」

 突然後ろから声をかけらる、びくっと後ろを振り向く。

 そこには右手にギザギザに尖った大剣を握った人型の影が立っていた。

「っ!!」

 あまりのことに驚いてその場を動けずにいると、影がゆっとくりとこちらに移動しながら喋りかけてくる。

「おまえ、……ここで死ね!」

 その言葉で茜との会話を思い出す。

(初心者狩り!)

 そう理解すると同時に影とは反対方向に逃げようとするが。

「逃がすかよ」

 急激にスピードを上げた影が真上に持ち上げた大剣を俺目掛けて振り下ろす。

 ゴシャ!!

 大剣が地面に叩きつけられる、間一髪右側に体を投げ出すように避けたのだ。

 すぐに体を起こし次の攻撃に備える、あんなものかすっただけで即死だ。

 影は地面からゆっくりと大剣を抜くとこちらに向かってさらに大剣を振るってくる。

「はっはっはっ! 避けろ避けろ!」

 笑いながら攻撃してくる影の攻撃を5,6撃なんとかかわしきる。

(くそ! こいつわざと避けられるように攻撃してやがる!)

 おそらく俺が必死に避けるのを見て面白がっているのだろう。

(逃げるのは無理。だったら!)

 影が右上に振り上げた大剣を振り下ろす、それをぎりぎりの所で右に避け1歩前に踏み出す。

「おらぁぁー!!」

 ひのきのぼうを影の顔面目掛けて全力突き出す。

「ちっ!」

 まさか反撃してくるとは思わなかったのか影の反応が遅れるが、ぎりぎりの所で避けられてしまう。

 攻撃で体制が崩れたところに影が体当たりをかけてくる、体当たりを食らって地面に倒れこむ。

(やばい!)

 倒れたまま影のほうを見上げる、影は大剣を真上に持ち上げ今まさに振り下ろそうとしていた。

(死ぬ!)

 影の大剣が俺目掛けて高速で落下してくる。

 寸前の所で右手に持っていたひのきのぼうで大剣を受け止める。

 バキィィ!!

 ひのきのぼうが折れる音とともに右肩に鋭い衝撃が襲う。

 すぐにHPが0になり急激に力が抜けてゆく。

 遠のいていく意識の中、表情の見えないはずの影が馬鹿にするように笑ったような気がした……。











 いつものようにスズメの涙で休憩がてらにアイスコーヒーを啜る。

「今日もいい天気だな~」

 ぼーと空を見上げていると、通りからいつものごとく見覚えのあるやつがこちらに向かって歩いてくるのが見える。

「いたいた。聞いて聞いて格闘のことだけど知ってそうな人見つけてきたわよ」

 相変わらず勝手にテーブルの向かいに座る。

「ふ~~ん」

「どうかしたの? 元気ないみたいだけど」

「いや、別にー」

 やる気がなさそうに答える。

「まあいいや、それで格闘の事だけど。サマルガルドの南東の端に小梅って言うプレイヤーが経営してる昼行灯って店があるのよ」

 プレイヤーはお金を払えば自分のホームを買うことができる、まあかなりの金額が必要だが。

「そこ普通の店らしいんだけど、裏で情報屋をやってるらしいのよ」

「情報屋?」

 視線を空から茜に移す。

「そう、ほとんど知られてないらしいけどかなり腕の立つ情報屋みたいで、大抵の情報は手に入るらしいわ」

「ならそこで初心者狩りの情報も手に入るか?」

「初心者狩り? 手に入るとは思うけど。急にどうしたの? 昨日は全然興味なさそうだったのに」

 そう言いながら何かに気づいたような顔をする。

「あんたまさか……」

「いや、ちがうよ! ちがうって! ただ俺は楽しんでゲームをしてる人を弱いもの虐めみたいにPKして回るやつが許せないだけだよ!」

「昨日と言ってることが間逆なんだけど」

 疑わしそうにじーとこっちを見てくる茜からサッと目をそらして答える。

「昨日の俺はどうかしてたんだよ、うんきっとそうだよ」

「……まあそういうことにしといてあげるわ」

「じゃ早速だけど俺その昼行灯って店に行ってみるわ」

 そう言って逃げるようにスズメの涙を後にした。

 くそー! 初心者狩りの野郎覚えてろよ、俺に手を出したことを絶対後悔させてやる!

 初心者狩りに復讐を誓いつつ昼行灯目指して歩き出す。

 




4話目更新できました。書いてたら乗ってきてなんかすごく早く書けました。一様ここからが本編のつもりです。本編の第一章初心者狩り編といったところでしょうか。~編っていうのちょっと使ってみたかったんですよ。次もできるだけ早く更新したいです。感想書いてくれた方、おかげさまでやる気が出て早々更新できました。本当にありがとうございます。

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