レベル2 ひのきのぼうと布の服
「はぁ、はぁ、はぁ」
肩で息をしながら周囲を見渡す。
「どうやら巻いたようだな、しつこいやつらだったぜ」
周囲にモンスターがいないことを確認してその場に座り込む。
しばらく続いたモンスターとの死闘(追いかけっこ)を潜り抜け、なんとかここまで来たのだが、街らしき物は全く見えない。
これでも感だけで走ってきたわけではない、逃げながらモンスターの少ないほう少ないほうへ向かったのだ。
街に近づけばモンスターの量が少なくなっていくんじゃないかと思ったのだが、当てが外れたかもしれない。
しばらく休憩したあと、また街を目指して歩き出す。
「それにしても、いい天気だね~」
歩きながら雲ひとつない空を見上げてつぶやく、ここ辺りはモンスターも少ないので余裕をかましても大丈夫だろう。
ゲームスタート地点では東の方に見えた太陽が真上に移動している、どうやらゲーム上では現在正午らしい。
スタートから約1時間がたっている、太陽の移動した距離からしてたぶん昼の間は5時間~6時間ぐらいだろう、ということはあと2,3時間ほどで夜になるということだ。
まあ夜になったからといって別に困ることはないだろうが、もしかしたら夜の間はモンスターが強くなるとか、モンスターの数が多くなるとかいう可能性がある。できるなら明るいうちに街にたどり着きたい。
そんなことを考えながら歩いると、数十メートル先の方にいるスライムと目が合ってしまった。
だがスライムはまったくこっちに気づいていないかのように180℃向き直り、尻をこちらに向けてしまう。
基本的に叫ぼうが目が合おうがモンスターの索敵範囲内に入らなければモンスターに気づかれることはない。
幾度となく逃げ続けてきたのでスライムの索敵範囲はほぼ熟知している、範囲内に入らなければスライムなど怖くはない。
索敵範囲内に入らないよう大回りしながら進んでいく。
スライムの真横ぐらいまで移動した時だろうか、突然スライムがこちらを目掛けて走り出した。
「ちょ! まじでか!」
「ブグァァァァ!」
モンスターはプレイヤーを見つけるまでランダムで移動するのだ、突然予期せぬ方向に走り出すことも……。
スライムに背を向けて全力で走り出す。
戦おうかと一瞬思ったが、またスタート地点に戻されるのはごめんである。
しばらく追いかけっこを続けていると、遠くの方に人影が見えてくる。
「人!? ヘルプ! ヘルプーー!」
人影は俺の叫び声に気づいたのかこちら側を向く。
体格は大柄で身長はかなり高い、俺よりも頭1つ大きいだろうか。
「すいません! 助けてください!」
「私の後ろへ!」
見ただけで状況が分かったのか持っている片手斧を構えながら指示をしてくる。
お言葉に甘えて大柄な体の後ろに回りこむ。
俺を追ってきたスライムが途中に入ってきた大柄な障害物に向かって突進をかける。
大柄な男は突進してきたスライム目掛けて振り上げた斧を振り下ろす。
ドン!!
すごい音とともに斧の直撃を食らったスライムが消滅する。
「すご!」
あ、あのスライムを一撃で粉砕するとは!
男はスライムを倒した斧を収めてこちらに話しかけてくる。
「大丈夫でしたか?」
髪の色は赤く顔の横に縦の傷が付いている、まさしく歴戦の戦士のような顔である。
「ありがとうございます、まじで助かりました」
「いえいえ、たいしたことじゃありませんよ」
顔は怖いがかなりいい人みたいである。
「いや、ほんと助かりました。ところでさっきのスライム倒したやつってスキルかなんかなんですか?」
「スライム?」
そうだったあの猪たしかスライムって名前じゃなかった。
「えーと……モスト? そうモストを倒したやつです」
「あー、あれはバーストクラッシュっていう斧スキルですよ」
「へー、すごい威力ですね!」
「ははは、そんなたいしたスキルでもないですよ」
いや素手の俺から見たらすごいんだが。
「でもどうしたんですか? 武器も持たないで」
「実はついさっき始めたばかりなんですけど、街の場所が分からなくて」
「ん? さっき始めたって街からスタートしたんじゃないんですか?」
「いや、それがなんかモンスターが普通にいるフィールドから始まったんですよね、しかも初期装備一切なしですよ」
スタートからここまでの経緯を説明する。
「そうなんですか、私も最近始めたんですけど私は街がスタート地点でしたよ」
「え、じゃスタート地点もランダムってことですかね」
「ん~。そんな話は聞いたことないですけど、そういうパターンもあるのかもしれないですね」
「はー、なるほど」
やっぱりこのゲーム俺のこと嫌いだな。
「あの、街の場所を教えてもらえないですかね」
いい加減街に行って装備を整えたい、スライムにいつまでもびくびくしていられん。
「私も今から街に行くとこだったんですよ、一緒に行きましょう」
「本当ですか、助かります」
「ここから街まですぐですよ、行きましょう」
かなり街に近づいていたようだ、どうやら俺の感は結構当たっていたようだな。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はオルガ、よろしく」
オルガ……なかなかに見た目に合った名前である。
「俺は……」
このゲーム色々とランダムに設定されるのだが、名前はランダムじゃなくてもいいと思う。
「……ロメダ」
「え? ごめん聞こえなかった」
聞こえないように言ったんだが、はっきりいってこの名前あんまり教えたくない。
「えーと……ロメダ」
「え? ロダ?」
「そ、そうロダ! ロダって言うんだ。よろしくオルガ」
よし、とっさに思いついたにしてなかなかだ、これからはロダと名乗ろう。本名は心の奥に封印しておこう。
しかしゲーム内で偽名名乗るってどうなんだろうか、まあ気にしたら負けだな。
オルガとともに街に向かって歩き出す。
サマルガルド。
初めてゲームをしたプレイヤーの最初の(例以外もいるらしい)スタート地点の街である。
プレイヤーからは最初の街とも呼ばれてるらしい。
門を抜けたところにある街のマップを見てみたが街の出入り口は3つあり、街自体はかなりの広さがあるようだ。
街から街へはワープで移動できるらしい(行ったことのある街じゃないとワープできないらしい)、サマルガルドはゲームの中心近くにあるらしく色々な所にワープできるとかで、かなりのプレイヤーが拠点にしているらしい。
入り口から見ただけでも結構なプレイヤーが見える。
「ああー、やっと着いた」
なんか街に行くだけでかなり疲れた。
「ここまで来れば大丈夫だよね、私はちょっと行く所があるから」
「そか、色々ありがとう助かったよオルガ」
「最初は色々大変だけどがんばってね、またなんか分からないことがあったらメールして」
「ありがと~」
歩き去っていくオルガに手を振って別れを告げる。
メールか、あとで送り方ヘルプで見とこう。
「よしいくか」
色々と街を見て回りたいが街にきたらまずは武器屋か防具屋だろう、当然だ。
マップで場所は確認済みなので迷うことなくまっすぐに向かう。
街にいるプレイヤーはかなりやり込んでそうなやつやら、俺同様に初心者まるだしのやつやらであふれている。
さすがは人気No.1ゲーム、かなりのプレイヤーがINしている。
目的の武器防具屋には何人かのプレイヤーが装備品を選んでいた。
オルガに聞いた話だがサマルガルドには武器屋と防具屋が2件あるらしい。
1つは今俺がいる武器屋と防具屋が一緒になった初心者向けの店、もう1つはここからちょっと離れたところにある中級者向けの店だ。
中級者向けの店は武器屋と防具屋が別々にあるらしい。
とりあえず武器屋のはげたNPCのおっさんに話しかけてみよう。
「いらっしゃい。武器や防具はキャラクターによって装備できるのが決まってるんだ、ステータス画面で確認してみてくれ」
NPCおっさんが親切に説明してくれた。
「そうだった、俺何が装備できるか見てなかった」
とりあえず自分のステータス画面を開いてみる。
「…………」
あれ? 自分の装備できるやつを確認すら画面で剣やら槍やらいろんなマークがあるけど、どれも光っていないんだが?
いや腕の形をしたマークが1つだけ光っていた。
これってもしかして素手? 素手のみ?
「ねえおじさん、おれ素手のみなの? ねえおじさん」
「いらっしゃい。武器や防具はキャラクターによって装備できるのが決まってるんだ、ステータス画面で確認してみてくれ」
「そんなこと聞いてねーだろうが!」
NPCのおっさんに八つ当たりをかます。
基本的にNPCに話しかけても決まったことしか言わない。
防具にいたっては何も光っていない、なにも装備できないということか。
そうかー、装備できるものがなかったから初期装備がなかったのかー。
なんか涙出そう。
装備できないとは知りつつも店の品物を確認する。
「こ、これは!」
店の奥の奥に2つの装備品を見つけた。
「ひ、ひのきぼうと布の服だと!」
オリジナルオンラインとかいうわりに思いっきりパクリじゃねえか。
ひのきのぼうと布の服の説明欄には、全プレイヤー装備可能、と書かれている。
「なにーー!」
きっと俺みたいななにも装備できないやつ用に用意された装備なのだろう。
運営ありがとう、本当にありがとう。
さっそく今現在の最強装備である2つの装備を買う。
「ゴールドが足りなくて買えないよ」
「……」
NPCのおっさんがやさしく教えてくれる。
おっさんを殴りたい衝動を無言で抑え込む。
最初何回か死んだせいでお金が減っているようだ、ひのきのぼうかぬののふくどちらかしか買えない。
「くっ、どっちを買うか」
まさかひのきのぼうと布の服どちらを買うか迷う日が来るとは思わなかった。
布の服を装備したからといってスライムの攻撃に耐えられるとは思えない、やはりここは。
「ひのきのぼうください」
「ありがとよ、また来てくれよ」
八つ当たりをしたにもかかわらず、なんてやさしいおっさんだろうか。
さて、装備も整えたことだしやることは決まっている。
情報収集? クエ探し? そんなもんは後回しだ、まずはスライムのやつをぶっ倒す。
「ふふふ、このひのきのぼうさえあればスライムなど瞬殺だぜ」
ひのきのぼう片手に街の入り口目掛けて走り出す。
その後スライムを倒す事に成功するが、調子に乗って複数同時に戦いスライムに3度目の敗北をしてしまう。
そして敗北後街でセーブしていなかったことを激しく後悔することになる……。
遅くなりましたが何とか続きを書けました。
一応ここでプロローグ的なやつは終了です。
次はできるだけ早く更新したいな……。