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RPGで一番大切なもの  作者: ロロ
第3章
17/18

レベル15 不穏

 オーベルビリアの中央広場には、今日も多くのプレイヤーがいた。

 まあさすがにあのオーベルビリアの乱の時ほどではないが。

「ねえねえ、西出入口から出ない?」

 サマルガルドからワープした俺達は、オーベルビリアの中央広場にいた。

「なんでだよ、北に行くんだろ? だったら北出入口の方が近いじゃねえか」

 オーベルビリアには出入口が北、南、西の3つある。北に向かうなら北出入口から出るのが一番近いのは当たり前のことだろう。

「まあそうなんだけど、あのオーベルビリアの乱って言うの西出入口あったんでしょ? 1度見に行きたかったんだけど、忙しくてまだ行ってないのよ。かなりのプレイヤーが集まったって話じゃない」

 どうやら茜は、あのオーベルビリアの乱には参加していなかったらしい。

 茜のやつに真実を知られると色々とやっかいだ、できることなら西出入口は避けたいのだが……。

「たしかにあの時はたくさん人がいましたね」

 思わぬクレアの発言に俺の動きが止まる。

「え? なにクレアちゃん、オーベルビリアの乱に参加して……」

「よしゃ! 出発だ!」

 突然叫び声を上げて茜の言葉をさえぎる。

「え、あ! ロダさん!?」

 そして、無理矢理クレアの腕を引っ張って北出入口に向かって歩き出す。

「クレア君、クレア君」

 茜に聞こえないよう小さな声で話す。

「は、はい」

「僕は思うんだよ、ああいうことは人にペラペラと話すべきじゃないと。言ってる意味わかるね?」

 ふと、横から何かを感じ振り向くと、すぐ近くに茜が立っていた。

「ねえ、何の話してるの?」

「い、いや何も」

「ねえ、なにか私に隠してるよね?」

 真っ直ぐに見つめてくる茜から思わず目を逸らしてしまう。

「か、隠す? はっはっはっ、僕が君に隠し事なんてするはずがないじゃないか」

「あっそう。クレアちゃ~ん」

 俺から聞き出すのを諦めたのか、茜がクレアの腕を掴んで俺の前を歩き始めた。

「ねえクレアちゃん、オーベルビリアの乱の時その場所にいたの?」

 今度はクレアから聞き出すつもりだろが無駄だ。さきほど余計なことは喋るなと念を押しておいたからまず大丈夫だろう。

「え、えーと。その……」

「ねえ教えてよ。じゃあすごい情報を教えてあげるから、クレアちゃんも教えて」

「す、すごい情報ですか!?」

「そうよ~。もうすごすぎてびっくりする情報よ~」

「そ、それはぜひ聞きたいです!」

「でしょ~、だから教えて」

「わ、わかりました……」

 大丈夫じゃなかった! 全然大丈夫じゃなかったよ!

 クレアは茜の耳に手をあてて、内緒話をし始めた。

 しばらくするとクレアが茜の耳から離れ、今度は茜がクレアの耳元で話し始める。茜がなにかを言うたびに、クレアがびっくりしたような声を上げる。

 なに? なんなの? すごい情報ってなんなの? 俺もすげえ聞きたいんだけど!

 話が終わるとクレアが俺の方を振り向いてトコトコと近寄って来る。

「ロダさん! 初心者狩りを倒したのってロダさんだったんですね!」

「それかーー!!」

 初心者狩りのことすっかり忘れてた……。

「まさかオーベルビリアの乱の原因があんた達だったとはね~」

 近づいてきた茜が俺に向かって面白そうに言う。

「なんで言うの!? なんで君らそんなこと言っちゃうの!?」

「まあいいじゃないの、隠し事はよくないわよ。ねえ、クレアちゃん」

「そうですね」

 もういい、もう諦めた。

「ロ、ロダさん、まってくださいよ!」

 諦めた俺は、北出入口に向かって早足で歩き出した。

 







 オーベルビリアを出てマラトヤ高原を北に、いや北というよりは東北に向かって進むと村が見えてくる。

 村と言っても木で出来た家が数件建っているだけの小さな村で、特に名前も決まっていないらしい。

 そんな村に用などないのだが、先に進むにはこの村に入って反対側から出なければならないらしい。

「だから俺はいやだって言ったんだよ」

 マラトヤ高原を抜けた俺達は村の入口にいた。

「まだそんなこと言ってるの? やっちゃったものはしょうがないじゃないの」

「すいませんロダさん」

 俺に背負われたクレアが申し訳なさそうに言う。

 クレアがなぜ俺に背負われているのかは言うまでもないだろうが、例の一撃の必殺魔法を使ったからだ。

 オーベルビリアの乱の話を聞いた茜が、クレアの魔法をどうしても見てみたいと言い出したのだ。こうなることが分かっていた俺は反対したのだがあえなく却下され、クレアが魔法をぶっ放したわけだ。

「それにしてもクレアちゃんの魔法凄かったわね、あんな凄いの見たことないわ」

 それは俺も同感だ。高レベルの茜が言うのだから、クレアの魔法が凄いというのがより証明されたことになる。

 まあそのたびに背負わされる俺としてはあまり使用して欲しくない代物だが。

「それにしてもこの村、小さいくせにプレイヤーが結構いるな」

 ざっと見た限り20人ぐらいはいるだろうか。必ず通らなければならないとはいえ、こんな何もない村にプレイヤーが集まるとも思えない。

「この村はね、このゲーム内ではかなり有名な所なのよ」

 茜が村の反対側の出口に向かって歩き出したので、俺もそれに続いて歩き出す。

「こんな村が?」

「この村と言うよりも、この村の先にあるものが有名なのよ」

 かなり小さい村な為、すぐに反対側の出口にたどり着いた。

 村を出ると、道がすぐに急な上り坂へと変わる。人一人を背負ってこの坂を上るのはなかなかの重労働だ。

「有名って、なにがあるんだよこの先に」

「橋よ」

「はしって、海とか川とか渡るあの橋か?」

「そうよ、それ以外ないでしょ」

 しばらく急な上り坂を進んでいくと、坂の終わりが見えてくる。やっとこの坂も終わりか、と心の中で喜びながら坂を上りきる。

「わ~!」

 上りきった後の光景を見て背中のクレアが声を上げる。

 幅が4、50m近くある木で出来た巨大な橋が真っ直ぐに伸びていた。一体どれぐらいの長さがあるのか、目を凝らして見ても橋の終わりが見えないほどだ。

 ここから見えるだけでも、橋の上にかなりの数のプレイヤーがいるのが分かる。

「すごいですね!」

 たしかにそうだ、まさかこんな巨大な橋があったとは……。

「はっきりとは分からないけど、全長は4~5kmあると言われているわ」

 4~5kmって歩いたら1時間以上かかるじゃねえか。

 俺は橋の左右に付いている手すりの隙間から橋の下をおそるおそる覗きみる。

「うっ!」

 橋の下は崖になっていて一番下が見えなかった。高いところが苦手なわけではないが、さすがにこの高さはかなり怖い。

 しかし、幅が50mで長さが5kmほどもある木で出来た巨大な橋を、この高さに作るのは構造上不可能な気がするのだが。まあゲームなんて構造上不可能なものなんていくらでもあるか、たとえば空に浮かぶ城とか……。

 橋の端にいるのは怖いので、真ん中辺りにいる茜の元に小走りで戻る。

「この橋はなんて言う名前なんだ?」

「特に名前は決まっていないのよ、ただプレイヤーの間では決闘の橋って呼ばれたりするわね」

「決闘の橋?」

「そう、この橋ではPVPがよく行われるわ、だからそんな名前が付いたのよ」

 PVPとはPlayer vs Playerの略だ。まあようするにプレイヤーの操作するキャラクター同士が戦うことだ。

 PKとPVPの違いは「両者の事前合意の有無」と言ったところだろうか。PVPは相手への了承を取ってからルールを決めて戦ういわゆる決闘みたいなもので、PKは相手の了承を得ずにプレイヤーの操作するキャラクターを攻撃して殺してしまうことだ。PKは一般的なユーザからは嫌われ、あるいは恐れられている場合が多い。

 なるほど、ここならモンスターもいないし、広さ的にも申し分ない。それに夕日をバックに橋の上で戦うというのが実にいい、たしかにPVPをするには持って来いの場所かもしれない。

「だからこんなにプレイヤーがいるのか」

「ええ、まあみんながみんなPVPをやりに来てるわけじゃないけどね。ただ鑑賞しに来てるプレイヤーもいれば、私達みたいに通り道だから来ただけのプレイヤーもいるわね」

「え? 目的地ここじゃないの?」

「違うわよ、目的地はこの橋を超えた向こうよ」

 まじかよ、俺ここで他のプレイヤーの戦い見たいんだけど……。

「なにしてるの、先に進むわよ」

 そう言って茜が一人でどんどん先に進んでいく。

「ロダさん、もう大丈夫なので降ろしてもらっていいですか」

「おう、そうか」

 その言葉はできる事なら坂を上る前に聞きたかったな……。

 背負っていたクレアを降ろして、二人で茜の後を追いかける。

 橋の上には所々プレイヤー達が円を描くようにして集まっている。おそらく円の中心ではプレイヤー同士が戦っているのだろう。

 プレイヤーの塊を避けながら橋の上を進んでいく。

「なあ、ちょっと見ていこうぜ」

 前を進む茜はあまり興味がないようで、人垣には目もくれず歩いている。茜も一応高プレイヤーなのでPVPなど見飽きているのかもしれない。

「この橋長いからさっさと進みたいのよね」

「いいじゃねえか、ちょっとぐらい。クレアも見たいよな?」

「はい! みたいです!」

 そう言うと茜が足を止める。

「は~、分かったわよ、少しだけだからね」

 なるほどなるほど、クレアはこういう風にも使えるのか覚えておこう。

「よし、いくぞクレア」

「は、はい!」

 とりあえず、一番近くにある人垣の中へ突入する。

 人垣を進んでいくと、円の中心に一人のプレイヤーが見えてくる。

 その女プレイヤーは赤い髪を後ろで適当に一つに束ね、腰と胸の部分だけの水着のような銀色の鎧を着いた。そして注目すべきものは肩に担いでるあれだろう、自分の身長より遥かに大きい斧を肩に担いでいるのだ。その斧は刃が左右についており、まあ俗にバトルアックスとか言われている代物だ。、

「私は“剛腕”のヒツギ、誰か私と勝負してくれ!」

 そう言ってヒツギとかいう女プレイヤーは、担いでいた斧を軽々と左右に2回ほど振る。

 2mはある斧をあの細い腕で振り回すとはなんと恐ろしい、まあゲームの見た目なんてものは当てにならない物だが。

「あらあの人、高レベルプレイヤーみたいね」

 いつの間にかに俺の横に陣取っていた茜が呟く。

「なんでそんなこと分かるんだ? てか“剛腕”ってなに?」

「なにあんた、称号を知らないわけ?」

「いや全然、クレア知ってるか?」

 茜の反対側に陣取ったクレアに聞いてみる。

「いえ、知りませんね」

「だそうだ、説明しなさい」

「はあ~分かったわよ。称号って言うのは、ある一定のレベルを超えたら格プレイヤーに与えられる肩書きというかもう一つの呼び名みたいなもんね。一応称号はそのプレイヤーの特徴とかから決められてるみたいだけど、厳密にはどうやって決まっているかは分からないわ。一般的にこの称号を持っているプレイヤーが高レベルプレイヤーだって認識が高いのよ」

「は~なるほど、だからあのプレイヤーが高レベルだと分かったわけか」

「そう。こういう対戦時はお互い称号を言い合うってのが暗黙のルールみたいになってるわね」

「じゃあおまえもあんの、称号?」

「もちろんあるわよ、でもまあ教えないけどね」

 なんでか聞こうと思ったのだが、周りから急に歓声が上り聞けなかった。

 どうやら対戦相手が決まったようで、一人のプレイヤーが円の中心へと進んでいた。

 そのプレイヤーは長身の男プレイヤーで、右手には細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣、いわゆるレイピアが握られている。

「俺はピエールだ、称号はまだない」

 そう言って男はレイピアを構える。

 称号がないと言うことは、あのプレイヤーは高レベルではないということなのだろう。見た目からすれば明らかにスピード重視のプレイヤーだ、おそらくは相手が力重視のプレイヤーとみて、速さを活かして倒せると踏んだのだろう。

 速さを活かすというのは正解だろう、俺もあのヒツギとかいうプレイヤーと戦うなら間違いなくそうしている。

「よし、そこのあんちゃん合図してくれ」

 ヒツギが観客の中から適当に選んだ男プレイヤーに向かって言う。

 それを受けたプレイヤーが合図をする。

「じゃいくぞ……3、2、1、ゴー!!」

 合図とともにピエールが前に出て、相手てとの距離を一気にを詰める。

 おそらく相手の懐にもぐりこむ気だ、あの斧は脅威だが懐に入こめば直撃を食らうことはそうないだろう。

 しかしピエールが斧の届く範囲に来ても、ヒツギはまったく動かない。

 そのままピエールは相手の首元を目掛けてレイピアを突き出す。

 そのレイピアが接触する寸前にヒツギ動いた、斧の柄で地面を軽く叩いたのだ。 

「っ!」

 たったそれだけの行為でピエールが後方に吹き飛ばされる。

 おそらくはああすることで周囲に衝撃波を放ち相手を吹き飛ばすスキルなのだろう。

 吹き飛ばされ地面に転がったピエールはあわてて立ち上がろうとするが、ヒツギが巨大な斧を担いでるとは思えないスピードで距離を詰め、上段に構えた斧をピエール目掛けて叩きつける。

 斧が地面に叩きつけられる音とともにこの勝負の勝者が決まった。

 ほんの5、6秒で終わってしまった、あまりの速さにしばらくの間沈黙が流れる、そして周囲から大きな歓声が上がる。

「つ、つええ! あれが高レベルプレイヤーか……」

 思わず俺の隣にいる高レベルプレイヤーを見てしまう。こいつもこれ並に強いのだろうか……。

「もっと骨のあるやつはおらんのかー!」

 斧を担ぎなおしたヒツギが周囲に向かって叫ぶが、どうやら今の戦いを見て勝てると思ったやつはいないのか誰も前に出ようとはしなかった。

「さて、そろそろ先に進むわよ」

 そう言って茜が人垣から外へと出ていく、俺とクレアもその後に続いて外へと出る。

「いやー、すごかったなクレア!」

「はい! あの女の人すごく強くてかっこよかったですね!」

 人垣を抜け、とりあえず一旦立ち止まる。

「私もいつかあの人みたいに強くなれますかね?」

「お、おう……、なれるさ、いつかきっとたぶんな……」

 すまんクレア、たぶんおまえは無理だと思うぞ……。

「おい、あれ“生徒会”じゃないか?」

「あ、ほんとだ」

 ふとそんな会話が聞こえてくる。

 周囲を見渡してみると、少し離れた所から二人のプレイヤーがこちらを見ていた。

 こちらというよりは茜だろうか、“生徒会”は結構有名なギルドだという話しはどうやら本当のことらしい。

「さあいい加減先に進みましょうか」

 有名にもなるとこんなことはよくあるのだろう、聞こえているであろう茜は特に気にした様子もなく歩き始める。

「そういえばさっき“新撰組”も通って行ったよな」

「ああ、それなら俺も見たぞ」

 この会話を聞いた瞬間、茜の足が突然止まる。

「あぶな! おい、どうしたよ」

 いきなり止まるものだから、危なく茜に後ろから体当たりをかましてしまうところだった。

「ご、ごめん、ちょっとここで待っててくれない」

「お、おい!」

 そう言って茜は今の会話をしていた二人のプレイヤーの方へ走っていった。

「どうしたんですかね茜さん?」

「“新撰組”……」 

 茜は“新撰組”という言葉に反応したような気がする。

「“新撰組”ってなんなんですか?」

「俺も前に少し聞いただけなんだけど、“新撰組”も結構有名なギルドの一つらしい」

 以前“生徒会”について調べた時に、“新撰組”という名前も何度か聞いた気がする。

 しかし茜がなぜ“新撰組”に反応したのかは検討もつかない。

「ん~、ここはちょっと誰かに聞いてみたほうがいいかもしれんな」

 俺はさっきの人垣に戻ってみることにした。

 そこではまだ次の対戦相手が見つからないのか、ヒツギが斧を担いで対戦相手を待っていた。

 俺は横にいた男プレイヤーに話しかけてみる。

「あの~、私このゲーム始めたばかりで分からないことがあるんですけど、教えてもらえませんか?」

「ん? ああ、いいよ」

「“生徒会”と“新撰組”ってギルドがありますよね? そのギルドってなんかあるんですか?」

「ああー、あのギルドね。結構有名な話なんだけど、“生徒会”と“新撰組”はあんまり仲が良くないんだよ」

「へ~、なんでなんですか?」

「そこまでは俺にも分からないけど、噂では何かを取り合ったとか。まあ物までは分からないけど」

「そうですか、ありがとうございました」

 俺は人垣を離れクレアがいたところまで戻る。

「“生徒会”と“新撰組”は、なんか知らんがあまり仲が良くないらしい」

「そうなんですか……」

 仲が悪い、それだけにしては茜の反応が変だったような気がする。

 なにか“新撰組”がいたらまずい理由があるのだろうか? ギルド同士で何かを取り合っていたというのも気になる。

 まあここから先は茜に聞くしかないだろう。

 変な事にならなければいいがな、そんな事を考えながらクレアと茜の帰りを待った。



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