レベル14 始動
「ただいまー」
特に誰に向かってというわけじゃない、ただいつもの癖でそう言って、ギルドホームの扉を開く。
私が所属しているギルド“生徒会”は、このゲーム、オリジナルオンラインでは結構有名なギルドの一つだ。
ギルドの所属人数は私を入れてたったの4人、4人全員が高レベルプレイヤーの少数精鋭ギルドなのだ。
少数精鋭なんて言ってはいるけど別に狙ってそうしたわけじゃない、元々“生徒会”は会長であるギルドマスターが1人で立ち上げたギルドで、他の3人は会長に誘われて集まったメンバー達だ。その後は会長がメンバーを集めることはなく、私を含めた3人も特にメンバーが欲しいわけでもなかったので4人のままなだけなのだ。
まあ、私は今とあるプレイヤーを“生徒会”に入れたいと思っているのだが、なかなかいい返事がもらえない状態だ。
「やあ、おかえり」
縦と横が7,8mほどの四角い部屋の真ん中に、4,5人は座れそうな大きめなテーブルが置かれている。
ギルドホームは街によって様々な形や大きさがある、もちろん大きくて広い物件などはそれ相応の値段がする。
“生徒会”のホームは1階に3部屋、2階に2部屋ある。小さくはないだろうけど、けして大きくもないといった感じだ、でも私はこのホームを結構気に入っている。
真ん中に置かれたテーブルに座って、私を出迎えてくれたのは“生徒会”のメンバーの一人アリス。
腰まで伸びた白髪の美しい髪、白い肌にほっそりとした体つき、惹きこまれてしまいそうなほど美しい目、見るたびに思う、なんて華奢で美しいのだろうと。
ただ一つ残念なことがある、それは……。
「アリス君、会長達は?」
そう、彼は男キャラなのだ。
美しい見た目に“生徒会”の正装である黒いズボンに白のシャツ、学生服が悲しいほどに似合っていない。女物の服を着ていれば男だと分かる人はいないのではないだろうか。
最初に男だと分かったときはショックを受けたものだ。
「会長達なら、また新しい情報が手に入ったとかで調査に行ったよ」
アリス君がテーブルに置かれた数枚の紙の内の一枚を手に取って私に渡してくる。
「はい、これ茜ちゃんの分ね」
「え!? また私の分もあるの!?」
渡される紙を嫌そうに受け取る。
「どうせまたガセ情報なんじゃないの?」
「たぶんそうだろうね。でも分ってるでしょ? たいした情報が手に入らないんだから、しらみつぶしに探すしかないんだよ」
「まあそれはそうなんだけどさ~。こう外ればかりだと嫌になっちゃうわよ」
まあでもやらないと言うわけにも行かないので、渡された紙の内容を確認する。
「この場所ってたしか……」
「そこがどうかしたの?」
「ここってたしかオーベルビリアからそう遠くない所だったわよね?」
「うん、まあそうだけど……」
どうせガセ情報だろうし、この場所ならあいつを連れて行くってのもなかなか面白いかもしれない。
「どうかしたの? なんか顔がにやけてるけど」
「ううん、なんでもない。ただちょっとやる気が出てきただけ」
そう言ってホームの出口に向かって歩きはじめる。
「じゃ私ちょっと行ってくるわね」
「う、うん。行ってらっしゃい」
ホームの扉を開け、外へと出る。
さてと、まず最初に向かう所はあいつが居るであろうあそこだ……。
「オーベルビリアの乱 戦火の記録!」
そう書かれた○○新聞を広げ、ゆっくりと読みはじめる。
内容は数日前にオーベルビリアで起きたモンスターとプレイヤーの戦いに、何人参加しただの、何匹のモンスターがいただの、何人死んだだのといった、なんでそんなことわかるんだよと言いたくなるような事だ。
ちなみにオーベルビリアの乱と言うのは、3日ほど前に○○新聞社があの戦いに名前を付けようと言い出し、プレイヤー達にアンケートを取って決まった名前だ。候補としてはオーベルビリアの戦い、オーベルビリア戦線、オーベルビリアの乱、マラトヤの悲劇、聖戦、あと第一次世界大戦なんてのもあった。
オーベルビリアの乱から5,6日経っているが、原因はまだ判明していない。
今プレイヤー達の間では、運営による隠しイベント派とバグ派で激しい口論が行われている。
俺は一応バグ派だ。いやまあ本当の原因を知ってはいるのだが、色々めんどくさいのでバグ派ということにしている。
ちなみにその原因はというと、今俺の向いでアイスコーヒーをすすっている……。
「どうかしたんですか?」
俺が新聞の横から見ていると、クレアが不思議そうな顔で聞いてくる。
「いや別に……」
アイスコーヒーをすするクレアの手には、先端に赤色の宝石が付いた杖がしっかりと握られている。
ここ数日なぜか、クレアに付きまとわれ……クレアとPTを組んで狩りを行っていた。
ま、まあ別にいいけどさ……。
「ロダさん」
読んでいた新聞を畳み、俺もアイスコーヒーに手を伸ばす。
「なんだよ」
「この店に来るたびに思ってたんですけど、だれか待ってるんですか?」
1度アイスコース―をすすり聞き返す。
「は? 何言ってんの?」
「だってロダさん、ここに来るたびに誰かが来るのを待ってるみたいに周りをキョロキョロ見渡すじゃないですか」
俺が周りを見渡す? そんなことをした覚えはないのだが、自分では気付かなかったのだろうか?
ここに来るやつなんて一人しかいない、まさか俺があいつが来るのを待っているとでも言うのだろうか。い、いや、そんなことあるはずがない。
「な、なに言っちゃってんの? 誰も待ってるわけないじゃないの」
「そうですか」
素気なくそう言うと、再びアイスコーヒーをすすり始める。
な、なんだこいつは、最初会った時よりも態度がでかくなってきている気がする。ここはガツンと一発言ってやろう、うん、そうしよう。
「おいクレ……」
「やっほ~!」
俺のガツンとした一発が、突然横から飛んできた言葉にかき消される。
「……」
「あんた相変わらず暇そうね~」
いつのまにかに俺の横に茜が立っていた。
ないない、俺がこんなやつを待ってたなんてありえない。
茜が俺から自分がいつも座っている椅子の方へ視線を向ける。
「ところで……こちらの人は?」
茜がそう言うとクレアが立ち上がる。
「わ、私クレアノーズといいます。少し前からロダさんとPTを組んでもらってます!」
「あ、そうなんだ。私は茜、ギルドは“生徒会”よ。よろしくねクレアちゃん」
挨拶を終わらすと、茜は横のテーブルから椅子を持って来てこちらのテーブルに勝手に座る。
このテーブルは2人用だから3人はちょっと狭いんだが……。
「ふ~ん、へ~、あんたが誰かとPT組むとはね~」
「ちょやめて! なにその目、ほんとやめて」
持っていた新聞を俺と茜間に入れ、茜の視線を遮る。
「あの、ロダさんと茜さんはどういう……?」
「そうね~、こいつがまだこのゲームを始めたばかりの頃、ここで会ったのが初めてだったわね。それからこいつが私のギルドにどうしても入りたいと言ってきてね、断ったんだけど諦めが悪くてそれからずーと付きまとわれてるのよ」
茜がやれやれと言わんばかりに首を左右に振る。
「そうだったんですか」
「おいこら! なに嘘教えてんの!? こいつすぐ信じちゃうから、なんでもかんでも信じちゃうから!」
「まあいいじゃないの、それより今日はお願いがあってきたのよ」
全然まあ良くないんだがな……。
「なんだよ、先に言っとくがギルドには入らないぞ」
「まあそれはおいおいでいいんだけど、ちょっと一緒に行ってほしい所があるのよ、オーベルビリアからそんなに遠くないところなんだけど」
「よし、わかった。断る!」
「まったく迷うことなく断るわね……。いいじゃないどうせあんた暇でしょ」
「暇じゃないよ! 全然暇じゃないよ! 俺は今からアイスコーヒーを2時間かけて飲むという大事な使命があるんだよ!」
「そう暇なのね、じゃOKということで。クレアちゃんも一緒に行きましょう」
「いやいやいや、聞いてた? 俺の話聞いてた!?」
「分ったわよ、じゃあ今日ここのアイスコーヒーは私が奢ってあげるから」
「ま、まじで!? ……ってよく考えたら2つで2ゴールドじゃねえか!」
日頃から金がないせいか、奢るという言葉に思わず食いついてしまった。
「大丈夫ですよ茜さん、なんだかんだ言ってもやってくれるのがロダさんですから」
「ちょっとなに言ってんの!? クレアいきなりなに言っちゃてんの!?」
「ふふ、分ってるわよ」
なぜか二人して笑っている。
「分かってねー! おまえら全然分かってねえよ!!」
この後、結局行くことになってしまったのは俺の意思が弱いからであろうか……。
ども~
今回は短いということもあり、早々と更新できました。
いつもこのペースで行きたいものですな……。
一応ここからが第3章ということになります。
では次もできるだけ早く更新できるようがんばります。