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RPGで一番大切なもの  作者: ロロ
番外編1
15/18

俺はRPGでミニゲームやらカジノがあったら本編そっちのけでのめりこんでしまうタイプの人間である


これは番外編的な話です。

読まなくてもあまり本編には関係ありません。





俺は今自分の運命をかけて戦っていた。

 もしこれで負ければ……いや負けた時の事を考えてはだめだ。もう後には戻れない、だったら己を信じて勝つことのみを考えるべきだろう。 

 俺ができることは全てやった、あとはただ目の前の運命を引き抜くことしかできない。

 大丈夫、できる、俺ならできる、己を信じろ!

 心の中で念じながらゆっくりと手を伸ばしていく。

 そして全身全霊を込め、運命を一気に引き抜く――。

「くそー!」

 叫びながら今引いた運命……トランプのダイヤの5と元々持っていた4枚のトランプをテーブルに叩き付ける。

「くそ! なんなんだよ! なんでこんなについてないんだよ!」

 悪態を付きながらがしがしと頭をかきむしる。

 俺がテーブルに投げ散らかしたトランプを白黒の服を着たNPCの兄ちゃんが片付けていく。

「もう1度やりますか?」

「やるわけねえだろ!」

 さわやかな笑顔で聞いてきたNPCの兄ちゃんに八つ当たりをかまし、早足でその場を後にする。

 ちなみに俺が今何をやっていたかというと、トランプゲームの1つであるポーカーだ。

 





 

 はるか北の果てにコロアネ島という名の小島がある。

 そのコロアネ島にはモンスターが出るわけでも街があるわけでもない、ただ豪華な建物が1つ建っているだけだ。その建物では毎夜ギャンブラー達による熱い戦いが繰り広げられていた、まあ要するにカジノである。

 コロアネ島に行く方法は一つしかない、各町からのワープだ。各町に設置されているワープから夜の間のみ行くことができる。夜の間という事以外は特に制限はなく、基本的には誰でも行くことができる。

 カジノの中は豪華でかなりの広さになっている、全部見たわけじゃないが俺が見た範囲でどんなゲームがあるのかを説明しよう。

 まずは1階だ、1階ではトランプゲームであるバカラ、ブラックジャック、レッドドック、ポーカー。ダイスゲームであるクラップス、丁半、チンチロリン、あとは花札、マージャンなんかもあった気がする。

 2階ではルーレット、スロットマシーン、ツーアップ、ビンゴなどがある。

 あとは地下だ、地下には闘技場がありモンスターもしくはプレイヤー同士が戦い、どちらが勝つのかを当てるというゲームが行われている。

 とまあ俺が見たところではこんな感じだろう、賭け金についてはゲームによってさまざまなので説明はしないでおこう。






 カジノの1階の端には休憩所が設置されており、その横にはバーや飲食店などもある。

 ポーカーをやめた俺は、休憩所で1人椅子に座りカジノの豪華な床を見つめていた。

「ま、まずい、これはまずいぞ、非常にまずい」

 特に暑いわけでもないのだが全身からダラダラと汗が流れ落ちていく、たぶん今鏡を見れば青ざめた自分の顔を見ることができるだろう。

「なぜだ、なぜこうなった?」

 自分自身に問いかけ、なぜこうなったのかを思い返してみる。

 小梅への借金を返そうと、鬼のようにモンスターを狩りつづけクエストを幾つもこなした、そしてついに4万ゴールドほど貯めたのだ。これだけあればとりあえず小梅も納得してくれるだろうと思い昼行灯に向かっていた、しかしふとこのカジノの事を思い出したのだ。カジノは前に一度来たことがあったのだがその時は金がなかったのでなにもせずに帰った、ちょうど夜だったこともあり少しだけのつもりで来てみたのだ。

 最初は少ない賭け金で勝負していたのだが、ブラックジャック、ルーレット、丁半などなにをやってもすべて負け続けた。負けるたびに熱くなって行き、負けた分を取り返そうと自然と賭け金が上がっていったわけだ。

 そして先ほどのポーカーで負けたことにより4万あった所持金が……まあそれは言わなくても分るだろう。

「ど、ど、どうするよ、俺どうするよ」

 今からまた狩りに出かけて金を稼ぐか? いや無理だ、もうあまり時間がない、今から行ってもたいして稼げないだろう。

 こうなったら小梅が納得できる言い訳を考えるしかない、金を借りてからまだ1度も返していない、さすがにそれはまず過ぎる。

 このままでは小梅に何をされるかわからない、もしかしたら本当にゲームができなくなるかも……。

「しけた面してるじゃねえか」

 小梅への言い訳を考えていると、後ろから誰かに声をかけられる。

 声のする方を向くとサングラスを掛けた男プレイヤーが立っていた。

 身長は180cmぐらいだろうか、黒のスーツに黒の皮靴を履き黒い髪をオールバックにしていた、街で見たらすごい格好だがカジノで見るとなかなか様になっている。

「なんか用か? 俺はいま激しく忙しいんだが」

 めんどくさそうに言って視線を男から床に戻す。

 俺は言い訳を考えないといけないのだ、誰かの相手をしている暇はない。

「そう言うなって、あんたにとって悪くない話があるんだが」

 そう言うと男は俺の横の椅子に勝手に座る。

「ギャンブルで負けたんだろ? ちなみに何で分るかと言うと、ここで暗い顔してるやつはたいていみんなそうだからだ」

「ああ、そうだよ。だから今誰とも話す気分じゃないんだよ」

 そう言って睨みつけるように男を見る。

「まあ聞けって、ちょうどあんたみたいなのを探してたんだ」

 そう言うと男は俺に見せつけるように右手をパーにする、そしてその右手をグーにしてすぐにまたパーに戻す。

 すると最初は何もなかった男の手のひらに黒と白で出来たサイコロが乗っていた。

「……それは?」

「俺のオリジナルスキル“ギャンブルダイス”だ」

 つまりこいつのオリジナルスキルによって作られたサイコロということか。

「このスキルの説明の前に1つ聞いておきたいんだが、あんたステータスに運っていうのがあるのを知っているか?」

「運? ステータスに運なんて項目はないだろ」

 ゲームによっては運もしくはラックなどといったステータスが存在したりするが、このオリジナルオンラインにはメニューのステータス画面を開いても運なんて項目は存在しない。

「ああ、ステータス画面には乗っていない、つまり運ってのは隠しステータスなんだ」

 隠しステータスというのは、ステータス画面などには乗っておらず自分で確認することはできないが、実際は存在するステータスのことだ。

「運はプレイヤーごとに上限と下限が決まっていて、1日ごとにその間の数値内でランダムで決まっている。ちなみに運はレベルが上がっても数値は上昇しない、つまりキャラクターを作った時点でそのプレイヤーの運はほぼ決まっていると言ってもいい」

 要するに俺の運の下限が1、上限が100だとしたら毎日1~100の間でランダムで数値が決まるということだ、たとえば昨日が30、今日が50、明日が80みたいな感じだろう。

「運ね~、でもなんで隠す必要があるんだよ」

「それは俺にも分からん、だが運というステータスがあるのは間違いない」

 最初は話なんてあまり聞くつもりはなかったのだが、思った以上に興味深い話だ。こうなると俺に取って悪くない話というのが気になってくる。

「ここまではいいな? で、今度はオリジナルスキルの“ギャンブルダイス”についてだ。まずこの白いサイコロ、これは振ったプレイヤーの運の数値を決める能力がある、出た目が1ならそのプレイヤーの運の最下限になる、2なら2割、3なら4割、4なら6割、5なら8割、6なら最上限になるんだ」

 運が1~100の間だとしたら、1が出れば運の数値は1、2なら20、3なら40……6なら100ということだ。

「次はこの黒いサイコロ、これは振ったプレイヤーの運を増やすもしくは減らす能力がある。出た目が1ならその日の運の20%、2なら50%、3なら80%、4なら120%、5なら150%、6なら200%になるわけだ」

 そろそろ説明がめんどくさくなってきたな……。

 えーと、その日の運の数値が100だとしたら、1なら20、2なら50、3なら80、4なら120、5なら150、6なら200になるということだ。

 ここまで説明すると大体分かってくる、要するにこのサイコロを俺に使わせたいわけだ。

「まあ大体分かった、でもそれならそのスキル自分で使えばいいんじゃないのか?」

「できれば俺もそうしたいんだがこのスキルは自分では使用できないんだ、しかも1日の使用制限が3回、そして同じプレイヤーは1日に1回しか使えない」

 そういうことか……。

 俺にこのサイコロを振らせていい目が出れば俺にギャンブルで稼がせる、悪い目が出ればそこでさよならするわけだ。

「なるほどなるほど、それは確かに俺にとって悪くない話だ」

 自然と顔がにやけてくる。

 俺にとってもいい目が出ればもうけもの、仮に悪い目が出たとしてもすでにギャンブルで負けているのでこれ以上やることはない。

「で? 報酬の分け方は?」

 俺が男にそう聞くと、男も悪そうな顔でにやっと笑う。

「理解が早くて助かるな、5:5でどうだ?」

「よし、その話乗った!」

 俺は立ち上がり男に右手を差し出して握手を求める。

「俺はロダだ」

 男も立ち上がり俺の手を強く握りしめる。

「俺はジェスターだ、よろしく」

 男2人が不適な笑みを浮かべながら握手しているという状況は、はたから見るとどうなんだろうか。

「まああんたと組むかどうかはこのサイコロを振ってからだがな」

 そう言ってジェスターが白黒のサイコロを俺に渡してくる。

「分かってるさ」

 サイコロを受け取とり、目を閉じて心の中で、来い! と強く念じる。

 そして握り締めたサイコロを軽く空中に放り投げる。

 投げられたサイコロはすぐに落下し、床で2、3度跳ねて止まる。

 ちょっと力が入りすぎたせいか、サイコロは5mほど離れた所まで転がってしまった。

 出た目を確認しようと急いで近くに駆け寄る、出た目は……。

「ろ、6のゾロ目!」 

 目を確認したジェスターが驚いたような声を上げる。

 出た目は6と6、6のゾロ目である、つまりこのスキルにおいて最も良い目が出たということになる。

「おっしゃー!!」

 きたきたきたきたー! ふっふっふっ、今までの負けはこれの為の伏線だったのだ。

「まさか6のゾロ目が出るとはな……。なかなか出るもんじゃないぞ」

 ジェスターが床に投げられたサイコロを回収する。

「もう運の数値は変わったのか?」

「ああ、サイコロが止まった時点でスキルの効果は発動される」

 ということは俺の運の数値はかなり上昇しているはずだ、これで今日の負けを……いやそれだけじゃない、小梅への借金を全部返してお釣りが出るほど勝つことができる。

「そうか、ならさっそく行きますか」

「ああ」

 俺とジェスターは再び戦場へと向かって歩き出した。






「赤の12」

 そう宣言して赤色の12と書かれたマスの上にチップを置く。

 ゲーム参加している他のプレイヤーも思い思いの数字または色にチップを賭けていく。

 そしてディーラー(NPC)がホイールを回転させ、そこにホイールと反対方向に回るようにボールを投げ入れる。

 ここでベットの追加もしくは変更を行うことができるのだが、俺は特になにもしない。

 投げ入れられたボールが徐々に勢いを無くしていく、そしてゆっくりと転がるボールの入った先は――。

「赤の12です」

 ボールがポケットに落ちた場所をディーラーが宣言する。

 その宣言を聞いて参加していたプレイヤー達がざわつきだす。

 ディーラーが外れたチップを回収し、的中したベットに対して配当を行っていく。

「くっくっくっ……、あーはっはっはっはっはっ!」

 俺の前には大量のチップが置かれていた。

 このルーレットをし始めてすでに3連勝していた。

 ルーレットのホイール(回転盤)のポケットには赤か黒の色がついており、0~36までの37区分されている。そのホイールにボールを入れ、数字または色を当てるというゲームだ。数字を当てるのはかなり難しい、37区分されているので確率は37分の1ということになる、色当てはほぼ2分の1と言っていいだろう。もちろん数字を当てるのは難しい分配当はかなり大きい。

 その数字当てを俺は3連続で当てたのだ、これはもう笑が止まらない。

「おいおい、笑いすぎだろ」

 後ろから見ていたジェスターが俺の肩を揺さぶりながら言ってくる。

「そういうおまえも顔がにやけてるじゃねえか」

 振り向いた先のジェスターの顔はこれ以上ないほどにやけていた。

「だっておまえ、これが笑わずにいられるか?」

「いられるわけないだら!」

 そう言って二人で肩を組んで笑い合う。

 最初は“ギャンブルダイス”の効力をあまり信じられず、確率が2分の1であるダイスゲームの丁半をやることにした。そこでまさかの全勝、調子に乗った俺達はチンチロリン、ブラックジャック、カバラ、ビンゴと勝ち続けた。ちまちまと増えていくのがめんどくさくなり、配当が大きいが確率が低いルーレットにやって来たというわけだ。

「さて、バーで一杯やらないか?」

「いいね~」

 ひとしきり笑った後、ジェスターの提案でバーに行くことにした。

 バーに入ると特に他の客はおらず、俺とジェスターの貸し切り状態となった。

「ドンペリだ、ドンペリ持ってこい!」

 カウンターに座りさっそく注文する。

 注文を受けたマスター(NPC)が俺とジェスターの前に酒が入ったグラスを置く。

「まずは乾杯といきますか」

 ジェスターがグラスを持って俺に向けてくる。

「おう」

 俺もグラスを持ちジェスターのグラスに軽く当てる。

「「乾杯」」

 乾杯後に注がれた酒を一気に飲み干す。

「ぷっは~! うまい!」

 空になったグラスをマスターに渡しておかわりをもらう。

「いや~それにしても、勝ちましたな~」

「ああ、もうこれだけ勝てば十分だな」

 ジェスターの思わぬ発言に俺が言い返す。

「何言ってんだよ、まだこれからだろ」

「いやここらが潮時だろ、いくら運の数値が増えてるとはいえ100%勝てるわけじゃないんだぞ」

「分ってるって、最後にあと1回するだけさ」

「1回? 何をやる気だ?」

「100万ポーカーだよ」

 飲んでいた酒をジェスターが思わず吹き出す。

「ひゃ、100万ポーカーだと!」

 ポーカーには2種類ある、プレイヤー同士が勝負するポーカーと、トランプでポーカーの役を作るというゲームだ。俺が最初にやっていたのは後者の方だ。

 100万ポーカーというのは、プレイヤー同士が勝負する方のポーカーで特に変わったルールがあるわけではない。ただ賭け金が100万なのだ、つまり勝った方が負けた方の100万を貰うことができる。ちなみに普通のポーカーの最高賭け金は10万だ。

「もし負けたらどうするんだ! というよりも俺とお前の所持金を合わせても100万にならないだろ!」

「それは大丈夫だ、100万まではあとちょっと足らないだけだろ、俺とお前の所持品と装備を担保にして金を借りればたぶん足りる」

 カジノに入ってすぐの受付で所持品と装備を担保にして金を借りることができるのだ。

「だが負けたらすっからかんになるんだぞ!」

「はは、今の俺が負けると思うか? これに勝てば分け前が一人100万になるんだぞ」

 分け前は半分という約束だ、これに勝てば勝ち分がほぼ200万になる、つまり分け前が一人100万ということになる。

「100万か……か、勝てるか?」

「勝てるに決まってんだろうが」

「じゃあ……やるか!」

「おっしゃ! さっそくエントリーしに行こうぜ」

 グラスに残っていた酒を一気に飲み干しバーを出る。

 まずはカジノの入口にある受付で装備と所持品を渡して金を借りる。

「なんとか100万に足りたな」

 裸(装備なし)のジェスターにそう言うと、ジェスターは軽く泣きそうな顔になっていた。

「俺の一張羅が」

「あとで取り返すから大丈夫だって」

 金が用意出来たので100万ポーカーの会場へと向かう。

 裸の二人組というのはなかなか目立つようで、他プレイヤーの視線をちらちらと感じる。

 100万ポーカーはあまりやるプレイヤーがいない為、あらかじめエントリーしておいて他のプレイヤーがエントリーしたら呼び出され、勝負するというシステムになっている。ちなみにカジノを出ると自動的にエントリーが取り消される。

「エントリーしたいんだけど」

 100万ポーカーの受付(NPC)にエントリーを申し込む。

「かしこまりました、すでにエントリーしているプレイヤーがいるので少しお待ち下さい」

 そう言って何事かし始める、おそらくエントリーしたプレイヤーを呼び出しているのだろう。

「すでに他のプレイヤーがエントリーしてたのはラッキーだったな」

「ああ、なんていったって今日の俺はめちゃくちゃ付いてるからな」

 しばらくすると受付のNPCに呼ばれる。

「お待たせしました、こちらへ」

 ついて行くと、横が2m、縦が1,5mほどの大きさのテーブルに案内される。そのテーブルには向かい合うように椅子が2つ置かれていた。

 その片方の椅子に座り、しばらくすると1人の大柄な男性プレイヤーが現れた。

 ガチャガチャと音をたてながら現れたそのプレイヤーは、全身を覆うものすごく重そうな鎧を着込み、背中に俺の身長ほどはありそうな巨大な剣を背負っていた。

 裸の俺が言うのもなんだが、カジノにはあまり似合わない格好だ。

 まあそこ数分しか関わることのないプレイヤーなのであまり興味なんてないが。

「よろしく頼む」

 そう言って相手プレイヤーは俺の向かいの椅子に座る。

「よろしく」

 俺も一応挨拶をしておく。

 2人とも席に着いたのを確認し、受付のNPCがどこからかトランプを取り出す。

 どうやらこのNPCの進行でゲームをやるらしい。

「それではただいまより、100万ポーカーを開始いたします」

 そう言ってNPCが慣れた手つきでトランプを切り始める。

 そしてトランプを相手プレイヤー、俺という順で1枚づつ配り始める。


 リゴーン リゴーン リゴーン リゴーン


 お互いに4枚づつカードが配られた時、突然鐘が鳴るような音が周囲に響き渡る。

 何事かと周囲を見渡してみると、壁に掛けられた時計に目が止まる。どうやら今のは午前12時を知らせる音だったようだ、まあ要するに日付が変わったということだ。

「お、おい」

 隣に立っているジェスターに呼ばれ、さらに激しく肩を揺さぶらる。

「なんだよ、そんなに肩を揺さぶる……」

 横を向くとジェスターの顔が青ざめ、尋常ではない汗が顔から流れ落ちていた。

「ど、どうしたんだよ」

「す、すまん。あまりに勝ちすぎるもんだから時間を見てなかった」

「どういう意味だよ?」

「だ、だから、つまりだな……“ギャンブルダイス”の効果は午前12時、日付が変わると同時にリセットされるんだ」

「は!? おまえそれマジか!?」

 ジェスターの胸ぐら掴んで立ち上がる。

「あ、ああ」

 あきらめたように力なく頷くジェスターの顔を見る限りどうやら本当のことらしい。

「どうかしたのか?」

 急に立ち上がった俺に相手プレイヤーが聞いてくる。

「い、いや別に。な、なんでもないから全然なんでもないから」

 椅子に座り直し、ジェスターに顔を近づけてひそひそと話す。

(どどどどどど、どうすんだよ! おまえこれどうすんだよ!)

(すまん! 本当にすまん!)

(すまんじゃねえ! これに負けたら完全な文無しになるんだぞ!)

(ま、まて! とりあえず手札を確認してみよう)

 そう言われて初めて手札を見ていないことに気づく。

 あわてて配られた5枚のカードを確認する。

「っ!」

 手札を確認すると思わず息を飲んでしまう。

 手札は、スペードの10、スペードのJ、スペードのQ、スペードのK、ハートの2、ロイヤルストレートフラッシュのなりかけだったのだ。

(おしいぃぃぃぃ!!)

(最後の1枚は12時がなってから配られたんだ)

(じゃあもし12時になっていなかったら、ロイヤルストレートフラッシュが来てたってのか!?)

(おそらく……)

(うおぉぉぉぉ!!)

 目の前のテーブルにガンガンと自分の頭を叩きつける。

 あと数秒配るのが早ければほぼ確実に勝利していたのだ。

「お、おい、速くしてくれないか?」

 俺のテーブルに頭を打ち付けるというわけの分からない行動に、ちょっと引きながら相手プレイヤーが言ってくる。

「あ、あの~。す、すいませんけど用事思い出したので中止してもらえません?」

 俺にできる最高の笑顔で言ってみるが、NPCが冷静に言い返す。

「手札を確認した時点で中止することはできません」

 しまったーーー!! 何も考えずに手札を見てしまったーー!!

(終わりだ、もう終わりだ)

(まて、まだ手はある)

 そう言ってジェスターが持っていたものを俺に渡す。

(こ、これは!?)

 それは白と黒で出来たサイコロ、そう“ギャンブルダイス”だ。

(午前12時に“ギャンブルダイス”の効果が切れると同時に、おまえはもう1回このサイコロを振ることができる)

 “ギャンブルダイス”は1日に1人に対して1回しか使用できない、だが日付が変わると同時にもう1回振ることができる。

(そうか! それで高い目が出れば勝てる!)

(そういうことだ!)

 俺は座ったままの状態で、相手にばれないよう手に持ってたサイコロを床に落とす。

 床に落ちたサイコロが2度ほど跳ねて動きを止める、出た目は……。

「「…………。」」

 出た目を見て、俺もジェスターも思わず目を反らす。

(なあ、これ逆に良いみたいなことはない……のか?)

(ないな……)

 出た目はピンゾロ、つまり1と1、このスキルにおける最悪の目だ。

「お客様、カードの変更を行いますか?」

 NPCが俺と相手プレイヤーに質問する。

 ポーカーは1度だけ手札からいらないカードを捨て、捨てた枚数だけ新たに引くことができる。

(まだだ、まだわからんぞ、俺の手札が悪くても相手も役なしなら負けはない。1回目をドローで終わらして、2回目を始める前に中止してもらえばいいんだ)

(なるほどその手があったか!)

 いくらこっちの運の数値が下がろうが相手の運が上昇しているわけではないのだ、だったら相手に役がこない事も十分にありえる。

「俺はこのままでいい、カードの変更はなしだ」

 思いもよらない相手プレイヤーの発言に、思わず自分の耳を疑う。

「は? なんか今カードの交換はしないって聞こえたような気がしたんだけど? いやいやそれはない、それはないな」

「いやだからそう言ったんだが……」

 ポーカーでカードを交換しないということは、最初に配られた手札でストレート以上の役ができているということになる。

(負けだ、完全に負けだ。だからここらが潮時だって言ったのに)

 ジェスターが弱々しく呟く。

(何言ってんだ! 元はと言えばおまえが時間のことを忘れてたのが悪いんだろうが!)

(なにぃ! おまえこそな、6のゾロ目のあとにピンゾロって極端すぎるんだよ!)

(うるせえよ! 俺だって出したくて出したわけじゃねえよ!)

「時間を掛け過ぎると危険とみなしますよ」

 NPCが俺に向かって言い放つ。

「くっ! 1枚交換だ!」

 手札のハートの2を場に捨てる。

 NPCが捨てた枚数分、1枚を新たに俺のテーブルの上に裏にして配る。

 裏にして置かれたトランプにゆっくりと手を伸ばす。トランプを掴み表にしようとするが、右手がうまく動かない。

 自分では気づかなかったが右手が震えていた。

 怖いのだ、このカードをめくるのが怖い、このゲームに負けるのが怖い、もしこのゲームで負ければ俺は……。

 その時、急に俺の右肩に誰かがやさしく手を乗せる。

「ジェスター」

 ジェスターは俺の肩に手を置いたままやさしく微笑む。

「落ち着けよ、大丈夫だって」

「だが、今の俺は運が……」

「運がなんだって言うんだ、俺とお前なら運があろうがなかろうが勝てるさ、そうだろ?」

 そこにはさっきまでの今にも死ぬんではなかろうかというほどの青い顔ではなく、自信に満ち溢れた顔があった。

「ああ、そうだな……。俺達が負けるわけないな」

 俺とジェスターは微笑み合う。

 もう怖くはなかった、俺が、いや俺達が負けるはずないのだから!

 震えの治まった右手で、裏になっているトランプを掴み一気に表にする。

 俺とジェスターの運命のカード、それは――。







 大量に置かれた写真の束を1枚1枚めくっていく。

 ここは○○新聞社のギルドのホームの中だ。

 今はメンバーが撮ってきた記事用の写真を1枚1枚チャックしているところだった。

 特に問題もなくスムーズに進んでいたのだが、1枚の写真で手が止まる。

「エリコ君、この写真は何かね?」

 自分の机で何かをやっていたエリコ君が立ち上がってこちらに歩いてくる。

「どれですか編集長?」

 私の机の前にまで来たエリコ君に見えるように写真をかざす。

「ああ、それはですね、私が昨日カジノ行った時に撮ったやつですよ、なにかの記事になるかと思って」

 その写真には2人のプレイヤーが写っていた。

 2人用のソファーに2人で座り、1人はまるで魂が抜けたかのような顔で天井を見つめている。もう1人は焦点の合っていない目で真正面を見つめ写真にもかかわらず震えているのがはっきりと分かる、これから何かとんでもないことが待ち受けているのだろうか。そして2人ともなぜか裸である。

「この2人、カジノで所持金から装備まで全部負けちゃったみたいでなんですよ」

「エリコ君、君はたしか昨日の夜は取材に行くと言ってなかったか? なんでカジノにいたんだ?」

 そう言うとエリコ君の動きが止まる。

「え!? そ、そうでしたっけ? あ! そういえば私これから取材に行くんでした!」

 そう言ってエリコ君はものすごいスピードでホームを出て行った。

「ふ~、まったくしょうがないな」

 さっきの写真を横に置き、再び写真のチェックを開始する。

「特に使えそうなのはないか」

 メンバーには初心者狩りの正体を暴いたプレイヤーか、大量のモンスターがオーベルビリアを襲った原因の2つを探して来いと言っておいたのだが、どうやらそれらしいものはなかったようだ。

 まあ元々そう簡単に真相が分るとは思っていない。

 ふと、さっき横に置いた写真を手に取る。

「…………だめだなこの写真」

 立ち上がり、見ていた写真を丸めてゴミ箱へ投げ入れる。

「さて私も取材に行くか」

 今日こそは、せめて2つの内のどちらかを突き止めてみせる、そう意気込んで外へと飛び出した。




ども~


まあ出来はともあれ、短編を書いてみました。おそらく次からは第3章が始まります。


これから進むにつれて章と章の間に短編を挟んでいこうかなーと考えております。


ではまた次回。

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