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RPGで一番大切なもの  作者: ロロ
第2章
13/18

レベル12 時は金なり!2

「大変です編集長!」

 バタバタと足音を立てながら一人のプレイヤーがホームに入ってくる。

「どうしたのかねエリコ君、そんなにあわてて」

 かなり急いで来たのかエリコ君は息を切らしながら私の机の前までやってきた。

「大変です編集長! 今オーベルビリアにモンスターの大群が攻めて来てるらしいんです!」

「モンスターの大群? どういうことかね?」

 モンスターの大群というのは意味はわかるのだが、なぜそれが攻めて来ているのかがわからない、モンスターが町に攻めてくるなどありえないことだ。

「私も詳細はわからないんですけど、知り合いからオーベルビリアにモンスターの大群が攻めて来てるってメールがきたんですよ」

「ガセ情報じゃないのかね?」

 新聞社などやっていると、結構わけのわからないガセ情報が流れてくるものだ。

「ガセじゃないみたいです、数人のプレイヤーがモンスターの大群を見たらしいんですよ。それに噂を聞きつけたプレイヤー達がオーベルビリアに集まってきてるらしいんです」

 モンスターが町に攻めてくるなんてありえることではないが、もしそれが本当なら……これほど面白いネタはない。

 それにガセ情報だったとしても、噂でプレイヤーが集まって来たというだけでそれなりのニュースになる。

「よし、エリコ君! すぐにオーベルビリアに向かうぞ!」

「はい!」

 椅子から立ち上がり急いで出口に向かう。

「次の新聞のネタは変更だな」

 ちょうど初心者狩りのネタも落ち目になってきた所で、新しいネタはないかと思っていたところだったのだ。

「えー! またですか! もう出来上がってるんですよ!」

「帰ってからすぐに作り直せば間に合うだろ」

 後ろからエリコ君がまだ何か言っているようだったがそれどころではない、急いでオーベルビリアに向かわなくてはならないのだから。





「金髪! 後ろきてるぞ!」

 後ろから走ってきたクルルを金髪が左に避け、それと同時にクルルの腹辺りを剣で切りつける。

「グャァ!」

 奇声を上げているクルルに俺が留めのとび蹴りをかます。

 蹴りを入れられたクルルはそのまま地面に倒れこみ消滅する。

 そして俺と金髪は再び走り出す。

 こんな風に金髪と協力して、追いついてきたクルルを倒したのは何匹になるだろうか。

 運よく1匹ずつ追いついてくるのでなんとか倒すことは出来ているが、攻撃するたびに止まったりスピードダウンしてしまう為、少しずつ後ろの大群に追いつかれて来ている。

 しかも俺も金髪もだいぶ息が荒くなってきている、かなりの距離を走ってきたのでオーベルビリアまではそんなに遠くはないはずだが、そのまえに体力の限界がきてしまうかもしれない。

「わんわん!」

 金髪野朗と並んで全力疾走する中、後ろから場違いな子犬の鳴き声が聞こえてくる。

 なんで子犬が? 俺は首だけを動かして後ろを確認する。

「ぎゃーー!!」

 可愛らしい目が2つ付いており、黒い鼻、小さな口、そして全身を真っ白な毛でおおっている。まあ犬だ、どっからどう見ても普通の犬だ、大きさ以外は……。

「な、なんかやばいの来ってるってー!」

 その犬は四つん這いになってるにもかかわらず、大きさが3m近くあった。

 わんわんと可愛らしい声で泣きながら、周囲のモンスターを蹴散らしてこちらに向かって来ている。

「あ、あれはまさか!」

 俺と同じく後ろを確認した金髪が驚いたように言う。

「知ってんのか金髪?」

「あれはたぶん、マラトヤ高原に極稀に出現すると言われている超レアモンスターのポチだ!」

「ちょまてぇぇぇ!! 確かに泣き声はポチだけど! ポチだけどぉぉ!!」

 俺はもう一度後ろを確認してみる。

 さっきまで遠くにいたポチが近くまで迫って来ていた。

「ポチ速いって! ポチ速いってぇぇ!!」

 クルル並み、いやクルル以上の足の速さだ。

「どうすんだよ金髪!」

 左を走る金髪に八つ当たり気味に怒鳴る。

「まて! たしかポチは口から唾を吐き出すと聞いた事がある。その唾に当たるとマヒ状態になってしばらく動けなくなる……」

 その瞬間、後ろから飛んできた何かが俺と金髪の間を通りすぎて行く。

「「……」」

 今のは間違いなくポチの口から吐き出された唾液だろう。

「うおおおお!!」

 あれに当たったら動けなくなって間違いなく死ぬ。

 後ろから次々に飛んでくる危険な物体を、左右にジグザグに走ることでなんとか避け続ける。

 しかしポチの足が速く、徐々に近づいて来るため少しづつ避けづらくなっていく。

「やばいって! やばいってー! ていうか誰! ポチの飼い主誰! ちゃんと繋いどけボケー!!」

 明らかにポチは俺に向かって走って来ていた。

 数mまで近づいたポチが新たな唾を吐きだす、それをなんとか避けることに成功する。

 しかし、無理に避けた為に体勢が少し崩れてします。

 そこに新たな唾が飛んでくる。

(避け切れない!)

 そう思った時、唾と俺の間に何かが割り込んでくる。

「金髪!?」

 間に割り込んだのは金髪だった、避け切れない俺をかばったのだ。

「おまえ……!」

 ポチの唾を受けた金髪はマヒ状態になったのかその場に立ち止まるってしまう。

「勘違いするな、別に貴様をかばったわけじゃない。ただ疲れたから休憩しようと思っただけだ」

 俺に背を向けて間に入った為、俺からは金髪の顔は見えなかった。

「なにしてる、さっさと行け! レディを死なすわけにはいかんだろうが」

 くさいセリフを吐く金髪の背中を数秒ほど見ていた俺は、元の方向を向き直す。

「くそ! すまん金髪!」

 そしてオーベルビリアに向かって再び全力で走りだす。

「ふっ、安心しろ、ポチは僕がここで食い止めてやる!」

 後ろから金髪の声が聞こえてくる。

「金髪! お前の死は絶対に無駄にしねえぞ!」

 オーベルビリアはもうすぐそこまで近づいていた。





 オーベルビリアの西出入口付近のフィールドには大勢のプレイヤー達が集まっていた。

 ざっと見ただけで300人はいるだろうか。

 噂を聞きつけて集まってきたのだ。いや噂などではない、何人ものプレイヤーがモンスターの大群がこちらに向かって来るのを確認している。

 明らかにただ見に来ただけの野次馬や、PTを組んでモンスター討伐をしようとしているプレイヤー、色々なプレイヤー達がいるが、おそらくこの中の誰も今回のモンスターの大群の詳細を知ってる者はいないのではないだろうか。

 よくわからないけどなんか起きてるから取りあえず来た、というプレイヤーがほとんどだろう。

 そんな奴等が勝手に集まった集団が統率が取れるはずもなく、みんな好きな所に自分勝手に陣取っている。

 オーベルビリアの西出入口前にほとんどのプレイヤーが集まっており、その左右に他のプレイヤー達が展開している状態だ。

 要するに、西出入口前が一番いいポジションなのでそこに大量に集まったのだ、密集しすぎてろくに動けない状態である、そしてそこに入れなかったプレイヤー達が仕方なく左右に陣取っているのだ。

 集まりすぎたプレイヤー達により、現在オーベルビリアの西出入口は誰も出入りできない状態となってしまっていた。





「はぁはぁ!」

 体力の限界が近い、今にも足が止まってしまいそうだ。

 まだか! オーベルビリアはまだか! もうそんな考えしか浮かばなかった。

 やはり無理だったのだ、人一人を背負って走る続けるなど無理だったのだ。

 しかし止まらなかった、もうほとんど体力なんて残っていないのに足が止まらない、なにかがひたすらに俺の足を動かし続ける。

「すいませんロダさん……」

 後ろのクレアが申し訳なさそうに俺に言ってくる。

「……なにが?」

「私ロダさんの足を引っ張ってばかりで、全然役に立てなくて……」

 後ろから聞こえてくるクレアの声は段々小さくなっていった。

「お前は……あほか!」

「え!?」

 突然俺が怒鳴ったせいか、クレアが驚いたような声を上げる。

「いいか! あの墓地でお前がいなかったら確実に死んでたんだよ! つまりお前は自分の役目を完璧にこなしたんだ! だったらそこから先は俺の役目だろうが! お互いやるべき事をやる、それがPTってもんだろうがよ!」 

 疲れているせいか何も考えずに思ったことを怒鳴り散らす。

「だからお前は堂々と俺に背負われてればいいんだよ! わかったか!?」

「は、はい!」

 後ろから聞こえてくる声が、少し嬉しそうな感じに聞こえたのは俺が疲れているからだろうか。

 しかしそんなことを確認する元気は俺にはなかった。

 そしてまたしばらく無言の全力疾走が続く。

「ロ、ロダさん! オーベルビリアが!」

 クレアの声を聞いて、急いで俺も前を確認する。

 見えた! ついにオーベルビリアが見えたのだ。

「よしゃ!」

 嬉しさのあまり思わず叫んでしまう。

「ロダさん、私をここで降ろしてください」

 突然クレアがそんなことを言い出した。

「は? お前ここまで来てまだそんなこと言ってんの?」

「あ、いえ違うんです! もう動けるようになったんですよ」

 なるほど、要するにさっきの魔法の反動が直ったということか。

「なんだそういうことか」

 俺は立ち止まってクレアを地面に下ろす。

 ということはここからはクレアが一人で走っていけるわけだ、なら俺はここでギプアップさせてもらおう、はっきり言ってもう限界である。

「ロダさん! あれ見てください!」

 クレアがオーベルビリアを指差しながら言ってくる。

 いや、オーベルビリアを指差していたのではなかった、オーベルビリアの入口に集まっているプレイヤー達を指差していた。

「な、なんじゃありゃ!」

 なんであんな所に大量のプレイヤーが集まっているんだ、なにかイベントでもあるのだろうか?

 ここから見ると一人一人は小さくてほとんど見えないが、大量に集まっているのが分かる。

 急いで望遠鏡を取り出して見てみる。

「やばいな、入り口に集まりすぎて通れる状態じゃないぞ」

 なぜか分からないが大量に集まったプレイヤーで入口が塞がってしまっていた。

「ど、どうしましょう」

「ちょっとまて、今考えるから」

 時間がないので思考を“加速”させて考えることにした。

 …………。

 しばらく無言で考える。

 そして一つの方法を思いつく、あまりよろしくない方法を……。

「……なあクレア、さっきの魔法もう1回撃てるか?」

「え? 撃てますけど……」

「ふふふ、そうかそうか」

 俺の不敵な笑いにクレアが少し引いているような気がするのはきっと気のせいだろう。

 後になって考えてみると、北か南にある別の入口を目指せばよかったのだが、この時は疲れていたのであまりまともな考えが浮かばなかったのだ。

「じゃさっそく準備してくれ」

「え? でも今から準備しても間に合わないと思いますけど……」

 クレアが後ろから来ているモンスターの大群を見ながら言う。

「それはたぶん大丈夫、俺に考えがあるから」

「そ、そうなんですか? わかりましたやります!」

 そう言ってクレアはモンスターの大群に向って詠唱を開始しようとする。

「おいおいおい、なにしてんの?」

「え? 魔法の準備ですけど……」

「いやいや、そうじゃなくて」

 俺はクレアに近づいて、無理やり180度回転させる。

「方向が違う、こっちに向かって撃つんだよ」

 つまりモンスターの大群ではなく、オーベルビリアの入口を塞いでいるプレイヤー達に向かってだ。

「ええー!!」

 考えてもいなかったのかクレアが大声を上げる。

「でもそんなことしたら!」

「大丈夫大丈夫、あいつら強いから、めちゃくちゃ強いから、クレアの魔法ぐらいじゃ死なないからまじで」

 もちろん嘘である、いくら高レベルのプレイヤーでもクレアの魔法が直撃したら間違いなく死ぬだろう。

 ここで死んだら今までずっと走って来たのが無駄になってしまうのだ、それなのに入口を封鎖するとはなんて奴等だろうか、そんな奴等にはお仕置きが必要だと思う。

 疲れているせいか、なんか思考が変な方向に行ってる気がする。

「ほ、本当ですか?」

「ほんとほんと! 大丈夫だから! だから速く! 速く!」

「わ、わかりました!」

 クレアが急いで詠唱を開始する。

 さてここからが問題だ、出来るかわからないが出来なければここで終わりである。

 オーベルビリアに向かって詠唱するクレアの肩に後ろから手を置く。

 そしてスキルを発動させる。

 “加速”

 スキルが発動すると同時にクレアの詠唱が“加速”され、魔方陣がさっきよりも速く展開されていく。

 成功だ、自分だけでなく他のプレイヤーを“加速”させることも出来たのだ。

 しかし、俺が予想したよりも“加速”されなかった。

 どうやら自分を“加速”する割合よりも、他のプレイヤーを“加速”する割合の方が小さいようである。

(やばいやばいやばいやばい!)

 後ろから来ているモンスター達の足音がすぐ近くから聞こえてくる。

(速く! 速く! 速く!)

 心の中でそう叫んだ時、クレアの魔法が完成する。

「できました!」

 そしてクレアは水平に構えていた杖をオーベルビリアに向ける。

「超広範囲殲滅魔法」

 さっきも聞いたが、ほんと物騒な魔法である。

「アマテラス!」

 魔方陣の中心からものすごい光があふれ、巨大なレーザーが放たれる。

 さっきはあまりの威力に見とれてしまったが、今回はそんなそんなことをしている暇はない。

 魔法が放たれると同時に動き出す。

 そして魔法を撃ったばかりのクレアを抱き上げ、そのままオーベルビリアに向かって全力で走り出す。

 その瞬間クレアの魔法が爆発し、目の前の世界を真っ白に染め上げる。

「うおおおおお!!」

 前方からくる爆発の余波で目を開けていられなくなるが、足だけは止めないで走り続ける。

 爆発がおさまり目を開けた時、オーベルビリア入口のすぐそこまで近づいていた。

 入口に集まっていたプレイヤーは吹き飛んだのかほとんどいなかった、数人がそこあたりに転がっていたような気もするが、この際あまり深く考えないことにした。

 全力で走る中、すぐ後ろから大量の足音が聞こえてくる。

 間に合わない。

 俺のどこか冷静な部分がそう判断する。

 だったらどうする? これしかないだろう。

「クレア!」

「は、はい!」

 右肩に担いでいるクレアが声を上げる。

「歯食いしばれ!」

「え?」

 クレアの襟を掴み、入口に向かって思いっきり投げる。

「飛んでけー!!」

 投げると同時に“加速”させる。

 プレイヤーを投げて“加速”するかは分からないが、まあ念のためである。

 はっきり言ってこの距離から投げても入口まで届くかは分らなかった。

 届けー!!

 そう念じたが、モンスターの波に押しつぶされ最後まで確認することはできなかった。

 俺が最後に見たのは入口に向かって飛んで行くクレアの姿だった。





どもー。

今回はなんとかいつもより少し早く更新することができました。

次で一応第2章は終わる予定です。

では次も早めに更新できるようがんばりますので、また読んでやってください。

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