レベル10 金は天下の回りもの
ドンッ!
気づかれないように背後からゆっくりと近づいた俺は、金髪野郎を予告なしで蹴り倒す。
倒れた金髪野郎は何が起きたのかわからないのか、周囲をキョロキョロと見回している。
そして俺の存在に気づき、自分が何をされたのか分かったのだろう、立ち上がり俺に向かって叫び声を上げる。
「き、貴様! いきなり何をする!」
金髪野郎が俺に向かって怒鳴ってくる。
しかし金髪野郎の装備をこうして近くで見ると、よりきらきら光っていて悪趣味なことこの上ない。
「おまえそんな成金趣味丸出しの格好して恥ずかしくないのか?」
そう言われた金髪野郎が視線を下に向け自分の格好を確認する、その後俺の方を向き俺の装備を見て言い放つ。
「ほとんど裸(装備なし)同然の奴に言われたくないわ!」
そう言われ、自分の格好を確認してみる。
「え、なに? 俺の格好に文句でもあんの?」
この格好のどこに問題が? みたいな感じで言い返す。
「あるね! なんだいそのぼろぼろの貧乏くさい服は! 見てるだけでイライラする!」
「ちょ、おまえ! この装備なめんなよ! これの服あれだぞ、なんか伝説的な感じの装備の内の1つだから!」
「そんなぼろぼろの服が伝説の装備なわけないだろ! 大体このゲームに伝説の装備があるなんて聞いたことないぞ! というかいったいどんな伝説だ!?」
「え……それはおまえ、あれだよ。伝説の鍛冶屋的なやつがオリハルコン的なやつで作った4つの装備の内の1つなんだよ」
「うそをつくな! オリハルコンがどうやったらそんな布みたいにぴらぴらになるんだ!」
「い、いやマジだって! それだけ伝説の鍛冶屋的な奴が凄いんだって!」
「違う意味で凄いわ!」
「ちなみにこの一見ただの棒に見えるこれも実は伝説の装備の1つだから」
「あーもう! そんな馬鹿話はどうでもいい!」
いい加減頭にきたのか、俺の話を無理矢理終わらせると腰にある剣を引き抜く。
「いきなり蹴り飛ばし、人の格好に文句をつけるはとは! 覚悟はできてるんだろうな!」
「なに、やんの? 伝説の装備を2つ装備してる俺とやんの?」
そう言いながら俺もひのきの棒を構える。
金髪野郎が引き抜いたのは、60cmほどのゴージャスなショートソードだった。
ショートソードは攻撃力がそこそこ高い上に、軽くて片手で扱える為かなり使い勝手がいい武器だ。
俺としては攻撃力が高くて攻撃速度の遅い、大剣やハンマーといった両手で扱う武器の方が戦いやすい。
はっきり言って片手剣でも一撃で死にかねないのだ、それだったら攻撃速度の遅い武器の方が戦うのはいいに決まっている。
あちらから攻撃されると不利だ、ならこちらから攻めるべきだろう。
俺は金髪野郎目掛けてまっすぐに走る、そして一定の距離まで来た瞬間“瞬足歩方”でいっきに距離を詰め、右手に持っているひのきの棒を金髪野郎目掛けて振り下ろす。
ガッ!
それを金髪野郎にショートソードで受け止められてしまう。
しかし問題ない、これは囮なのだ。
受け止められるとすぐに左足を踏み込んで金髪野朗に左アッパーを放つ。
(もらった!)
まさか武器は囮で殴ってくるとは思ってもいないはずだ。
しかし、金髪野朗は左アッパーを紙一重で左へ避け、ショートソードを左から右へ水平に振るう。
それをなんとか後ろに下がって避ける。
まさか今のアッパーをかわされるとは思わなかった。
「思ったよりやるじゃねえか」
元の位置辺りまで距離を取り、ひのきの棒を構え金髪野朗を睨みつけながら言う。
「貴様もな」
金髪野朗もショートソードを構える。
両者とも構え、お互いを睨み合ったまま数秒の時間が流れる。
「あ、あの~」
さっきのできめるつもりだったが思ったよりもやりやがる。
もう手加減はしない、次は“加速”を使ってきめる。たぶん相手も次できめと思ってるはず……
「あ、あの~」
「うるさい! 今忙しいから後にしろ!」
クレアの空気を読まない発言に俺が怒鳴る。
「で、でも……」
「後にしてください!」
それでも言おうとするクレアに今度は金髪野朗が怒鳴る。
俺と金髪野朗の2人に言われ、さすがに諦めたのかクレアが黙る。
再び無言のにらみ合いが始まり、静寂が訪れる。
何秒睨み合いが続いただろうか、金髪野朗と俺がほぼ同時に動き出す。
相手に向かって全力で……。
「モンスターが着てますよ!」
「「へ?」」
「グォォ!!」
叫び声のする右方向を見てみると、巨大な熊が猛烈な勢いで突進して来ていた。
「あぶな!」
後ろに転がるようにして、紙一重で熊の突進を避けた。
どうやら金髪野朗もなんとか避けることに成功したらしく、俺とは反対方向にで転がっていた。
「クレア! モンスター着てるならもっと速く言え! あと1秒遅かったら確実に死んでたぞ!」
「す、すいません」
突進を避けられた熊は俺……ではなく金髪野朗に再び突進をかます。
「なんでぼく!?」
どうやら俺より金髪野朗の方が、熊に近かったらしい。
金髪野朗は熊の突進を避け、反撃をする為に体勢を整えようとするが、熊が手の爪を振るいまくりなかなか反撃することができない。
金髪野朗と熊の死闘をしばらく無言で眺める。
「…………よし! クレア休憩は終わりだ、先に進むぞ」
「え?」
「ちょ! 待て!」
金髪野朗の叫びを無視し、クレアの手を引っ張ってさっき望遠鏡で見た方向に歩き出す。
「おい! 待て! 待てって言ってるだろ!」
なにか後ろで叫んでいるような気もするがそのまま無視して進んでいく。
しばらく進むと金髪野朗の叫び声も聞こえなくなってしまった。
「あの人助けなくてよかったんでしょうか?」
クレアが後ろを振り返りながら言ってくる。
「大丈夫だろ……たぶん」
俺も後ろを見てみるが、もう金髪野朗と熊の姿は見えなかった。
「ロダさん、なんで突然あの人を蹴ったんですか?」
「え? クレアさっきの奴になんか嫌な事言われてたんじゃないの?」
「いえ、ただ話してただけですよ」
「あ、そうなんだ……」
岩の上から見たときクレアが嫌そうな顔をしていたのは、どうやら俺の勘違いらしい。
ということは、ただ話していただけの善良なプレイヤーを後ろからいきなり蹴り倒したわけだ。
「まあ、あいつ……悪い奴なんだよ、なんかもう色々悪い奴なんだよ」
だらだらと嫌な汗が流れ落ちる。
「そうだったんですか。悪い人だったんですね」
「……お、おう。極悪非道なやつなんだよ」
信じちゃったよ、こいつ今の信じちゃったよ。
自分で言っておきながらなんか金髪野朗がかわいそうになってきた。
「ま、まあ、あいつのことはもう忘れよう。うん、忘れよう」
自分に言い聞かせるように言う。
「さっき岩の上から見たときあっちに何か見えたんだ、とりあえずそこに行ってみよう」
そう言ってさっき見た方角を指差す。
金髪野朗が追いかけてきても面倒なのですぐに歩き出す。
そのまま無言でしばらく歩いて行くと、クレアが何かを思い出したように言う。
「そういえばロダさん」
「ん?」
後ろにいるクレアの方を振り向く。
「ロダさんってすごい人だったんですね!」
「なんで?」
クレアがなぜかテンション高めに言ってくる。
「伝説の装備の4つのうちの2つも持ってるなんてすごいですよ!」
「…………」
「な、なんでかわいそうな物を見るような目で私を見るんですか?」
「いや、別に……」
俺は元の方に向き直り、早足で歩き出す。
「ど、どうしたんですかロダさん、待ってくださいよ」
こいつ大丈夫だろうか……。
幅が10mぐらいの道がまっすぐに伸び、その左右を誰の物かもわからない墓が3つずつ一定間隔で並んでいる。
「ここですかね?」
俺の横に立つクレアが目の前に広がる墓地を見渡しながら聞いてくる。
金髪野朗と別れ望遠鏡で見えた方角にしばらく進んでいくと、この墓地にたどり着いた。
「間違いなくここだろうな」
左右に3つずつ並んだ墓が20列近はくあるだろうか。
たしか西にある墓という話だったが、こんだけ大規模な墓地だここで間違いないだろう。
まっすぐに伸びた道の先に階段があり、その上った先に他の墓よりも一際でかい墓が1つだけ建っている。
「あれだろ、間違いなくあれだろ」
俺が階段の上にあるでかい墓を指差しながら言う。
「あれだけ大きいですもんね」
わかりやすいのはいい事だが、こんだけわかりやすいというのはどうなんだろうか。
階段に続くまっすぐな道を進んでいく。
歩きながら周りを見渡して見るが、どうやら他のプレイヤーはいないようだ。
墓に供えてあるアイテムを取ってくるだけという簡単な内容のクエストで、何十万という報酬がもらえるとは到底思えない。
おそらくは何か起こるはずだ、供え物を取ろうとしたら守護者とか亡霊とかいうモンスターが現れて倒さないとアイテムを取れないとか、まあそんなところだろうとは思うが。
階段までたどり着き、そのまま2、30段ある階段を上る。
階段を上り終えると、黒い石で出来た高さ2m、幅が1mぐらのい四角い墓が見えてくる。
「ヘンリーって誰だ?」
墓の前まで行くと、四角い墓の真ん中に縦に「ヘンリー」と書かれていた。
「たしかクエストを受ける時、おばあさんの旦那さんの名前がヘンリーだって言ってました」
ということはあのばあさんの旦那の墓なわけだ。
俺は後ろを振り返り、下にある幾つもの墓を見渡す。
こんな場所に一人だけでかい墓があるなんて、ばあさんの旦那は一体何者なんだろうか。報酬で何十万もくれると言う話しだし、おそらくものすごい金持ちとかなんだろう。
まあNPCが金持ちだろうがどうでもいい話だが。
「で? お供え物ってのは何なんだ?」
墓には特に供え物らしきアイテムは見当たらない。
「お供え物としか書いてないんですよね」
クレアがステータス画面を見ながら言う。
俺は墓を1週してみたが、ごみ1つ落ちていなかった。
「何もないな。この墓じゃないんじゃないのか?」
ペチペチと墓を叩きながらクレア聞く。
「このお墓で間違いないと思うんですが……」
そう言ってクレアが近づき、墓に触った瞬間。
ズズズズズズズズ!!
ものすごい音を立てながら墓が後ろに移動していく。
そのまま1mほど後ろに移動して止まる。
「なるほど」
墓の下に階段が隠してあったのだ。
「どうやらクエストを受けたプレイヤーがこの墓に触ると動き出す仕掛けらしいな」
下に続く階段を覗いて見るが一番下までは見えない、結構長い階段らしい。
「取り合えず降りてみるか」
そう言ってクレアの方を見ると、5mぐらい離れた所で涙目でこっちを見ていた。
「何してんの?」
「いきなりでちょっとびっくりしちゃって……」
まあ俺もちょっとビビったけど、何もそこまで驚かなくても。
「取り合えず降りてみるか」
さっきと同じことをもう一度言う。
「は、はい」
隠し階段は幅が1mほどしかないので並んで降りる事は無理そうだ、降りた先にモンスターがいる可能性があるので俺が先頭で降りることにした。
ゆっくりと1段ずつ下りていく。左右に小さなたいまつがあるので真っ暗というわけではないが、足もとが見にくい為油断すると階段を踏み外してしまいそうだ。
「きゃ!」
そう思った瞬間に後ろでクレアの小さな悲鳴が聞こえてくる。
たぶん足を踏み外したのだろう、俺は後ろを振り返ることなくそのまま階段を下りていく。
それにしても長い階段だ、階段を下り始めてもう5分ほど経つがまだ終りが見えてこない。
すぐに終わるかと思っていたのだが、階段をこんなに無駄に長くする理由でもあるのだろうか。
そこからさらに2分ほど下りると階段の終りが見えてくる。
階段が終わると高さと幅が3mぐらい、長さ5mぐらいの小さな部屋になっていた。
「えらく長い階段だったな」
帰りはこの長い階段を上らないといけないかと思うとうんざりする。
部屋の奥に十字架があった、近づいてみるとぼろぼろの十字架にヘンリーと書かれていた。
その十字架に豪華なネックレスが掛けられており、ネックレスの先には紫色に光る小さな玉が付いている。
「お供え物ってこれですかね?」
クレアがそう言いながらネックレスに手を伸ばす。
「まて!」
俺が叫ぶと、クレアがビクッとして手を止め俺を見る。
「何が起きるかわからんから慎重に取った方がいい」
「わ、わかりました」
あらためてクレアがゆっくりとネックレスに手を伸ばす。
俺はいつでも戦闘できる態勢を取りながらクレアがネックレスを取るのを見守る。
「っ!」
クレアがネックレスに手を掛けた瞬間、ものすごい悪寒が俺の全身を駆け巡る。
しかし特になにも起きなかった。
「なにも起きませんね」
「あ、ああ」
嫌な汗を拭いながら言う。
すぐに治まったが今の悪寒はなんだったのだろうか。
「まあとりあえずクエスト欄を見てみろ、クエストを進めると新しい情報が追加される場合があるから」
クレアがステータス画面を開き確認する。
「あ、追加されてますよ! え~と、このネックレスをおばあさんに渡せばいいみたいですね。あとこのアイテムを持ってるプレイヤーが死んだ場合、アイテムはなくなっちゃうみたいです」
「それだけか?」
死んだらだめ、というのは俺達のような防御力の低いプレイヤーからすれば確かに厄介ではあるが、それだけであの報酬というのはどうも納得できない。
「もう1つありました、このアイテムを取ってからおばあさんに渡すまでの時間で報酬が変わるみたいです」
つまり早ければ早いほどもらえる報酬が高くなるわけだ。
「なら急いだ方がいいな」
報酬を半分で分ける約束だ、クレアが欲しがっていた杖は20万という話だし、最低でも40万はもらわなければならない。
「そうですね」
俺達は先ほど下りてきた無駄に長い階段を今度は上り始める。
この階段が無駄に長いのは時間稼ぎの為なのだろうか。
しばらく上ると入口が見えてくる、暗い中にいたので太陽の光が眩しく目をつぶってしまう。
階段を上り切り、ゆっくりと目を開ける。
「ぎゃーー!!!」
目を開けるとそこには、墓地のまっすぐな道を入口から半分ぐらいがモンスターで埋め尽くされていた。
「ど、どうしたんですか!?」
俺の叫びを聞いてクレアが階段を駆け上がってくる。
「きゃ!」
俺と同じものを見てしまったのだろう、クレアも悲鳴を上げる。
「ななななな、なに! ねえなんなのこれ! どっから湧いたのこれ!」
「わ、わかりませんよ!」
凄まじい数だ、100いや200はいるだろうか。
入口辺りに目をやると、墓地の外からモンスターが次々に集まってきていた。
それを見ながら俺の中でこのクエストへの疑問が次々に解決していった。
「わ、わかったぞ! 湧いたんじゃない、集まってきてるんだ!」
後ろにいるクレアの方を向く。
「さっきのアイテムにはモンスターを引き寄せる効果があるんだ!」
あのばあさんに話かけてからがクエストの始まりではなく、さっきのネックレスを取ってからがクエストの本当の始まりだったのだ。
ネックレスを取った時の悪寒はこれだったのだ。そしてあの無駄に長い階段は俺の予想通りまさに時間稼ぎ、モンスターが集まるまでの時間稼ぎだったのだ。
階段を上がるのに約6,7分ぐらいだろう、たったそれ誰だけの時間でこれほどのモンスターが集まったのだ、仮に死なずに倒し続けてもモンスターが減るよりも増えるスピードの方が速い。
「無理だろ! これ絶対無理だろ!」
これのクエストをクリアするとなるといったい何人のプレイヤーが必要だろうか。
攻撃、防御、そして機動力のあるPTが4つ、いやそれ以上必要かもしれない、それをたった2人でやるなど不可能だ。
「……なんとかなるかもしれません」
「は?」
クレアが何て言ったのかわからず聞きなおす。
「クリアできるかどうかはわかりませんけど、今この状況はなんとか切り抜けられます。そのあとはひたすら逃げ続ければどうにかなるかもしれません」
この状況を切り抜ける? 入口は大量のモンスターで埋まっており、さらにどんどん増え続けているのだのだ、切り抜けるなど不可能だろう。
しかし……。
「どうやって?」
あの弱っちいクレアができると言ったのだ、なにか策があるのかもしれない。
「さっき1つだけ使える魔法があるって言ったじゃないですか、あれを使えばなんとかなると思います」
そう言ってクレアがモンスターのいる方へ走り出す。
「ちょ! どうすんだよ!」
あわてて後を追う。
階段を下り切った所でクレアが止まる。
「すいません! 発動までに時間が掛かります、その間護衛をお願いします!」
「お、おう!」
いつもと違いテキパキと行動するクレアにちょっと押されつつも護衛しようとモンスターの方を向く。
「いやいやいや! 無理じゃね!? 護衛するとか無理じゃね!?」
高い所から見てもすごかったが、同じ高さに立って見ると半端じゃないくらい怖い。
道を埋め尽くす大量のモンスターがゆっくりとこっちに近寄ってくるのだ、もはやホラーである。
「ねえ、まだ! まだなの!?」
何秒と経っていないが待ち切れずに後ろにいるクレアの方を向く。
クレアは木で出来た杖を横に水平に構え何かをぶつぶつと唱えていた、その足元に半径1mほどの白い魔方陣が展開されている。
クレアが何事かぶつぶつ言う度に足元の魔方陣が少しずつ大きくなっていく。
ぶつぶつ言ってるのはおそらく詠唱だろう、詠唱が必要な魔法があるとは知らなかった。
集中しているらしくクレアは俺の問いに答えてはくれなかった。
仕方なく元の方へ振り返るとモンスターが少しこちらに近づいていた。
攻撃してみよか…………やめとこう、攻撃した瞬間に一斉に押し寄せてくる気がする。
そうなると俺がやることはなにもないような……。
俺はぎりぎりまでは手を出さずにクレアを見守ることにした。
クレアの魔方陣はすでに3mほどの大きさになっていた、いったいどこまで大きくなるのだろうか。
(やばいよ! やばいよー!)
すでにモンスター達は5,6mほどの位置まできている。
限界だ、そう思い手に持っていたコインをモンスターに向かって投げようと構える。
「ロダさん! 準備できました離れてください!」
言われるままに俺は横に急いで移動する。
クレアは水平に構えていた杖を大量のモンスター達の方へ向ける。
「超広範囲殲滅魔法」
……なんかものすごい物騒な言葉が聞こえたような。
クレアが物騒なことを言った途端、杖の先から新たな魔方陣が横に展開される。
その状態のまま数秒動きが止まる。
モンスターが展開された魔方陣に、手が届きそうな距離まで来た瞬間クレアが叫ぶ。
「アマテラス!」
魔方陣の中心からものすごい光があふれたかと思うと、その光が筒状の形……巨大なレーザーとなって放たれる。
放たれたレーザーは大量のモンスターを巻き込みながら、墓地の入り口付近で凄まじい爆発を引き起こす。
爆発起きた瞬間、目の前の世界が真っ白に染まる。
「おおおおおおおおおおお!!!」
爆発の余波と凄まじい光、そして威力に思わず意味不明な叫び声を上げてしまう。
光が収まると道を埋め尽くしていたモンスターのほとんどが消滅していた。
ありえない、そう言ってしまいそうなほど馬鹿げた威力だ、まさかこんな魔法が存在するとは。
「す、すげえ。すごいぞクレア!」
あまりの凄まじい威力にハイテンションでクレアの方を向く。しかしクレアはうつ伏せに倒れていた。
「……お、おい。大丈夫か」
近づいて聞いてみるとクレアが首だけを微かに動かしながら言う。
「す、すいません。あの魔法使うとしばらく動けなくなるんです」
なるほどあの威力だ、それぐらいの反動があっても不思議じゃない。
「だからあのアイテムをロダさんに渡すので、街まで持って行ってくれませんか?」
「バカ野郎! お前を置いて行けるわけないだろ!」
ただ単にクエストを受けたプレイヤーが持って行かないとクリアしたことにならないからなのだが、ちょっと言ってみたかっただけである。
「ロ、ロダさん」
しかしクレアは俺の発言になにを勘違いしたのか、感動したような顔で俺を見ていた。
「で、でもどうするんですか? あの魔法は次打てるようになるまでにすごく時間が掛かるんです、早くしないとまたモンスターが集まってきますよ」
「そんなの決まってるだろ」
俺はクレアを抱き起こすと、無理矢理自分の背中に乗せる。
「え?」
「おまえを背負って走る!」
そう言って勢いよく立ちあがる。
「ほ、本気ですか!?」
「当たり前だ、大丈夫俺に任せろ」
自信満々にそう言ったものの、俺は無駄に広いマラトヤ高原に目を向ける。
オーベルビリアまで遠いな…………。
なんとか11話目更新しました。
今回は今までで一番長く書きました。
あぶなく更新しないで1ヶ月経ってしまうところでした。
10話いったしちょっと休もう、とか思ったのがいけなかったですね。
いつも言ってますが次はできるだけ早く更新しようと思います。
ちなみに次回は走ります、ひたすら走ります。