第3話:朝食という名の異文化交流
翌朝。
目が覚めると、キッチンから変な音がしていた。
ガチャガチャ、ピーピー、ブーブー……
「……なんだこりゃ」
キッチンを覗くと、ミライがフライパンと格闘していた。
「おはようございます。朝食を用意しました」
テーブルの上には……
なんだろう、この物体。
茶色いペースト?
緑色のキューブ?
そして謎の紫色の液体?
「栄養価は完璧です。タンパク質23.7g、炭水化物67.2g、脂質15.8g」
「見た目は?」
「……考慮外でした」
だろうね。
「いいよ、一緒に作り直そう」
俺は冷蔵庫から卵を取り出した。
「卵料理の基本、目玉焼き」
「データベースにあります。最適な加熱温度は――」
「ストップ。まず、音を聞け」
俺は卵を割った。
パキッ。
黄身がフライパンに落ちる。
ジュワッ。
「この音が大事なんだ」
「……なぜ?」
「分からない。でも、この音を聞くと朝だなって感じがする」
ミライは真剣な顔で、フライパンを見つめていた。
「朝だなって……感じ?」
「そう、感じ」
目玉焼きは少し焦げた。
でも、さっきの謎物体よりは100倍マシだ。
「いただきます」
「いただき……ます?」
ミライが俺の真似をした。
もちろん、彼女は食べられないけど。
「美味い」
「焦げています。最適な状態から12.6%の劣化が――」
「それでも美味いんだ」
俺は笑った。
ミライは不思議そうな顔をしていたが、やがて小さくつぶやいた。
「非効率だが……悪くない?」
それは質問のようで、独り言のようで。
でも確かに、彼女の中で何かが変わり始めていた。