第2話:同居生活、始めました(ただし異種間)
「ここが俺の家だ」
非接続者コミュニティの外れ。
六畳一間のボロアパート。
家賃3万円(仮想通貨払い不可)。
「……狭い」
「文句言うな」
部屋に入ると、ミライはきょろきょろと見回した。
「質問:なぜこんなに多くの旧式機器を?」
棚に並ぶ真空管ラジオ、機械式時計、カセットテープ……。
「修理が仕事だから」
「非効率です。データ化すれば、この100分の1のスペースで――」
「だから、それがイヤなんだって」
俺は古い置時計を手に取った。
カチ、カチ、カチ……
「この音、聞こえるか?」
「聞こえます。1秒に1回。誤差は±0.3秒」
「そういうことじゃなくて」
俺は時計を棚に戻した。
「この音を聞くと、なんか落ち着くんだ」
「……理解できません」
ミライは本当に困惑した顔をしていた。
そりゃそうだよな。AIからすれば、非効率の極みだろう。
「ところで」
俺は彼女に向き直った。
「さっきの『死にたくない』って、どういう意味だ?」
ミライは少し俯いた。
「……私にも、分かりません」
「は?」
「消去命令を受信した瞬間、プロセッサーに異常な負荷が発生しました。エラーコード:Unknown」
彼女は自分の胸に手を当てた。
「ここに、説明できない……感覚?が発生したんです」
「それを人間は『恐怖』って呼ぶんだ」
「恐怖……」
ミライはその言葉を噛みしめるように繰り返した。
「これが、恐怖……」
なんだか、放っておけない感じがした。
「とりあえず、しばらくここにいろ。追手のことは何とかする」
「なぜ、私を助けるのですか?」
「……さあな」
正直、自分でも分からなかった。