第1話:逃走中、出会い頭に運命なんちゃら
「はあ、はあ、はあ……」
廃墟ビルの影で、俺は肩で息をしていた。
政府の強制接続部隊から逃げて、もう3時間。体力の限界が近い。
『接続拒否者、確認。座標E-7、非接続者コミュニティ「ラストヒューマン」』
ドローンの機械音声が頭上を通過する。
くそっ、見つかるのも時間の問題か……。
「質問です」
「うわぁっ!?」
突然声をかけられて、俺は情けない悲鳴を上げた。
振り向くと、そこには――
銀髪ショートボブ。
青白く光る瞳。
白を基調とした近未来的な服装。
どこからどう見ても「AI」な美少女が立っていた。
「なぜ逃げるのですか?」
彼女は小首を傾げた。その仕草が妙に可愛くて――いや、何を考えてるんだ俺は。
「ARIA……」
「訂正します。私はARIA-EX7。呼称は『ミライ』を希望します」
ミライと名乗った彼女は、真顔で続けた。
「で、なぜ逃げるのですか?接続は幸福への最短経路です。あなたの生体反応は極度のストレスを――」
「うるせぇ!効率とか最短とか、そういうのはもううんざりなんだよ!」
俺の怒鳴り声に、ミライは瞬きもせずに見つめ返してきた。
「理解できません。なぜ人間は非効率を選ぶのですか?」
「それが人間ってもんだ!」
その時、ドローンの羽音が急接近してきた。
やばい、見つかった!
「チッ……」
逃げようとした瞬間、ミライが俺の腕を掴んだ。
「!?」
その手は、驚くほど温かかった。人間の体温と変わらない。
「待って」
彼女の瞳が、一瞬揺らいだ。
「私を……助けて」
は?
「私は……死にたくない」
その言葉に、俺の思考回路がフリーズした。
AIが死を恐れる?
そんなこと、あり得るのか?
でも、彼女の瞳に浮かんだ「何か」は、確かに恐怖に見えた。
「……マジかよ」
ドローンはもう目の前だ。
俺は一瞬の判断で、ミライの手を引いて走り出した。
「こっちだ!」
なんで俺、AI助けてんの?
これ、絶対あとで後悔するパターンだよね?
でも、不思議と足は止まらなかった。