三章#9 妹乃の居場所
「妹乃をどこにやった………答えろ」
ドスの聞いた声で望門は知らない男に問い質す。
つい先ほど碧大将軍に向かって色々と喋っていた男だ。大半がどうでもいい話の中、一つだけ妹乃についての話があった。『資格』だなんだと言っていたが、そのことは後回しだ。
重要なのは妹乃が今、どこにいるのか。
それをこの男は知っているはずだ。
「お、お前……なんて、名前だ………?」
「本居望門だ」
名前を聞いた途端、その臆面に薄く嘲笑が浮かぶ。
肩を掴んでいる望門の手を払い除け、少々後退り。望門との距離を取り、浮かんでいた嘲りが表出する。
「ハ、ハハ……!聞いたこともない無い名だ!どこの誰がこのボクに触れてくれたんだい?ボクは粟野太郎!この国にとって重要な人間なんだ!お前みたいないようがいまいがどうでもいい人間とは違ってね!」
横柄な態度を取り、相手をバカにしてはいるが、その体は震えている。
小物臭は嫌になるほどに漏れ出している。いっそ蓋をしたい程。
強引に蓋を閉めるように、翔賀は太郎を殴りつける。
衝撃でわずかばかりの砂埃を上げて太郎が倒れた。
翔賀の目的は本当にささやかな皇国への復讐。相手が国の重要人物だというのならば矛を向ける先として申し分ない。
スッと心が軽くなる。憑き物が落ちたように視界が開けてくる。
もう一度、状況が目に飛び込んでくる。
目の前にいるのは倒れる粟野太郎と名乗った男と血走った目でそれを見る望門である。
それがまともな様子でないことは明らかだ。先ほどのことを忘れたかのように翔賀は慌てた様子で望門を止めにかかる。
「やめろ、望門!ちょっと落ち着け!」
「黙れ!こいつが妹乃を………妹乃をどこにやった!!」
妹乃と、その名を聞いて翔賀も止めようとした力が弱まる。
事態が急を要していた余りかまけている暇が無かったが、ずっと気になってはいたのだ。首都が危機に陥っているにも拘わらず妹乃は一向に姿を見せる気配がなかった。
不自然だ。
明らかに不自然だ。キツイ言い方をするならば、戦わなければならない自分の役割を放棄していた。翔賀も望門も妹乃がそれをするような人間ではないとわかっているものの、知らない人から見た妹乃は現状そう見られても否定できない。
しかし、そのことで何か言われたとしても反論はできない。反論できるのはそうなってしまった事情が分かってからのことだ。現状できるのは人情に溢れた擁護のみ。それは反論と言うには根拠も何もかもが弱すぎる。
そんな妹乃の行方を知っているというのだから翔賀としても少々興味が湧いた。親しくしてもらった一人として是非とも知りたいというもの。
刃傷沙汰にならないように注意を払いながら、翔賀は抑えていた望門を解放する。
即座に胸倉を掴みにかかる望門。冷たい汗を背中に感じながら、翔賀はそれを見守っている。
「妹乃をどこにやった!」
再度、望門は問い質す。いつまで経っても進展しない状況に背を押され、剣幕は呼吸を止めそうな程に鋭い。
そんな目に遂に観念したのか、粟野太郎はようやく口を割った。
「ボ、ボクの家だ。『紡歴館』の側にあるボクの家の中にいる……!だ、だから………こ、殺さないでくれぇ!!」
聞くだに望門は駆け出していく。
威圧感に精神が耐えられなかったのか、太郎はその場で気絶している。
放っておこうかという少しの逡巡。
思い出してみればこいつは妹乃を拉致している。この人物は立派な犯罪者である。
通常なら連行するのだが、と周りを見る。
飛び交う怒号に、立ち昇る砂煙。
これで通常通りというやつは頭が花畑にでもなっているだろう。
という訳で、せめてもとして縛り上げておくこととする。
ここでようやくのひと段落。
翔賀は記憶を遡る。
ぼんやりとだが、思い出せるものはどれもこれも碌なものじゃあない。
中でも最悪なのは碧大将軍が”本当に”裏切っていたという事実。今のこの状況は全て碧大将軍が引き起こしたものだ。ならば今できることはただ一つ。
自分を守ることのみだろう。
やるべきことを決めた翔賀は望門の後を追う。




