三章#7 資格
あの時。
俺がこの世界に迷い込んですぐ、俺は戦争に駆り出された。どうしてか今になってぶり返したその思いを胸に、翔賀はつい先ほどまで守っていた首都・陵空を目指して行軍する。
目的は本当につまらない憂さ晴らし。正直に言ってしまえばしょうもない。
ただ、それが重要なことのように思えるのだ。
それを成すに必要な過程、内側に入り込む為に翔賀は蒼穹碧と行動を共にしている。
目的の規模はかけ離れているが、取る手段の方向が一致したのだ。ならばその間は協力したほうがお互いに得であろう。ただそれだけの関係。
まぁ、翔賀の目的も広く見れば国への反抗、反逆だ。そういう意味では目的は同じと言えなくも………ない…だろうか。
と、翔賀はその程度だ。ちょっとした、ほんの細やかな復讐。復讐というのもおこがましいようなやり返し。
だが、横にいる少年、望門は違う。
五寸釘でも打つのかと思うほどに妹、妹乃の名前を呟いている。
その目ははち切れんばかりに見開き、ショッキングな映画に出演しても見劣りしないだろう。
それほどの強迫を感じる。
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小さな不満、不服。それは誰しもが持つ負の感情である。それが良いものか悪いものか、それは碧が手にした力の前では関係ない。
それが燻っているものでも、既に収まったものでも。
それに『たった一度でも』火が着いていたことがあるのであれば碧はその感情を煽り、大火へと成り上げる。その感情を『煽動』する。
それこそが導士となった碧の世怨、衆頼世怨の力。
導士背奈善継の夏雪世怨を受け継いだものである。
声に思いを乗せ、飛ばす。
まずは手段の統一。
次に目標の統一。
最後に目的の統一。
段階を踏ませ、堅実に、着実に手駒を増やす。
夏雪世怨に比べれば思い通りに動く駒は遥かに少ない。が、その力は文字通り声の限り届く。
個人が分からなければ力が及ばなかった以前から見ればこの力は考えられないほどに広大だ。
威儀を正し、歓声の中、碧は咆哮する。
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万人が納得、同意する政治などありえない。
ちょっとした方向性の違い、方法の違い、目的の違い、違い、違い………ひとまとめにしてしまえばどれもが『同意』とは異なるものであろう。その様相は十人十色、それを単一にするなど不可能な話であり、単一にしてはならない話でもあるだろう。
その中で要求を通すのか、妥協点を探るのか。それは時によって変わるが、本当の『全会一致』などありえないし、ありえてはならない。
だからこそ、政治とは難しい。
全会一致はありえない。なら、一致しなかった部分はどうなるのか。
自分の中に飲み込むのか、はたまた我慢ならないと吐き出すのか。人によって変化するそれを碧は単一にさせる。
『全て吐き出させる』
それは批判として誹謗中傷として、そして暴力として、現出させる。
街中で荒れ狂う暴徒たちの根本はささやかな不満だ。
笑い話にでもなったであろう愚痴が『煽動』され、爆発する。
些細な不安が『煽動』され、爆発する。
「碧大将軍!いえ、陛下!!」
「誰だ?そなたは」
「申し遅れました。私は粟野太郎と申します。是非とも私を陛下の臣下にして頂きたいのです!つきましては」
そう前置きし、太郎は続ける。
「稗田いろはを継ぐ資格のあるものを捕らえております」
「資格?」
「はっ!本居妹乃と名乗っている娘でございます」




