三章#6 天誅
陽光に照らされ、蒼穹碧が手に持った刀が輝く。切っ先を導士、背奈善継へと向ける。
「時期尚早じゃあないかい?蒼穹大将軍さま?減ったとはいえ、私たちは未だ健在。兵力差を考えればあなたたちをタダでは返さない兵力はあると思うけれどね」
「そうだろうな。だが、間違っても教徒にあの城を落とされるわけにはいかないのだ」
「それはそうだね。教徒が城を取ってしまえばあなたの再起はありえない。あなたが望みは一生敵わないだろう」
「だからこそ、今だ。分かるであろう」
「仕方ないね、世代交代ってやつかい?」
「そうだ」
「あなたには感謝しているよ。『名前』が無ければ【解脱】の力を使えないこの私にこれほどの大軍を率いさせてくれた」
「いつ聞いても貴様の力は内弁慶に過ぎるな」
「これでも気にしているんだ。そこは突かないでもらいたいね」
「そうか」
碧の持つ刀が弧を描き、善継の首を斬り飛ばした。
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籠城戦が始まって数日、北からの援軍の助けもあり、順調と言って差し支えない。彼我の戦力差は徐々に拮抗に迫っている。反転攻勢はすぐそこだ。
籠城というものは鬱屈とする。そこに攻勢という一筋の希望が差し込むだけでも士気は大いに持ち直す。漸減していくそれは回復の兆しをみせている。実にいい兆候だ。
「翔賀様!あれを!」
ざわざわとしている中、翔賀は言われた方を見やる。
そこには見慣れた光景が広がっていた。
黒い法衣を身に付けた教徒と鎧装束の皇国の兵とが戦っている。
失われていた見慣れた光景。即座、翔賀は命を下す。
「門を開け!!!打って出るぞ!!!今日で戦いを終わらせろ!!!!!!」
今こうして教徒と皇国の兵が戦っているということは何らかの形で導士の力が及ばなくなったか、はたまた討たれたか。そのどちらかだろう。
だが、それは後に回そう。今は一にも二にも戦っている皇国の兵を助けることだ。
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指揮系統の無い教徒にこちらの兵が襲い掛かり、瞬く間に制圧は完了する。
乱戦だったが故に南方面の兵の消耗はかなり酷い。その損耗の一部は仕方がないとは言え、翔賀らが負わせたものなのだから気持ちが微妙に晴れゆかない。
だが、その怨嗟を向ける先は同胞ではなく導士である。そのことを分かっているからこそ、一時戦い合った者たちでありながらも不和は見られない。
その点に限っては心底嬉しい。
数日に渡る籠城が終わった。張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れ、一帯は安堵の呼吸が充満している。
城の反対から歩いてくる人影が数名。蒼穹大将軍である。手には大将首とこれが証拠だと言わんばかりに萌黄色の法衣をひっかけてのご登壇。
「ご苦労だったな。武田翔賀」
「本当にそうです」
転戦、もう一度転戦、帰還の後、内通騒動、そして首都防衛。
最低でももう一人いたらなと考えない日はない。この一時であればドッペルゲンガーであっても大歓迎だ。募集要項でも作成すればさぞ真っ黒な企業が出来上がる。
「が、私たちにはもう一つだけ仕事が残っている。そうだろう」
一呼吸を入れた後、この戦いを記さなければならない。この力は危険だ。この戦いも初動をしくじっていれば負けていただろう。それにもし援軍がいなかったならば?今よりも厳しい戦いになっていたことに疑う余地はない。
何かが落ちた。心に何かが落ちた。水面に墨汁が落ちれば、その水は黒く染まる。何かが翔賀を染め上げる。
「今こそ、皇である天 龍樹を抹殺する好機である!皆の者!立ち上がれ!!」
俺は今、何をしようとしていた?あぁそうだ、思い出した。
「私が!私こそが!次代の皇である!!」
この世界に来て何も知らない俺に、この国は何をした?抗う余地もなく命がけに引きずり出された。どうしてか今になってそのことが喉に引っかかる。とっくに飲み込んだ、理解したはずのそのやり方に腹が立つ。だから、少しだけ殴らせてほしい。
「私の名は天 碧!この国の正当な世継ぎである!!!」
それだけできたならこの溜飲も下るだろう。だから、目指すのはあの一点だ。
翔賀は顔を上げる。つい先ほどまで守っていた城に焦点を合わせる。
「敵は首都・陵空にあり!!!この天碧が衆頼世怨の力をもって!!奴らに天誅を下さん!!!」




