三章#4 籠城戦
通せないと、望門の前に立つ衛兵は確かにそう言った。
「は?」
自然と、脳が理解を拒むように言葉が漏れる。聞き間違いであってほしい、そう希うように言葉が漏れた。
「ですから、ここから先はお通し出来ません。お引き取り願います。」
衛兵はそう長槍を持つ手に力を入れる。望門の持つ許可証の受け取りを拒むように両手で手にした槍を構える。
「……なら、女の子がここに来たはずだ。黒い髪の。その子はどうした」
「私にはわかりません。少なくとも、あなたの言う外見の人を見た記憶はありません」
「なら、前任に聞きたい。黒い髪の女の子が、妹乃がここに来たはずだ」
望門は尚も食い下がる。妹乃の行方を知るために、どこまでも足掻く。
「私の前任はいません。今日はまだ私しか立っていませんから」
そう強面の衛兵は告げた。
手にした許可証が音を立てる。
衛兵の言葉が真実なら、妹乃は翔賀に許可証をもらってからここに来るまでに何かに巻き込まれたのだろう。
「はいは~い!帰りましょう、望門さま~!無理を言ってここまで来たんですから約束は守らないと~!!」
思考を遮るように恵が言葉を挟む。
恵の言葉は正論だ。どうしようもなく、反論の余地もない正論だ。
歯を強く噛みしめながら、おずおずと望門は渡会の屋敷を後にした。
~~~~~~
「妹乃はいたのか?」
「……いや、いなかった。というか入ることすら………」
そう落胆する望門を見て翔賀は引っ掛かりを覚える。だが、今に限ってはそれは後回しだ。将来的な危険の話をするよりも間近の危険について話し合おう。積極的に鬼に笑われるような趣味嗜好は生憎と持ち合わせがない。笑われるのは勝利の女神を所望しよう。
ようやくと翔賀は望門に蒼穹大将軍含む南方面についての話をする。
ことの重大さは然程時間がかかることもなく伝わった。原住民でない翔賀ですらすぐに理解し得たのだ。望門ら元々この世界で生まれた者に理解出来ない道理はない。無論、頭は一度理解を拒むのだが。
「で、どうするかなんだが………正直に言うと俺には籠城以外思いつかない」
野戦をするには兵数が違いすぎる。相手は三千、こちらは限界までかき集めたとしても千の位に届くかどうか。これで野戦決戦など死にに行くようなものだ。
だが、籠城戦ならば。広く、城攻めには五倍の兵力がいると言われている。単純にその理論を当てはめるならば、相手には五千に近い人員が必要になる。
これならば勝機を見ることもできるであろう。しかも時間をかければ西や北からの援軍も期待できる。今回、時間が味方をするのはこちらと言って過言はないであろう。
「遊撃も出さないのか?」
そう聞いてきたのは結月梓だ。
全軍での野戦ではなく多数の籠城する兵と少数で背後を突く遊撃部隊。挟み打ちにすることもできるだろう。
一見良さそうにも見えるが、翔賀は待ったをかけたい。
相手は三千だ。それに対してこちらが出せる遊撃部隊は振り絞っても四百ほど。遊撃で背後を脅かされるならば、後方の兵を丸ごとその対処に回せば済む話だ。万全を期すならば、城から打って出ないだろうことをいいことに前線を下げ、全軍で当たることもできるだろう。そうなれば間違いなく全滅する。そしてそれは絶対にあってはならないことだ。
だから翔賀たちが打って出るのは野戦で勝てるほどに相手が減った時、もしくは西、北からの援軍との三方挟撃ができるようになったらだろうか。一先ず、翔賀はこう考えている。
あるいは………
「敵は多分人を操るような力を持っている。だからソイツが目に見える場所にいるなら………」
打って出るのも手だろうか。だが、それは今考えることではないように思う。目に見えるとは言っても敵のど真ん中にいる状態で突撃して討ち取れると思えるほど翔賀の頭は花で埋まっていない。
すべては敵の陣振り次第。
特段に別のアイデアが沸いて出るでもなく場は解散となった。
他力本願もいいところだが、正直な話、翔賀は別の斬新なアイデアを求めていた。
籠城戦とは敵を倒す戦い方ではない。負けないための戦いだ。つまり籠城戦を強いられている状況というのは総じて旗色が悪い。籠城戦を順調にこなすことができるならば、兵力の差は次第に縮まるだろう。だが、それはいつの話になるのか。先の見えない無間地獄にあっていつまでまともな判断を下せるのだろうか。不安要素は山積みだ。
~~~~~~
萌黄色の法衣を纏った導士、背奈善継は目の前に広がる大軍にご満悦だ。そしてこうなる土台を整えてくれた皇国の将軍蒼穹碧には特上の感謝を送ろうと思う。
「感謝しているよ。蒼穹大将軍さま。この声が聞こえているか、残念なことに私じゃ分からないんだけれどね」
教徒に御輿を担がせ、善継はその上に鎮座している。その隣にはうんともすんとも言わずにうつむく蒼穹碧。
その前に広がるのは動く屍のようにただ、侵攻を続ける皇国の兵たちである。




