#9 死ぬということ
日本でも人は何人も死んだ。寿命、病気、そして殺人。悲しくも命はいとも簡単に吹き飛び、全てを攫って行く。かくいう翔賀も幼いころに母方の祖母を亡くした。もうあまり覚えていないが、周囲の人達は悲しみに暮れたと思う。
そして今、目の前で人が何人も死んだ。それも確とした殺意、敵意をもって殺された。相手にも殺意はあった。自分が死ななくて良かったという安心と人が死んだという衝撃が翔賀を貫く。
「………賀!大丈夫か!?」
肩が強く揺すられる。おぼろげな視界に光が差し込んでいく。
「だ、大丈夫……」
「大丈夫ですよ。初陣の兵がよくなるヤツです」
茜色の髪を短く切り揃え、色の薄い肌で白い衣装を身に着けた女性だった。赤い目が静かにこちらを見つめている。そして、
「………なんで手を握っているんで、痛ってぇ!!!」
「勘違いされそうな風に言わないでください。この神術の場合、効率的にここが一番いいんです」
「それはどういう?」
潰されかけた右腕を案じながら、翔賀は尋ねる。
「手を握られると安心感が沸くでしょう?この”陽の木”の神術は対象に安心感を与えるものです。あなたは心が乱れていましたから、この術を効率良く使うために手を握っていました」
心が乱れるがそっち方向に聞こえてしまうのはそういう年齢だからだろうか。きっとそうだと翔賀は信じる。
「だから!決して!!そういう意味では!!!ありません!!!!」
強くなる語気と共に頬がふくらんでいく。
「わ、分かった!分かりました。変なこと言ってすみませんでした!」
「ならいいです。これっきりにしてくださいね!!!」
「はい、分かりました。もうしません」
「なら、さっさと帰りなさい。待っている人もいますから」
そう言って茜色の髪の女性は歩いて行く。
「あ!名前だけ!」
「薬袋伊那です」
短い髪を揺らしながら、彼女は言った。