三章#2 三千人のエキセントリック
「攻め寄せる?蒼穹大将軍と京極将軍が?」
告げられたそれは理解を拒む魔法の言葉。あってほしくなかった、直視したくないと、流れるままに放置した許されざる咎。異変はあった。それに幸か不幸か翔賀は気付いていた。
あの怪しさに溢れる行き違いはやはり追求すべきだったのだろう。
行き違いのしようもないような環境で起きた手紙による錯誤は状況証拠としては十二分。今回で言えば行動を起こしているのだからそんなものは必要ない訳だが。
それと同時に、内通疑惑は更に深まることになるだろう。なにせ国の大将軍すらも教徒側だったのだ。接触する機会などそれこそ掃いて捨てるほどあっただろう。
状況証拠、されど状況証拠。
疑惑が確信に変わるのはそう遠くない。
そこまで思考が歩き出し、翔賀はその一歩目を踏み出せていないと気付く。これは本当に反乱なのか、と。
「これは反乱じゃない!何者かに操られている」
知らせを伝えた者は確かに言った。南方面の兵三千が両将軍に率いられ、教徒と共に攻め寄せている、と。ならその兵たちは唯々諾々と自らの故郷を焼き払わんとしていることになる。それは考えにくい、と翔賀は思う。
ここは紛れもなく彼ら、敵対しているはずの教徒と共にどういう訳か攻め寄せている兵たちの故郷である。生まれ故郷かどうかはひとまず置いておくとして、当然ここには彼らの私財や家族が住んでいる。それを分別なく焼き払うことなどまともな人間にできる所業ではない。だからこそ教徒はそれをやらかすのだが。
仮にそういうエキセントリックがいたとして三千人全員がそれというのはありえないと、そう断言して憚らない。それを織り込んだうえでの再編であったならば素直に脱帽だ。まともな運営をしているゲームの運営機関にごく平凡な一般人が抗って勝てる道理などあるはずがない。
そう翔賀は結論付ける。だが、攻め寄せていることは変わりようのない事実。これをどうにかしなければならない。
まず、一にも二にも兵がいない。とにかく兵がいない。それも圧倒的に。総兵力の大部分を抱えていた南の兵が丸ごと敵になったのだ。今首都にいる数では遠く及ばない。
よってまずは戦線の落ち着いているらしい西の物部将軍と北の蘇我将軍へとすぐさま使者を飛ばす。最上級の速達便で依頼しよう。東の望門らにも当然要請するが、こちらは西や東に比べれば遥かに近い。
特に西からの援軍は上手くいけば教徒と南の兵を首都の兵とで挟み打ちにすることができる。
しかも、教徒や南の兵の背後に両将軍や兵を操っているものがいるのだとすれば、裏を突くことのできる可能性のある西からの援軍はそう言った意味でも有用だ。
こうなれば確実に優位に立つことができるだろう。たとえ単純な兵数で劣っていたとしても部隊数で勝っているのならば、そこには十分勝機が見える。
ただ、出来る限り南の兵は討ち取りたくないというのが隠せるはずもない本音だ。
叶わぬ理想論を語るのならば、兵には誰にも死んでほしくは無い。
それは部隊を指揮する者としても、一人の人間としてもそれを願っている。
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「翔賀、来たよ」
翔賀は恵と共に望門を待っていた。
予測通り望門らは早い。翔賀は集まった顔ぶれを確認して、早々に議論に入る。
いない
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呼び出された場所に赴いてみると翔賀と恵『だけ』がそこで待っていた。
いない
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「「妹乃はどこ行った?」」
二人は異口同音に言葉を紡ぎ、見開いた目で暫し呆然とお互いを見つめた。




