三章#1 反乱
日が変わっても尚、内通疑惑の話題は溢れかえっている。
そんな内憂が発覚したからと教徒の侵攻は止まらない。
望門は夏雪世怨を信じる説者との戦いを繰り広げていた。
幻を見せる面倒な敵だったが、特別苦戦することもなく討伐に成功する。
いつもなら安堵の一潮が満ちては引いていくところなのだが、こと最近に至ってはそうもいかない。緊張を保ったまま、望門らは引き上げる。
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この国は推定無罪である。
故に、極刑レベルの犯罪でも確定するまで刑の執行はなされない。それを悠長と思うか冤罪をできるだけ少なくするための素敵な解釈ととるかは人それぞれだろうが。
翔賀は内通疑惑をかけられた公族、天頼慧林が捕らえられた経緯をもう一度確認する。
そして分かったのは、どれもが状況証拠に過ぎないということだ。
実際に経を熱心に唱えている場面を目撃されたわけでもなし、慧林が教徒の者とあったという目撃があったわけでもなし。あったのは自室に置かれている三蔵のみ。
確たるものに欠けているというのが正直な感想だ。だからこそ、刑が執行されていないのだが。とはいえ、この知らせが広まった効果としては絶大だ。
情報伝達が発達している現代においても話には相応の脚色がありふれている。
一次から二次、三次と人を挟んだ回数分だけ情報というものは価値が落ちる。
その気になりさえすれば万人が一次情報、二次情報にありつける現代でさえ、尾ひれはつく。それが基本人づてで話の周るこの時代ならどうなってしまうのだろうか。未確定は次第に確証になり、それは次第に無根拠の確信に繋がっていく。その果ては『確信情報』を元にした価値のない批判。誹謗中傷と言ってもいいそれ。
それが次第に大局となっていくことが易々と想像できる。
どれだけの年月が立とうと人は大して変わりやしない。
人は信じたいものを信じようとする生き物だ。
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「世怨の資料を見たい?」
「うん。お兄ちゃんが搦め手を使う敵には最初からある程度の当たりをつけておきたいって。でもお兄ちゃん忙しそうだから」
私が来た、と。妹乃は言外にそう言った。
望門の話は分かる。先日の説者のことだろう。
幻を見せるというのは単純だが、厄介だ。ゲーム的な考えならば、そう言った能力に特化した敵はそれさえ破れば楽になることが多い。
と、そもそも断るつもりもなかったのもあり、翔賀は早々に一筆したためる。情報の錯綜を防ぐためかどうかは分からないが、世怨の資料にありつくためには少々の手続きが必要なのだ。とはいえ、紙一枚。判を押して終わり。負担はほぼない。甘いセキュリティにも思えるが、偽造が出回っているならとっくの昔に資料側にもっとしっかりとした警備が付いているだろう。
「ありがと!じゃあ、行ってくるね!」
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妹乃を送り出してから数時間が経っただろうか。随分と読み耽っているらしい。まぁ、そうなるだけの情報でもあり、そうなるのも納得できる程の数が揃っている。時間がかかることに然程疑問は湧かない。
それはいい。それはいいのだ。
だが、今の知らせは一大事と言うのも生温い。
「……今、なんて言った?」
「南に赴かれた蒼穹碧大将軍と京極琴葉将軍とその兵三千が達多教徒と共にここに向かって侵攻しております!」
報告にきた者は顔を青くして確かにそう言った。




