二章#27 作戦開始
翔賀と望門を圧でもって押し切った結月梓。
既に作戦は始まっている。今頃は攻勢を仕掛けた望門らが攻めきれずにこの拠点まで退いてくる手筈だ。要は偽装後退である。
(これで今回も皇国軍に死者は無し、と)
後退途中に死ぬマヌケは預かり知らぬところ。
他の者が今ここにいればそのものは導士と仲良く無理心中だ。せっかく死にに来てくれるのだから目一杯もてなすのが礼儀というものだろう。宿に泊まって宿主の添い寝などごめんだ。
(ただ、できればこれに頼りたくないが…)
そう思いながら掻痒感を覚え、梓は左肩を掻き毟る。
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第一フェーズ完了、失敗。が、折り込み済み。
攻勢に出て導士に対して陰の木の神術を打ち込み、斬りつける。これで倒れてくれれば楽だったのだが、やはり失敗。すぐさま後退し、梓のいる拠点まで前線を下げる。
それと同時に望門率いる別働隊が導士の背後へ。退路に蓋をし、万一の導士の後退という線を防止する。
これによって形式的には導士は袋のネズミ。普通なら如何様にも料理できるのだが、できなかったのが『不死身』の導士だ。
無事に誘引の目的は完遂。導士の行動はこちらの想定通り。あとは梓がとびきり強力な陰の木を打ち込むだけだ。
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「よう。初めましてだな。私が一人だけで驚いてんのか?これは全部策の内。嵌められたってやつだ」
「つまり小生に与えられた苦難!!これを乗り越えることであなたは感極まり同志となっていただけるということ!!」
興奮冷めやらぬと導士は恍惚を浮かべる。言ってしまえば気味が悪い。マトモな感性を持っている自覚のある梓にはとてもではないが共感など。だが相手取るには好都合。それだけ分かりやすい隙が生まれているのだから。
「勝手に人を感動させてんじゃねぇよ」
響くような重低音で導士の耳をそっと打つ。それと同時に手にした剣で腹部を貫いた。
突き刺さった剣をそのままに梓は持ち前の俊敏を発揮して導士から離れる。
「外からの傷には強いようだが、内側から侵食されるのはどんな気分だ?」
「あぁ!このような苦難をお与えになるとは!先達者様に感謝せねば!」
そう叫ぶや否やこちらを無視して拝み出す始末。全くもって不愉快だ。
放っておけば良いソレに、自分を直視しないソレに梓はつい怒りを覚える。
存在が足りないなら足してやるとばかりに一応と借りていた刀を抜き、導士目掛けて斬りかかる。
咄嗟に受け止めようとした導士の腕を半ばまで両断。離れようとするが離れられない。
手首に違和感。
見れば今しがた切り裂いた腕が自分の手首をガッチリと掴んで離さない。
「小生の祈りを邪魔したこと、地獄で悔いて喚くがいい」
グイッと体が接近する。息苦しさを覚え、目線を下げた。
短い悲鳴だ。肘まで切り裂いた導士の腕。その両方に肉が生成され、左腕が二本になっている。
気持ち悪い。それが咄嗟の感情だ。
左腕で拘束し、右腕が動けない梓を嬲る。
「!なんと…これはこれは」
何かを見た導士は拘束を解く。解放された梓が咳き込むのを見ながら、導士東忍は話す。
「同志三日月が探している三日月薊という人物。それはあなたなのではありませんか?」
太陽が梓の肩口、そこに刻まれている雲の上で輝く三日月の入れ墨を照りつける。




