二章#26 撤退戦は難しい
進撃をやり過ごし?食い止め?陽は落ちた。
合流した面々に課せられるのは情報の共有と対策の思案である。
「一応聞くんだけど三日月薊って人、知ってるか?」
首を傾げる妹乃、どこ吹く風と澄、装束のせいで表情のわからない梓、自信満々に知らないと恵。
みんながみんな多種多様に『知らない』と言っている。
望門曰く三日月棗という導士が探しているという人物。だが、知らないものは知らない。話の焦点は自然とその導士の力へと遷移する。
曰く、手を叩いたら神術が構築し直し、要するに破壊されたと。
なるほど。
わからん。
現状判断できるのはこれまで以上に近接戦闘が重要そう、程度だろうか。
さて、未来を語るのも良いが、目の前を見つめよう。
現状、翔賀らは撤退戦の様相を強いられている。これは良くない。非常に良くない。なにせ戦いで最も難しい戦闘こそ撤退戦だからだ。
撤退戦で敵将を討ち取った諸葛孔明や『逃げ弾正』と評される高坂昌信が高く評されたところからもそれは明白。
故になんとかして攻勢へと持っていきたい。いつだって主導権を握るのは早く動いた側だ。
攻めてきたから防ぐという後手対応は可及的速やかに脱したいところ。
だが、あのIPS細胞の完全上位互換のような再生力にどうすれば良いのだろうか。
物理はダメなら魔法で、というのはゲームにありがちなものだが、物理も魔法もダメなら次はなんだろうか。状態異常だろうか?
脇道に逸れているような気がした思考を一旦中断。
せっかくここには共通の悩みの種を持つ人がいるのだ。
手を借りねば損と言うもの。
〜〜〜〜〜〜〜
結論から言おう。物理も魔法もダメなら次は状態異常か?という考えは良い線をいっていたらしい。あくまで最終決定と似通っていたというだけだが。
方針は決まった。なら次はどうやって相手にソレを喰らわせるのか、だ。
神術で浴びせるのが一番楽なのだが、浴びせても意味の無いことは既に判明済み。となれば直接に塗り込まねばならない。
刀というメスで切開した斬りたてホヤホヤの傷口に陰の木、腐蝕の効果をプレゼントだ。
以上がメインプラン。そして同時に実行するサブプランが一つ。
「私がやる」
話を終えてすぐ、実行する一番危険な役どころに結月梓が立候補。
この役に必要な要素は三種類。
一つ目、俊敏性。一番危険なのだから、やることが終わった後、迫る危険から逃れるだけの機動力は欠かせない。
二つ目、ある程度の実力。導士と対面しなければならない関係上、絶対に欠かせない。
三つ目、自力での陰の木の神術の発現。できるだけ強力なものが望ましい。
二つ目に該当するのは一定いるだろうがネックになるのはやはり一つ目。その点忍びならば、なるほど、適しているだろう。
翔賀と望門がGOサインを出さないのは梓についての二つ目が微妙だからだ。
忍びはその名の通り隠れ忍ぶもの。手に持つ武器も暗殺任務を除けば積極的に戦うのに適さないもの。見つかってしまった時の対処法の一つとしての側面が大きい。その上防御力など皆無だ。
渋る二人。それに対し、妙な自信でもって自推する梓。悩むはいいが、代替案は無し。
作戦のボトルネックは梓となった。




