二章#23 帰還
「遥幽世怨の名の下、この荒木累にあなた方を語り継がせて欲しいのだ」
そうお決まりの宣言をする萌黄色の法衣を纏った説者は西洋人のような淡い金髪の男だ。片手には長い槍を持っている。そこまでは普通だ。だが、目を引くのがその背に負った琵琶である。
戦場には似合わなさすぎる文明の産物。
「石橋は叩いて渡りたいが、叩いて渡る橋も無し」
要はここから何か特別にすることもないということ。
「各自、殲滅せよ!」
数ではこちらが優勢。一人に対する人数が多ければそれだけ戦いを有利に進めることができる。
両軍がぶつかり合う。火の爆発が降り注ぐ。鉄がぶつかり合う音と喚声が喧しく響き渡る。
説者が繰り出す槍はそれほどに鋭くない。捌くのは容易い。やはりというか敵のメインはあの謎の琵琶なのだろう。
「いい頃合いでしょう。これより皆様にお聞きいただくのは、この世と思えぬ火と風の調べ!さぁささぁさ!ご堪能あれ!」
背負っていた琵琶に手を添え、張られた弦を弾き鳴らす。
豊かな調べと共に顕現するはご高説賜った炎と烈風。
燻った炎が風に煽られ、火の旋風となって吹き荒ぶ。言うなれば火の台風。ならば、本当の台風をぶつけて差し上げよう。
指揮に沿って火によって発生した上昇気流目掛けて神官の水の神術が降り注ぐ。火炎を水でもって飲み込み、渾身の琵琶の攻撃をいなす。琵琶の攻撃は無効化に成功、そして奴の槍術は対処可能。
ならば、恐れるものはそこには無い。
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程なく、拠点は凱旋の声に包まれる。
「そなたの言は確かであったな。あの場では、清岡恵とやらの神術が最も強力だった。父上にも上申しよう。あれは策に組み込むに値する」
「だ、そうだぞ。これで監視は解いてやれるだろう。まぁ、それは刑部の仕事だから俺に権限はないのだが」
「本当ですか!やったぁ!!ありがとうございます!!」
恵は実に可憐に可愛らしく笑った。
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数日後、拠点となる要塞は遂に完成した。それ即ち翔賀は一旦のお役御免である。
物部将軍らから感謝の言葉を頂き、翔賀ら中央からの派遣部隊は帰路へと着いた。
だが、帰ればそれはもう沢山のお勤めがあることだろう。
この功績への褒章の用意もその一つである。そして、清岡恵の沙汰。
特筆すべきはこの辺りだろうか。
ならばすぐにでも帰り、ほどほどに自分を労わりつつ職務に励むとしよう。何せ、彼らは今も変わらぬ最前線。後ろを固めるのはこちらの仕事。
分業のなんと素晴らしいことか。
そんな翔賀をもてなしたのは仰々しい歓待でも、手厚いアフターサービスでもなく、急を要する東からの要請であった。
曰く、『不死身』に対する案が欲しい、と。




