#7 狂いの笑み
「渇関世怨の名の下に、この四市説者があなた方に救いをぉ………差し上げましょうぅ」
そうほざくのは両手に死体をぶら下げる長めの髪の男。体が華奢なせいで女に見えなくもないが声が完全に男である。人を殺しておいて『救い』だなんだという敵に翔賀は怒りもハテナも止まらない。
言動不一致選手権でもあれば出場していそうな行いである。
「あれが達多教徒なんだよ。理解なんてできるわけが無いし、しなくていい。時間と労力の無駄だから。」
望門の口調からも怒りが感じ取れる。
「ん!えいっ!!」
そんな可愛らしい掛け声で放たれる人二倍くらいはありそうな火球。それが放たれ………
「危ないなぁ…」
四市が火球に向かって手を広げる。爆発が起こることもなく、火球は水の檻に閉じ込められた。水はじわじわと火球を蝕み、やがて火は消えてしまった。
「ほらぁ!みんな行っておいでぇ!」
号令に従い動き出す黒服の教徒兵たち。どいつもこいつも人がしてはいけないような笑みを浮かべ、一心不乱に突撃する。
人は通常命を惜しむ。一種の動物であり、種族の繁栄が根底に根付いている生命体なのだから当たり前である。それゆえに『死』という繫栄の反対に位置するような概念に恐れや畏敬を抱く。それがこの世界でも変わりはないことは望門が言った言葉からも推察できる。
無策かつ無思考で突っ込んでくる彼らに『死』への恐怖は1%だってないように思える。
「防御姿勢を取れ!!各個撃破せよ!!」
向かってくる教徒に盾を構える。顔をのぞかせると気狂いの顔面が押し迫る。お化け屋敷などとは比べ物にならない恐怖が全身で感じられる。
到達の間際、教徒が転んだ。それはもう綺麗に顔面から。見れば、沼のようになった地面に足を完全にとられている。
「お兄ちゃん!今!」
「分かってる!!」
盾から身を翻して、望門が腰に差していた刀を抜き放つ。そして、首めがけて横一閃。首と胴体は生き別れとなった。