二章#18 自己意識
「「………私たちは高丘瑞希。弐託世怨の名をもってお前たちを救ってやろう!」」
耳慣れた宣戦布告の言葉。
けれど、こちらには動揺が走っている。原因は目の前の光景だ。
「いつからそこに『いた』?」
今、目の前には”二人”いる。
白髪の女と黒髪の男だ。何もない平地から『男が突然現れた』。
「いつからそこにいたって言われても、そこのあばずれ女と一緒にいただろうが。不本意だがな」
「噓つくな!この豊満なカラダを間近で見れて役得だと思ってるくせに!」
「一緒にいただと?ふざけるな!ここにはその女一人しかいなかった!」
「俺はそこに『いた』。確かに肉体は無かったが、俺の『自己意識』はここにあった。なら、自己意識を元に肉体を作ればいいだけのことだ。あぁ、いと麗しき御仏のご加護よ!!」
男はそう言うと膝をついて恭しく信仰を捧げる。
荒唐無稽としか思えない男の話。
だが、翔賀は妙に得心できる。なぜなら他の誰でもない自分に起きたことと似通い過ぎているからだ。
全く知らないこの『異世界』に『記憶』を持ったまま生まれた、否『現れた』。
あの一瞬を他から見たらどうなっていたのかは分からないが、恐らくは目の前の男のようなものだったのではないだろうか。何も『ない』ところに急に『現れる』。そんな不可解な現象があの場所でも起こったのではないだろうか。
「………話終わった?もう殺していい?」
「終わったが………その椅子どこから………生み出したのか?」
「私たちは曖昧だからアタシは椅子を含めてアタシだと信じればいいんでしょ?簡単じゃない」
「相変わらず、才能だけは抜群だな………」
「だけってなによ!才能もに改めて!」
「絶対嫌だ」
「冗長なお話をご苦労だったな。だが、戦場でやるには長すぎるようだ」
そう言を発するのは目下の物部猪子である。見惚れるほどに完全に二人を包囲している。
「翔賀とやら。貴様もいずれこの視点から戦う時が来るであろう。よく見ておくことだ。将の視点と指揮官の視点はまるで違う」
翔賀は戦場を見る。将ではなく、一人の指揮官としてだ。
こちらは見事な包囲陣。平時であれば、その人数さも相まって負けはないと、そう断言できるだけの状況であろう。
「アタシを無視してよくこんなことができるわね!悲しいわぁ……悲しいから、涙が止まらないわぁ」
わざとらしいにも程があるだろう。目に手を当てて女はしくしくと嘆いて見せる。
「え~ん、え~ん」
瞬間、恐らくはその場にいた全員が目を見開いた。
女は消え失せ、龍が現れたのだから。




