二章#18 開戦
資材を前線に届けたことで翔賀に与えられた仕事は終わった。だが、ありがたいことに前線の構築完了まで物部将軍に協力せよという命も同時に賜っている。なれば従わねばならない。
だが、物部将軍から休むように言われている。敵襲は無かったが長旅による疲れは蓄積している。翔賀はありがたくねぎらいを最大限有効活用することにした。
~~~~~~~
けたたましい鉦の音で最悪の寝覚めを遂げ、翔賀は物部将軍の元へとはせ参じる。
「出陣でしょうか」
「いや、まだだ。貴様たちには我らの戦を見て頂こう」
目線の先には三人の将と決して多くはない部隊が見える。
「左から物部絵美、物部入虎、物部猪子。全員私の子だ」
ここは最前線。これまでの戦いとは違い、今ある安定した補給が永久に続くという保証はどこにもない。特に人的資源は貴重を極めるだろう。だからこそ予備兵がこの基地には自分たちが連れて来た兵を含めて数多く残っている。
「もう見えるはずだ。………本当に此度も一人か。近頃は集団を見ぬな………」
「近頃は?」
「そうだ。以前は嫌になるほどに多かったのだが………」
教徒の減少は各方面で確認されている。
最後に大規模の侵攻を見たのは奇しくもこの西方で、接触前に何故か全員が惨殺されていたというものだ。惨憺たる有様だった上に場所も遠かったため、詳しいことは分からないが。
報告にあったのは焼けたような跡と、焦げた緋色っぽい色の法衣である。一時は敵の首魁が死んだのかと俄かに沸き立ったものだが、残念なことに曙留尼陀とかいう敵の首領の生存はこの目で確認済みだ。
話を戻して、敵の減少だ。翔賀は説者と導士の討伐への貢献が大きいとして将となったが、これはかなりのイレギュラーと言っていい。
基本、位は殺した『数』が重要になる。それはこれまでの記録を見れば明らかなことだ。そもそも、これまで説者や導士がこんなにも頻繫に来襲してきた記録は無いのだから。従って討伐の絶対数の減少は絶大な影響がある。おかげで兵の位を上げられないと、将軍がぼやくほどだ。そしてその結末は働いても報われない機構というブラックの誕生である。
次戻った時には臨時の報酬制度でも提案してみるとしよう。
部隊の前方に現れたのは萌黄色の法衣を着崩し、谷間を露出させた白髪の女である。こちらに全く注意を払うことなく一人で何かを喋っている狂人がそこにいる。
「アンタいい加減早く出て行ってくれない?用を足す時も湯浴みの時もアンタが見ているって考えると寒気が走るのよ!お陰で湯浴みをしても寒いのよ!アンタは私の股や胸を見られてうれしくて興奮しているかも知れないけど、私は虫唾が走るのよ!」
「誰が見たくもない女の裸見せられて興奮するんだよ。思い上がりも大概にしろよ、このあばずれが。あと、出ていきたくてもできないってずっと言ってるだろうが!」
「前にも私を見つめる熱視線があんなに沢山。火照ってしまうわ。全員が羨む私のカラダを間近で見られるんだから、アンタは私に感謝すべきよね?」
「こうなって一日で嫌になったが?」
「死ね!!」
「お前がさっさと死ぬんだよ!」
「貴様!名をなんと言う!」
痺れを切らして物部猪子が口を開く。
しばらくの間。そして息を合わせたように女導士は口を開く。
「「………私たちは高丘瑞希。弐託世怨の名をもってお前たちを救ってやろう!」」




