二章#16 西へ
渡会家への訪問を終え、自分の勤め場所に戻る。
「失礼いたしました!」
声と共に姿を見せるのは清岡 恵とその監視役だ。去っていく様子を横目で追いながら、翔賀は碧将軍の待つ部屋へと入る。
「失礼します」
待っていた、とばかりに肘をつき、首を傾げてこちらを見つめてくる将軍。
「えっと………なにかありましたか?」
「いや?では、始めようか」
あぁ、心臓に悪い。
気を取り直して翔賀は広げられた地図に目を落とす。歪だ。
元の世界で言うアフリカの国境と言えば伝わるだろうか。理由は分からないが、国境は全て直線。単純な国の形では無いが、それでごまかすには無理があるというもの。作為があるのは一目瞭然である。
「今回向かってもらうのは西だ。そこで物部将軍に従ってもらう。前線構築に必要な物資を送り届けて貰いたい」
指を指した場所には『名能』と書かれていた。それがその地域の名なのだろう。こちらに来てからの翔賀の行動範囲は非常に狭い上に東に偏っている。なんなら西方は初めてだ。
「案内役をつけていただきたく存じます」
「分かった。見繕っておいてやろう」
感謝しますと一言。
「将軍、監視下にある恵のことですが、西方から帰還の後監視を外そうと考えております。よろしいでしょうか」
「いいようにしたまえ」
拱手し、部屋を出る。
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武田翔賀にとって清岡恵は特別だ。
異郷の地に突如として飛ばされた翔賀と同じ目に遭ったのかもしれない人間。特別視するな、と言うのが土台無理な話である。
あくまでも可能性であっても、むしろ可能性だからこそ、その心情は厄介と言える。
同郷かもしれない者への親しみ?
同じ目に遭ったことへの同情?
役柄上仕方ないとはいえ、半拘束の現状への罪悪?
うって変わって親しみを込めた異性への感情?
交々の感情を抱え、翔賀は西へと向かった。




