二章#14 二つの凱旋
城内は歓喜に満ちていた。
被害は出ているものの連日の戦勝報告があったのだから当然だろう。翔賀らが特別ショックを受けているのは仲のいい存在が死んだからに他ならない。
酷い話だが、勝、より正確には親しい人物でなければ多少の哀愁の後、民衆と同じように勝利の美酒に酔いしれていたことだろう。
私情を差し込む愚かさを認識こそすれ、割り切りというのは難しいものだ。すり減りつつある人間性の残滓にも思えるそれをそのままにすべき、と感情のどこかが訴えている。脳が賛同し、心が否定する。矛盾にも思えるこの状況も人間を抜け出していない、人間でいられていることの証左かもしれない。
「ご苦労だった。充分に休息をとってくれ」
心情を察してか同じく凱旋した碧将軍は多くを語らない。
口先でそう言い、翔賀は事務的な作業に取り掛かる。なんでもいい、何か手と頭を使っていたい。感情が爆発しないよう、別のことに脳のリソースを使ってしまいたい。別離の自覚と喪失の現実から目を背けていたい。今、直視すると衝撃に目が焼かれるような気がしてならないから。
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辛くとも現実とは向き合わねばならない。翔賀は渡会家の屋敷へと赴いていた。普段はこちらから尋ねるのだが、今回に限れば呼び出しである。
渡会史礼の話をするや否や、会いたいと、そう口になさる御方だ。大層な立腹のほどは想像に難くない。武田翔賀個人として大いに悔もう。
それでもと倫理に欠けるかもしれないが一人の軍人として口を挟みたい。
独断かつ単独の専行をどうしろと言うのだ。ハッキリ言えば自業自得だろうと、そう思えて仕方が無い。責任の在処とは難しいものだ。責を内にしようと他にしようと波が立つ。上が気にするなと言っても気にしてしまうのが当人である。
独断専行も言ってしまえば軍としての統率の無さ。
そしていずれは教育の不行き届きと、言われるまでも、という堂々巡り。
全く嫌になる連環である。
更に人の命でもってこれを考える自分にも嫌気が差してくる始末。
「碧将軍下、武田翔賀、参りました」
「ようこそお越しくださいました。主は中でお待ちです」
衛兵は普段通りの調子である。木の軋む音を聞きながら、奥に入っていく。
襖を開けておわすのは陰気をまとった御仁。呼び出した当人・渡会美佳である。
差し込む陽光と相反するような雰囲気。
「「この度は誠に申し訳なく」」
二人が口を開いたのは同時だった。叱責されるものと思っていた翔賀にしてみれば意外と言う他ない。
「顔を上げてください。私も機会を活かせなかった。そちらにも”不運”があった。”そういうことにしましょう”」
「お気を使わせて申し訳ございません。けれど至らぬ所があったのも確か」
いくら気にするなと言われても自責とするのが適当だろう。
美佳はそっと目線を上げる。
光が美佳の顔を照らす。
「少し昔話に付き合って頂けますか?」




