二章#13 冥福
渡会史礼は、大久保勝は絶命した。傷一つなく、その命は散った。不可思議な微笑みをたたえながら、その体には力がない。
ここにいる全員があまりに急過ぎる出来事に頭の処理が追い付いていない。
無論、戦いとは、戦争とは死が横行する最悪の環境である。人の死に対して一々号泣していては精神がもたないだろう。そういう意味で死に対する感情が希薄になっていく。
それはある意味の諦めなのだろう。環境が悪い、そう誰かの死の原因を『戦』という環境のせいにすることで割り切っている。
なら、今回の勝はどうだろうか。
それは翔賀にしてみればあまりに端的過ぎた。あまりに瞬間過ぎたその死が勝の死を戦死だと心が受け付けない。
だから今もこうして肩をゆすっているのだ。
「勝!勝!」
走って来た澄は泣いている。重力に負けるその体を後ろから支え、懸命に名前を叫ぶ。
誰も答えないその問いかけが辺りに木霊する。
今はそっとしておくべきだろう。翔賀は勝から離れ、導士の様子を見る。
導士も勝と同じようだ。外傷はゼロ。心臓の動きだけが止まっている。
「翔賀、この二人を連れて帰ろう。ここじゃ分からないことも医局ならわかるかもしれない」
冷静そうにそう提案する望門の声は確かに震えている。
立ち崩れていた妹乃を回収し、遺体を火車に乗せて運ぶ。
先頭を行く望門ら。そこに恵の姿がないのは直ぐに気が付いた。
「何をしている?」
「手を合わせています。魂は死んだ場所をしばらくの間彷徨うと言いますから」
そう恵は静かに答えた。
その時だ。何かが解放された気がしたのだ。思えば死を悼むことは多々だが、それを行動として現したことはなかった。
酷く簡単で、何よりの行為が今、恵がやっているそれだ。
元の日本では当然のようにしていたその儀礼的行為を、こちらに来てから全くやらなかった、存在すら彼方に忘れてしまっていた。
だから思い出した今、食事の前に『いただきます』と言うようなそんな気持ちで、そこにあるかもしれない勝の魂へと手を合わせ、思いを馳せる。
ご冥福をお祈りします、と。




