二章#11 私の言葉は軽いけれど
渡会史礼を戦闘から排除する。
こちらは迷惑な奴がいなくなり、あちらは命の危険から遠ざかる。まともな相手であればwin-winなこのお話だが、相手がエキセントリックな場合は話し合いでは済まされない。必要なのは謀略である。
敵を騙すには味方からとは言うが、味方だけを騙す謀略とは中々聞いたことがないなぁ、と思いながら翔賀と望門は計画を練る。
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数日、雨がようやく降り止んだその日、鐘の音と共に二つの策は始まった。いや、始まってしまった。
「翔賀様!渡会様から急な連絡が!こちらを」
渡会美佳からの了承を得た偽書を受け取り、手筈通りに史礼へと通達する。苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる史礼を尻目に、勝こと史礼を除いた望門らと清岡 恵を連れ、翔賀は出陣する。
総勢六名の少数を二組ずつの三グループに分ける。
神官の二人は主に戦場全体の指揮。望門と結月梓、翔賀と恵が攻撃役といった割振りである。
仕組みはペアとなった片方の幻をお互いに監視するといった単純なもの。
そうすることで避けるなり、先手を取るなりして攻撃をしようという算段である。うまくいくのかは分からないが、少なくとも一方的に嬲られることは少なくなるだろうという策。
討伐に至れるかと聞かれれば首を縦には振れないだろう。
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「やや!此度も出迎え感謝である!しかと我をその目に刻め!和 賛導、魂光世怨の名をもって己が存在を証明せん!!」
相も変らぬやかましい姿を白日に晒し、導士はそこに顕在している。
「うまそうな獲物がいるじゃねぇか!!!滾って来るなぁ!!おい!!!!!」
聞こえぬはずの声だった。城の中で足止めを食っているはずの声がここでしたのだ。
大久保勝、いや、渡会史礼はそこにいた。
「てめぇら、絞りたいことは山ほどあるが、今は脇に置いといてやる。あいつを殺した後、覚悟してろよ?」
「思っていた数倍は早いんだが」
「オレを止めようとしてきた奴なら今頃伸びてるぜ?足止めには不足もいいところだな!!」
実母に向けて攻撃を仕掛ける史礼の人間性を考慮出来なかったこちらの落ち度だろうか。教徒ならともかく、母親まで伸すとは思いもしなかった。
呆気に取られてしまった意識を戻し、考える。
次の史礼の攻撃は想像できる。なら、自分とペアの恵の二人だけでも予測して動くべきだろう。
「この後、俺と恵、二人分の幻を見ていてくれるか」
「はい!了解です!」
「行くぜぇ!!!!!!」
想定通り、史礼が突貫する。翔賀は史礼の幻に注目。史礼と幻がすれ違ったその時、導士はテレポートして史礼の背後に現れるはずである。だからこそ、翔賀は史礼の幻を目標に攻撃を繰り出す。
史礼と幻との距離が縮まり、交差する。見れば望門も同じ腹積もりのようだ。
交わす視線。
すり抜ける幻。
目の前の黒が色を持つ。ビンゴである。
両サイドから首を目掛けて刀が唸る。世界最高クラスの切れ味を誇る日本刀の刃が皮膚を裂き、鮮血が咲く。
だが、それ以上に進まない。力任せに振るうものではないと分かりつつも刀の柄に力を込める。なにか間違いで両断されないかという淡い期待を抱きながら。
「劣弱の考え、見事!されど!!我の骨肉は刃をも通さぬ!!!」
下からの圧力により首に食い込んだ刀が叩き折られる。振り上がった両腕が二人に食い込み、倒れ伏す。
「安心せよ!殺しはせぬ!!劣弱の死は我の存在の証明にならぬからな!!!」
「和導士、それはどういうことか、説明してくださいますか?」
それは優しい声だった。包容力があり、どこか懐かしさを感じる声だ。
緋色の法衣に身を包み、その手に短い杖を携えた尼僧。そのすぐ隣には上裸で錫杖をついている男が立っている。
「先達者、曙留尼陀様……どうして、こちらに……」
導士の顔は分かりやすいほどに青ざめている。




