二章#10 無能な味方は敵よりも恐ろしい
是非会いたい。そう母親として当然と思える答えを受け、翔賀は安心を覚えた。血に塗れた戦いの日々に舞い降りた一時の安らぎのように感じられたのだ。母と子の再会という大体が感動的なその展開に安堵していた。
翔賀の目にふと涙が浮かぶ。そういえば自分も母と突然別れることになったのだ。惜別というにはあまりに突然過ぎたそれは頭からその意識をも遠い彼方に飛ばしてしまったのかもしれない。無論良い思い出ばかりではないが、悪い記憶の大半は自分がまだ幼かった頃の記憶だ。自意識がハッキリしてきてからはそういった記憶は思い浮かばない。
一つのトラウマとしては残ってしまっているのだが。
涙を照りつける太陽に向け、溢れをどうにかして食い止める。しかし、一度切られた堰はそう簡単には閉ざせない。溢れるそれはため込んでいたものを吐き出すように流れ出る。
せめて人前では泣くまいと翔賀は一人影へと入る。
「翔賀様ー!う~ん、この辺りにいると思うんだけどなぁ……」
聞き覚えのある声、監視対象である清岡 恵のものである。
溢れる雫を抑え込み、濡れを拭って翔賀は日の手へと戻る。
「ここだ。なにか?」
「あ!望門様がお呼びでございます。それを伝えに参りました!」
仕事を果たしているのは称賛ものだが、わざわざ監視対象に捜索をさせるなとお付きに言わねばなるまい。ただ、今は違う。
「了解した。して、望門様は何処へ?」
「同じ場所で待っていると仰せです!」
「すぐに向かおう。そなたらは元の持ち場に。あ、一応だが、戦の備えもしておいてくれ」
あのテレポート能力を見た上で多勢をぶつけようとするかは分からないが、念とは入れておいて損はないものだと思う。
それに、これは極個人的な理由だが、人の監視など長くやりたくない。隙あらば邪魔にならない範囲で従軍させ、監視を終わらしてしまいたいのだ。プライバシーが重視されている日本生まれとしては常に誰かに見られている状況は少々心に来る。疑惑ではあるが、翔賀と同様の事情の可能性があるのだから。
そういうものを持ち込むべきではないと分かりつつ翔賀は機会を探っているのだ。
=======
「翔賀、あの史礼って奴をどうにかしたい」
座り込んだ瞬間、望門はそう持ち掛けてきた。理由は単純、ハッキリ言えば邪魔なのだ。
無能な味方は敵よりも恐ろしいと言うが、この度は正にその通りである。
独断専行のきらいがある以上、不意の被害が出かねない。しかも、殊更に今回の世怨とは相性が悪い。突撃した影に主将がやられるのは笑えないし、そのために主将が逃げるのも馬鹿馬鹿しい。
死ぬなら勝手に死んでくれと言いたいところだが、人命であり、他にない友人であるからタチが悪い。
その結果、戦いに参加させないという方針になるのは至極真っ当な結論だろう。
そして、その友人たってのお願いに偶然ではあるが答えられるのが中央にいる翔賀である。
ちょうど良く彼の母親らしき人を訪ねたではないか。親子の再会を史礼のスケジュールにねじ込むくらいは訳ないだろう。念入りに数日に渡らせることができれば尚のこと。
「その任、承った」




