二章#8 コピーとテレポートが弱い訳がない
「導士の能力を整理すると……」
翔賀が目を覚ましてから少し。望門を主体に魂光世怨の対策会議が開かれている。休みたい気持ちはあるが、悲しいことに導士連中は待ってはくれない。
自愛の必要な体で翔賀は会議に臨むのだ。
「まずこちらの兵の幻を出現させる。ただこいつらの攻撃でこちらが死ぬことはない。ただ、もっと厄介な奴が殺しにくるんだけど。幻は導士の移動先だと考えていいと思う。従って不意打ちや奇襲の類が成功するとは考えにくい」
この世界には概念が無いが、現代的に言うならテレポートである。瞬間移動と言い換えてもいい。
コピーにテレポートにと弱い訳の無い能力の数々。面倒なことこの上ない。そしてどうしてこういう時に限って上司は出張しているのか。
理不尽で責任感の欠片もない考えだが、この一瞬程度は許してほしい。
もしこれが現代ならば是非とも仕組みを解明したいがここは現代科学とは相応に縁遠い異世界である。
仮に捕縛に成功したとしてもそういう方面での有効活用はできないだろう。
「少人数で固まればやられて終わりにはならない、はず」
自信なさげに望門は発言する。
討伐できるかは別問題。暗に言ったその言葉にはあまりにも希望が少ない。
一人ずつ兵が死んでいき、その果てに勝利はあるのか。その確信は得られない。
死んでいき……死んで……?
どうして俺は死んでいない?俺だけではない。勝もだ。
導士の攻撃に全く反応できていなかった。肩に炸裂した導士の拳が首に直撃していれば間違いなく勝は死んでいた。
俺もだ。盾のない半身に攻撃されていれば、今こうできていないだろう。
テレポート先がどこにいるのか、導士はそれを分かっていたはずだ。にも関わらず、導士は勝や俺を殺せなかった。
それが翔賀は不思議でならない。
”殺せた”はずだ。けれど導士は”殺さなかった”。
そう、”殺さなかった”だ。
理由はサッパリ分からないし、分かるはずもない。だって奴らの考えなぞ考えたところで分からないのだから。
訪れる沈黙。どうしようかという空気が部屋を包む。
「教徒のくそ野郎なんて全員殺しゃあいいんだよ!」
全員がそう思っている聞きなれた声。意識不明から戻ってきたらしい勝の声である。
「できる案が出てれば苦労してないんだよ、勝……」
「は?誰だ?それ。オレの名前は渡会史礼だ!二度と間違えんじゃねぇ」




