二章#4 鏡写し
目の前に現れたのは筋肉を見せつけてくる一種の変人と、白と黒でできた私たちとそっくりな何か。
恐らくはあの自分たちそっくりななにかが世怨の能力なのだろうが、あれが何をしてくるのかは全く分からない。浮かぶのは困惑の色ばかりである。
何かをしてくるわけでもなく、ただそこにいる。こちらも不可解から動けないでいる。様子を見ていると言えば聞こえは良いだろうか。
「妹乃、先制攻撃だ。用意してくれ」
「うん、分かった!」
「勝は僕と共にあいつの攻撃に備えよう。澄は最終手段として待機!その他、少数を澄の護衛に付け、残りは前進せよ!!」
望門の号令に合わせ、部隊が動く。
「は?」
異変はすぐに現れた。自分の目の前に広がる自分たちの部隊、それの鏡写しのような陣が相手側に構築されている。
「これで我が陣はそちらと同等、否!我がいるのだ!つまり、我こそがこの戦の勝敗を分ける存在!これこそが!我という個体の証明!!!劣弱は存在が無価値だが!我の存在は価値があるっ!!!」
絶句するほどの暴論だが、実際問題として、有力な敵将の存在がある分こちらが不利なのが腹立たしい。
現状の推測としては、敵はこちらの動きを模倣する。それも同時にだ。こちらが足を上げれば、あちらも足を上げる。神術を構築している妹乃の鏡写しに、色のない妹乃もまた神術を構築しているのがいい証拠である。
「奴をおびきだし、迎え撃つ!接近しなければ敵の兵と戦うことは無いはずだ!!」
こちらが退けばあちらも退く。こちらを完全に模倣しているのならそうなるのが道理である。
「甘く見てもらっては困る!!我が兵よ前進せよ!!!」
号令に従い、前進する色のない兵共。
なんという都合の良さだ、と望門は唸る。それと同時に自分の見通しの甘さに臍を嚙むのだ。これで完封できる程、奴らは能無しでないではないのだから。
このまま交戦しても勝てないのはわかりきっている。何せ相手に攻撃が当たる時はこちらにも攻撃が当たっているのだ。行きつく先は笑えない全滅か、誰も傷つかない笑えない千日手の二択。いや、千日手では無い、なぜなら敵には文字通り一人分の余力があるのだ。つまりは全滅という限界の見え透いた千日手とでも言い表そうか。
打つ手がない。いやあるのかもしれないが、今この場において思いついていない。
「撤退せよ!!!」
惨めだが、そう命ずるしか望門は分からなかった。
 




