一章#45 再編
本作品は特定の団体を批判する目的で書いているものではありません
重々ご理解ください。
三十三番、馬谷良秀との戦いから数日。まばらに現れた説者は他の者が対処していたこともあり、翔賀は平穏を満喫していた。
そして今日は戦力再編の日である。
「先の戦いでの戦功を鑑み、部隊の再編を行う」
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『攘夷校尉』
それが僅か数か月で戦功を積めてしまった翔賀の将軍職である。どこかの方角ではなく、中央から要請に従ってあちこち飛び回る役割。主将は蒼穹碧大将軍。
「また一緒に戦えればいいな」
別れの間際、望門はそう言った。懐かしの面々とは今日で一旦のお別れになってしまう。
『攘東将軍』
それが本居望門の新しい将名である。他の方面よりは一つ下の位で、今までより一つ上。『征東将軍』を追贈された斯波嘉達将軍の後釜である。
妹乃や、勝、澄などの面々も望門の下にいる。
入って間もない翔賀だけが綺麗に弾かれた形である。
心細いというのが正直なところではあるが、どうしようもないので諦めよう。異動願いも人情百パーセントにはし難いことだ。
とまぁ、散々に悲しげなことを綴ったのだがいうほど悲しくもない。
なにせ、
「おはよう、翔賀」
「おはよう、望門」
居城が同じなのだ。会うなという方が土台無理なお話。
戦場を共にすることは少なくなったので寂しくないというのが噓なのは事実だが。
そして今自分、翔賀は碧大将軍の補佐などやっている。初めて書斎に入った時は驚いたものだ。現代日本にもありそうないわゆる書斎。洋式のデスクと洋式の椅子。探せばワインの一つでも出てきそうな佇まいである。
西洋文化、時代的には南蛮文化が正しいだろうか、をこの世界で見たのは初めてのことだった。
時代錯誤はないはずなのだが、間近で見ると妙な違和感を感じるのはやはり当時のイメージとの乖離だろうか。
「翔賀、過去の世怨の資料をここに」
「はっ」
短く返事をし、持って来る。
「いい機会だ。翔賀、おぬしも共に見るがいい」
手招かれ、翔賀は断ることもせず「失礼します」とだけ言い、近寄る。
そして絶句する。
脳の、記憶の奥底にへばりついて見ないふりをしていたものだ。ハッキリとは覚えていなかったそれが実物を伴い、今の頭に鮮烈に刻まれる。
全て見覚えがある。ここではない。元の世界、日本で。
八月の中頃、翔賀は毎年これを見た。鐘と木魚が脳内で木霊する。意味も分からずに歌わされた記憶が蘇った。
そして今更ながらに納得するのだ。
だから『達多教』なのだ、と。




