一章#43 まだ灯は消えない 肆
チリチリとした灼熱が盛る。不滅の焔は一切合切を焼き尽くさんと揚々として顕現している。
首を斬り落とそうと振った太刀は局所的な宿怨という敵導士の技術で防がれた。それ即ち攻撃力の喪失である。
二人は急速な退避を強いられる。が、間に合わない。脇差と比べれば長いとは言え、太刀を大きく見積もっても一メートル程度。退避に稼げる時間はたかが知れている。
されど二人は下がる。二方向に別れ、可能な限り退避する。片方でも生き残れば御の字。『死』への念を抱きながら、二人は後ろを振り返る事無く一時撤退する。
逃げる二人の背に焔が迫る、迫る。……
下がっても下がっても消えぬ炎は届かない。翔賀が、望門が代わりになってくれたのだと二人が振り返る。
が、炎は走っていない。あちらにも、勿論振り返った自分の後ろにも。
上げた目線の先。迫らなかった炎が燃え上がっている。導士の背後、煌めく白刃を首の中心に突き刺したまま、斯波嘉達は煉獄に焼かれている。
「自分を犠牲に他の者を助けるとは!!!珍しいことだ!!!」
「珍しくなどないさ。おぬしは知らぬだけだ。立ち塞がったものを全ての焼いてきたおぬしは、誰かが生き残る戦場を知らない」
「そうかもしれないな!!!感謝するよ!!!死者よりも生者が輝いて見えるのは初めてかもしれない!!!次に活きる新たな知見だよ!!!」
「おぬしに次はない。ここで終わりだ!」
「違うよ。僕らは廻る。異なる世を。またの再会を僕はずっと待っているよ」
盛る灼熱に囲まれ、その身を焼きながら戦場には不可思議な静寂が広がっている。
誰もが一人の将軍の死を拒みながらも、その死を確信する。手出し無用とばかりに焔は広がり、他者の介入を阻んでいる。
焼かれた体から力が抜け、斃れる。
「また会おう。素晴らしき死者。再び廻り会わんことを」
首に太刀を三本もたたえ、その体を炎に焼かれ、馬谷導士は悦に入る。
既に戦に興味はない。始点に還った魂に想いを馳せ、恍惚に空を見上げている。
生における至高の瞬間。それが『死』の瞬間だと馬谷導士は確信する。誰の記憶を見ようが、最も強くこべりついている瞬間が『死』のそれだからだ。無数にある『死』の瞬間、その中でも格別は限られる。そして今回のそれは格別に値すると思う。得難い悦楽に残りのこの生をすべて費やす価値がある。もたらされた至高を舐り尽くせることだけが求めるところだ。
それと同時に馬谷は『生』に想いを馳せるのだ。『死』という廻りの一幕に夢中になっていたが、『生』の瞬間もまた素晴らしいと




