一章#42 まだ灯は消えない 参
陰陽師とは神霊、妖怪の類を呼び出し、使役する職業である。祈禱を捧げることによって対象をこの世界に呼び出すのだ。いや、現出させるというのが正しい表現だろう。彼らはいつも私たちのすぐそばにいるのだから。
………………まぁ、そんな気配は一度だって感じたことがない訳だが。澄曰くそういう存在らしい。実にファンタジー。翔賀は思考を彼方へと放棄する。
「陰陽師、安倍澄が命ず。龍神よ、この地に、慈雨を降らせ給え!!!」
祈りの声がしんしんと響く。
快晴の青に暗雲が群がり、日の光を
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月で言うなら七、八月といったところだろう。夏真っ盛りといった気候。温室効果ガスが少ないせいか地球の寒暖周期のおかげかは分からないが、酷暑の続く日本よりはかなり過ごしやすい。悲しくも湿度はそのままなのだが。
作戦通りに行くなら湿度の上昇を犠牲に気温問題は改善されるはずである。
防火服という文明の叡智がまだない以上、延焼対策は昔からの知恵を拝借することとなった。
火災現場に水を被って突入するアレである。完全防備は不可能だが、かなりましだろう。水の熱容量は膨大なのだ、本当に。
そこで決行されたのがこの作戦だ。澄が雨を呼び、その水でもって対策としよう。仮に上手くいかずとも少々手間はかかるが、地道に威力を制限した水の神術を受けることができれば同等の効果を期待できる。
ただし、戦いの最中にその時間を望めるかは別の問題。
そういう理由での第二プランである。
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「やっ!」
矢が教徒を撃ち抜き、怯んだ隙を太刀でもって刈り取る。普段の脇差なら延焼覚悟だが、長いとはやはり素晴らしい。かの織田信長公が耳を疑うレベルに槍を伸ばしたのもうなづけるというものである。
大きく間が空いてしまったが、馬谷導士による仮称『火人の計』は対処することができた。
被害は少数の人的被害と所々に火が燃えている戦場。妙計を仕掛けられたにしては被害は少ないと言えよう。
「力を感じるね!これは陰陽師の子の神術かな?頑張っているじゃないか!!!でもね…………その神術は失敗だね!!!」
紡がれた祈りが放散する。快晴の空には雲一つ流れない。どれだけ待っても水の一滴掛からない。
「澄!?」
口の端から血を流し、澄は倒れている。寄り添う勝。
「出力が弱すぎるんじゃないかな?つまり、誰か知らないけど君じゃ力不足ってことさ!!!残念だったね!!!次の挑戦を待っているけど、今回はお別れかな!!!」
「やらせない!!」
迸る煉獄と渦巻く水流が激突する。火と水が弾け、互いに譲らない奇妙な拮抗が演出された。
生じた隙。すかさず神官が攻撃を仕掛ける。
「打って変わって積極的じゃないか!!少しだけ待っていておくれよ!!」
馬谷導士は炎を放ちながら妹乃に向かって猛進する。味方が巻き添えになる環境で神術は撃ちがたい。横やりに放たれる神術が徐々に止み、戦いは近距離の戦いへと移行する。
導士と妹乃の間に割って入る翔賀と望門。手にした太刀を導士の首目掛けて走らせる。
肉を切る確かな手応え。だけれども太刀はこれ以上動かない。甲高い金属音と共に白刃の完走が阻まれた。
「部分的に宿怨させてもらったよ。肉を切るところまでは行けたのに惜しかったね!!!では!さようなら!!!」
唸る焔がチリチリとした感覚と共に迫りくる。
 




