一章#30 夜天の奇襲
日が沈み、夕焼けが映える時間となった。SNSのアイコンとして人気の出そうな美しさである。
ここは教徒との推定接触地点のはるか手前である。下手に夜に遭遇してしまえば視界の問題がある。報告ではまたも導士であるらしい。その場合に限らずとも目から入る情報とは非常に重要な情報源である。
こういった理由から交戦は日中が好ましい。更に言えば夜中の戦は基本奇襲攻撃になる。居場所も定かでない奴らにどう奇襲せよと。
ただ幸いなことに奴らは気狂いの集団なので強襲はされても奇襲はされない。
ありがたいことに奴らにとって襲来と奇声は和菓子に抹茶と同等の組み合わせである。
なんて安息を見事に沸き立つ炎と焦りに焦った部下が幕下に飛び込んでくる。
「将軍!!奇襲です!」
近くまで部下が来てようやく声が聞こえた。これだけの被害が出ていて悲鳴、喚声の一つ聞こえなかった。異常である。十中八九敵導士の仕業であろうが、原理も分からなければ、その導士がどこにいるかも分からない。
夜天に立ち昇る黒煙と焔。不気味なほどに静まり返っている戦場。
立ち込める不安と沸き立つ恐怖。その戦場を静寂という不気味が包み込んでいる。
敵味方が入り乱れた戦場、神術は放つことができない。何処に、誰に命中するのか分からない。更に視認性も悪いと来た。高速で迫りくる神術は悪趣味な処刑装置と化す。
翔賀と望門が打ち据えた中に軍の同僚が混じってしまっていたのは確認済みだ。つまり他でも同じことが起こっている可能性が非常に高い。同士討ちで喜ぶ狂人たちは誰もいないのだ。
朝ぼらけという言葉の似合う早朝。騒ぎは一応の静まりを見せ、地面には血を流した教徒と軍の者が横たわっている。被害は既に甚大に相応しい。
「ごきげんよう。おはようございます~。」
敗残をまとめて帰城しようとしていた時である。
萌黄色の法衣に茶髪のショートボブカット。金色の瞳を持ったまごうことなき導士である。一斉に反転し、盾を、刀を、杖を構える。
「まぁまぁ、焦らないでくださいませ。そんなに焦っていると月が逃げてしまいますよ?波が来ていなければゆっくりと、波が来れば早急に。それが賢い生き方ってものじゃないですか?そして私はその時期がわかる。だからは私は素晴らしいの!」
徐々に高揚したのか口調が尊大になる萌黄色の法衣を身につけた導士。少しずつどちらかと言えばしおらしい印象が剝げていく。
「私!波多 汐が!玉潮世怨の名をもって!!救いをぉ!!!!!」
付いた印象を僅か数秒でかなぐり捨てた導士が先ほどまでは聞こえなかった絶叫を上げた。




