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異世廻転生  作者: しかくかに
一章 首都近郊編
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一章#24 第三十三番

強烈な爆発音とそれに伴った旋風が吹き荒れる。自陣には見事神術を敵である金導士に命中させた妹乃(せの)が自慢気な表情を浮かべている。


「痛みを伴う表現……それもまたいい。悲鳴、絶叫、嗚咽、悲嘆。どれも音楽に刺激をもたらすものだから。だからこそ、であるからこそ!音楽は面白い」

煙が晴れた先に屹立した影がある。


全身を青銅で包んでいる以前に見た姿。違うのはその身に細かく刻まれた意匠である。以前遭遇した渇関世怨(かつかんぜおん)とやらは植物を模した模様が刻まれていた。

今回の意匠は五線譜?いや人の声?だろうか。簡略な人間の横顔の口の辺りからマンガ造形的な発声表現の線が描かれている。台詞枠ではなく、発声が理解できる程度のものである。


そんなことは一旦はどうでもいいのだ。一番の問題は敵がまだ健在であり、その敵に最も接近してしまっているのが自分・翔賀(しょうか)と翔賀が庇う形で押し倒した望門(もちかど)であるという点。

それ即ち、今すぐにでもここから退かなくてはならない。

幸い二人とも手負いといえども足自体は健在である。翔賀は望門を引っ張りあげ、そそくさと自陣方面に戻る。


後ろから吹いた豪風がすぐに逃げを選んだ自分を正当化してくれた。生身の時のお世辞にもふくよかとは言えなかった痩躯からは想像だにできない剛腕による単純な質量攻撃。それが二人のいた地面へと振り下ろされた。腕による殴打という人間が最も体験しやすいであろう暴力が二人の命を狙って振るわれる。

その威力は鉄パイプなんて比でもないだろう。


二人が離れたことで神術は再び放たれる。遠距離攻撃というのは遥か昔、狩猟によって生計を立ていたような時代から強力なのだ。相手に対応策がなく、遠距離攻撃兵が多ければ多いだけ理不尽なまでに一方的なワンウェイゲームが繰り広げられる。敵が単騎ならば尚更打開は不可能と言って良い。


そんな元の世界の常識を何の遠慮もなくぶち壊してくるのがこの『異世界』という一人称視点で厄介極まりない世界である。青銅で包まれた己を盾に、導士は怖気づくことなく進む。

その身に世怨を顕した導士の一番面倒な点は弱点の小ささにある。額に開かれた目。実に縦どれだけ大きく見積もっても3cm、横精々1cm。この極小を遠距離から射抜け、など熟練者ならいざ知らず、スナイパーライフルがあっても匙を投げたくなる鬼畜ミッションである。実にミッションインポッシブル。


だからこそこれだけいわゆる魔法・神術が発展した世界でなお刀、脇差といった近接武器は必須なのだ。無駄ならやめるべき、それはそうなのだが先の導士のように有効打にもなり得る。何より目くらまし程度には有効なのだ。そのため神術を扱う神官は手を変え品を変え、術を構築し、繰り出す。


「かかれぇ!!」

将軍の号令がかかる。


一言も発することなく導士は生身の時とは打って変わった脳筋な力業を振るい、兵を肉塊へと帰していく。彼らなりに言えば『救った』だろうか。虫唾が走るが。


導士の攻撃は単純で正直速くない。鈍いくらいだ。動きをしっかり見れば、避けるだけならばできるだろう。だが、相手の動きを見つつ、僅かな隙間に剣を刺せなど不可能に近い。少しでも目標がずれてしまえば待っているのは『死』である。

以前は何とか抑えることができたのだが、今回はそうもいきそうにない。原因は単純に敵の剛腕だ。組み付いてきた数人を軽々と持ち上げている。


思い出せ。何かないか。

一度だけ敵の動きが止まった。それは凶刃が迫っていた望門を助けようとした時だ。


「ーーーーー!!!」

再び翔賀は声を上げる。低い声と共に極僅かに破裂音が鳴った。


破裂音と共に火炎が中心、導士に向かって一直線に迸る。迫る火炎から数人が逃れ、また数人が巻き込まれた。

浴びた炎が身につけた甲冑の布部分に燃え移り、その身が炎に包まれる。消火のための水の神術を浴びせても、地を転がっても、炎は勢いそのままにその身を焼く。


「アハハ!やっぱり何度見ても人が焼かれるのは面白いな!でも主菜(メインディッシュ)はそっちじゃない。主菜はこっちだ」

北東からの声だった。緊迫を打ち壊す、いや似つかわしくない、不快な軽やかな口調。この一瞬で奴も気狂いであることがわかる。

年若い少年だった。小学生くらいに見える。金色の髪を肩まで伸ばし、右目にはダイヤモンドのような、左目にはエメラルドのような瞳がギラギラと輝いている。そしてその法衣は紫色。


「何故……私に向けて……貴方の炎を」

「何故って、やったこと無かったからさ!今までの人はたくさん焼いてきたけど、『発怨』させた人を焼いたことは無かったからね!ありがとう!金導士!安心して?ちゃんと最後まで見ててあげるから!」


邪悪?狂気?そんな言葉で表していいのだろうか。筆舌に尽くしがたい『悪』である。


「あぁ!無視して申し訳ない!でも、今すごくいいところなんだ!今日は帰ってくれないか?」

あっけらかんと謎の狂人は言い放つ。この一方的な宣伝の裏でも燃やされた人物の悲鳴は上がっている。

彼等は恐らく全身の大やけどで死に至るだろう。


凍りきった場は動かない。誰もが息をのみ、起きたことから目を動かせないでいる。許せない。許せる訳が、許していいはずがない。

「物好きがたくさんだなぁ。しょうがない、自己紹介しよう!それで満足しておくれよ!」


狂少年は口を開き、


「第三十三番、歌の終。真求世怨(しんぐぜおん)をここに。」


緊張感が高まるのを感じる。誰もが目の前の残虐と響く無邪気に釘付けになっている。


馬谷 良秀(うまや よしひで)と申します!」

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