一章#22 どよめき
「翔賀!正式に入ったって!?」
「入ったよ。これからもよろしく!」
「終わった後、あんなに辛そうだったのに、どうして?」
「そりゃあ殺すのも殺されるのも怖いよ。でも、理不尽に殺しに来るヤツらがいるって知ってから安全に過ごす気も起きなかったから」
翔賀が話したのはどれも本当に思っていることである。本当にその思いがあって部隊に正式に加入した。全てを話した訳ではないが嘘はついていない。
「そうなんだ……じゃあ、また……」
望門は複雑な表情のまま翔賀のまえから立ち去った。
何かよそよそしいようなそんな態度だった。理由は分からない。何かをした記憶も、された記憶もない。ただ疑問だけが翔賀の頭を駆け巡る。
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「出場!!!」
喚声と馬の駆ける音がこだまする。目的はまたもや東。理由があるのかは分からないが、考えても仕方が無い。理由があろうとなかろうとヤツらはこちらに進撃しているのだ。それが確たる事実である。
翔賀の所在に変わりは無く、本居兄妹と一緒である。変えられるかもしれないとビクビクしていたりもしたが、その心配は杞憂で終わった。死線を潜ったのだから二人に対して愛着の一つや二つあるのだ。
馬のいななきが耳に届く。
風の全く無い平原、遠くからたった一つの影は足音も立てずにやって来た。
以前の導士と同じ浅葱色の法衣を身にまとい、茶色の髪は一切風に揺られない程に短い。両手に抜き身の直剣を持ち、静謐な雰囲気を漂わせている。
「いい調和だ。でも、雑音で、どよめいていて、どうしようもなく五月蠅い。悲しいね。どこまでいっても雑音は音楽じゃないんだから」
導士は直剣を手持ち無沙汰に振りながら、こちらを見て呟いた。
「五月蠅いからさ、消えてね?拒否権ないけど」
消えてという要望が冗談でないことはもちろんである。翔賀は会話を早々に諦める。
「産喚世怨の名をもって、金 律詩導士が雑音に調和を」
「産喚……!!」
望門が呟く。般若か修羅か、望門の顔はそれであった。
「お兄ちゃん、落ち着いてね」
「分かってる。分かった上で、絶対に僕が殺す!」
視線は真っ直ぐに名乗った導士を突き刺して揺らがない。殺意は隣で感じることができる程に漏れている。これで冷静なのか、翔賀にはまだ分からない。
そして、鋭い決意の言葉が翔賀に突き刺さる。
「そこ、特に不協和音。まず、あそこから整えないとだ」
持った直剣でこちらを指し示し、導士は静かにこちらに向けて駆けだした。




