一章#21 新生活
「将軍、よくやってくれた。導士の討伐は実に八年ぶりのことだ。」
「ありがたき幸せ。して大将軍に一つ指示を仰ぎたく」
「なんじゃ?」
「我が部隊武田翔賀についてなのですが」
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~三日後~
(怖い怖い怖い!)
沙汰を下す故、城へ参上させよ、という命があったらしい。今まで担当?監視?していた望門ではなく見知らぬ兵に連れられて翔賀は城門を通る。
通されたのは金に輝く屛風の飾られた大広間。時代劇で身分の高い人が使っていそうな部屋である。上座は空席でその近くに斯波嘉達将軍が座っている。そして、翔賀は中央に。見よう見まねに座る。
閉ざされた襖の向こうから足音が聞こえる。恐らくは三人程度だろうか。周りが頭を下げたのを見て翔賀も頭を下げる。一つの足音が部屋へと入り、音を立てて上座へと登る。
「面を上げよ」
男にしては高く、女にしては低い。そんな声が静寂に染みる。
(子ども?)
翔賀よりもいくらか年下に見える。見た限りは中学校に入ったかどうかといったところであろうか。黒い髪を短めに切りそろえている。凍てたような冷たい視線をこちらに送っている。
「刑部、天頼慧林が子、天頼玄道である。父に代わり、武田翔賀への沙汰を伝える」
翔賀はゴクリと唾を飲み込む。ここで死刑などと言われたら本当にシャレにならない。怪しい動きをした自覚は全くないかと言われれば違うが、その時は監視もいたのだ。
「此度の導士討伐への貢献多数。そなたへの疑いは無くなった」
「ありがとうございます!!」
「将軍、後は任せて良いか?」
「はっ!」
事務的に玄道は沙汰を伝え、退出していった。
「あった通り、そなたは自由の身だ。好きにするがいい」
「将軍、このまま所属を続けることは可能でしょうか」
「構わん」
「でしたら、改めて部隊に所属させていただきたいです!」
「承知した。そなたは正式に私、斯波嘉達麾下の兵だ。良いか!」
「はっ!!」
軍に残った理由はいろいろとある。
まず、翔賀がこの世界で交流した人が全員兵士であるということ。守ってやりたいなんて傲慢な考えはないが、肩を並べるくらいにはなりたいと思えたのだ。次に、『救い』などとほざいて人殺しをする教徒が正しいとは一ミクロンも思わないというのも理由の一つである。ただ最大の理由はそこではない。最大の理由は目の前に広がっている光景である。
「まともな寝床と!食事!!」
決して広くはないものの時代的に見ればまともな物品が揃っている。
伝手も何もないこの異世界で一から生計を立てることができるほど知識も何もない。命懸けというデメリットはハチャメチャに重いものの、市井に行っても物乞いになる未来が割と余裕で想像できた。
そんなこんなで翔賀の新生活が始まった。




