#2 聞きたくなかった単語
(え?これ、本物?夢じゃなかったりしてる?)
目の前に刀が一振り。燦々とした太陽に照らされ、鈍い光が放たれている。
爆発でもしそうな胸の鼓動を聞きながら凶器を向けられた時のお手本のように両手を上げ、武田翔賀は立ち尽くす。
「拘束しろ!」
奥に控えていた男の号令で翔賀はたちまちに縛り上げられた。
事情をこれっぽっちも説明されないまま翔賀は連行されてしまった。
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連行されてきた翔賀の目の前に明らかに他とは異なる大ぶりな屋敷が見える。歴史で習ったように武士っぽい階級はここでも権力が強いのだろうか。
こんな状況でもなければ敷いてある畳に「珍しい」と感嘆の一つでもしただろうが、腕を縛られてそう思うほどに平和ボケはしていない。
ほど広い部屋に通され、奥にいた男が上座に座り込む。
「して、お主。名を何という」
「えぇっと……武田翔賀……です」
男は部下の兵から渡された紙を一瞥し、再びこちらに目線を向けた。
「確認できる限りは達多教徒ではないようだな」
とりあえずのピリピリした緊張感のゆるみが感じられた。ここからどうなってしまうのか、想像もつかないのが大問題なのだが。
そして引っ掛かる単語が一つ。
「達多教徒?」
封印でもしたいような単語である。聞きたくもない。できることなら、二度と関わりたくなかった。
「そうだ。今、我が国はかの勢力との戦争状態にある。そのため、不審な者を警戒していたのだ。」
戦争とかいう最悪な単語が飛び込んできたような気がする。ほどほどに縁遠い翔賀的には是非とも聞かなかったことにしたい。
「だが、勘違いするな。確認されている達多教徒では無いというだけの話だ。警戒は変わらぬ。そこでだ………」
一拍置き、上座の男は翔賀に告げる。
「お主には私たちの戦争に参加してもらうぞ」
軽い踏み絵感覚でそんなことを言い出したのだった。