一章#15 徒花に救いを
一里は4㎞程です
「目標はここより東に一里と半分程度の位置で発見された!奴らはこちらに向かって来ている!皆の者、怖気づくな!!」
薄い雨の中、馬が野を駆ける快音と兵士が踏み歩く音が静かに響く。
「歩哨勢!後方と側面を確認せよ!この辺りにいるはずだ!」
部将・斯波嘉達の号に従い数人が隊を離れ、間もなく。知らせは否、それよりももっと分かりやすい知らせが来る。
濁った雲は付近を覆い隠し、雨は静かにすべてを分け隔てなく滴る。東方を除き。
「なぁ…なんであっちだけ雨が降ってないんだ?」
「明らかに異常だ。きっと………」
「神官は神術を用意せよ!」
白い輝きが走り、各々が神術を構築する。
相も変わらず妹乃の神術は馬鹿デカい。自身に降ってくる雨を蒸発させていそうな火力である。
大きさのせいで場所がバレそうなのが玉に瑕。
「炎とは、頂けないわ。だって、焼いてしまうもの」
小雨は、雨に、雨は大雨にそして、やがて豪雨へと成り上がる。周囲の雨が上がり、一隊の下に集まるように降りしきる。警報でも鳴り響きそうな中、翔賀はただ凝視する。
以前とは異なる青緑色。正確には浅葱色だろうか。その色の法衣に身を包み頭に白い布を巻いている。いわゆる尼の格好である。多数の黒服の教徒を従え、その先頭に立っている。
翡翠の目を輝かせ、包み込むように両手を開き、手のひらを合わせる。
「渇関世怨の名をもって、この津山紅葉導士が徒花方に救いを差し上げましょう」
慈母のような微笑みを抱きながら、女はこちらに死を宣告する。




