一章#12 紡歴館
「体痛ってぇ………」
土と申し訳程度の御座と鉄に囲まれ、翔賀は目を覚ました。扱いは完全に要注意人物である。
一度の戦闘参加で疑いが晴れるとは思っていたわけではないが、扱いがこれだと少しばかり泣けてくる。もう少しマシな………と思ってしまうのは基本的な人権が保障されてきた現代人感覚だからだろうか。
「おはよう、翔賀。寝覚めは………いいはずないか」
「ご明察の通りですよっと」
節々痛む体をたたき起こし、翔賀は牢(家)から外に出る。
今日はすることがある。先日大久保勝に聞いた研究の内容を見に行くのだ。ただし、その前に
「とりあえず日光を浴びたい」
起きた後ベランダに向かう感覚で翔賀は至極真面目な顔で少しばかりの外出を要求した。
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「来たな」
例の場所には既に勝が到着していた。自分で言い出したとはいえ、昨日初対面で少し話しただけの奴との約束を守るとは律儀なヤツである。
「こっちだついてこい」
そう言って勝は堂々と裏路地へと入っていった。散々見てきた厄介ごとのお決まりパターンである。是非ともやめてほしいフラグの乱立状況。すぐにでもガタイのいい悪漢が出てきそうな環境を勝はずんずんと進んでいく。
「これ何処に行ってるんだ?」
思えば目的地すら教えて貰っていない。不安は積もりゆく一方である。
「今からとある家にお邪魔するんだよ」
勝はそうニヤリと笑う。いたずらを企む悪ガキのような笑みでこちらを見る。
マズイ。要注意人物扱いが不法侵入は非常に良くない。これでは警戒は増す一方である。未遂のうちに引き返したい。
裏路地をコソコソ進んでいる時点で手遅れ感が漂っていることには触れてはいけない。
暗かった視界に光が差す。相も変らぬ木造の家々が立ち並んでいる。
勝は目の前の家の正面に堂々と近付き、
「頼もう~~!!!」
正面突破の侵入とは恐れ入った。ただの訪問である。
「おい!何してんだ!早く出てこい!」
声は一直線に翔賀へと飛ぶ。不法でないなら隠れる必要もない。翔賀は勝の隣へと歩いてゆく。
「斉藤導将軍麾下、大久保勝です!」
「斯波嘉達将軍麾下、武田翔賀です!」
危うく将軍の名前を忘れかけていたのは内緒である。
「貴様が現在の監視人ということでよいか?」
「ハッ!!」
門番の言ったことで翔賀は今一度自分の状況を嚙み締める。この疑いの掛かっている身に自由などないのだ。こうして外にいられるのもかなりの温情だと思う。
「確認が取れた。中に入ることを許可する」
「「ありがとうございます!」」
ギィと軋む音と共に門が開かれる。進んだ先に見えるのは見渡す限りの本。正確には書物だろうか。現代でいう図書館である。
「ここは………」
「すげぇだろ。ここがこの国一番の書物庫。『紡歴館』だ」




