三章#24 判決
「我らはこの者たち全員とその一族の打ち首を求める!皇国に歯向かった者どもを断じて許してはならない!」
翔賀から見て左手側、上座の天頼玄道の右側に座っていた男がそう声高に叫んだ。
現代日本で例えるならなんだろうか。外患誘致罪だろうか、それとも内乱罪だろうか。どちらにせよ特級の犯罪行為には変わりないのだから死刑を求めることに不思議は無いように思える。
………客観的には。
そう、客観的には、だ。
実際にここに集められている者の中に本気で革命を起こそうとした者がどれほどいるだろうか。
南で蒼穹碧大将軍と共に戦っていた京極琴葉将軍を始めとした面々は敵である導士の力によって操られていたものだっただろうし、翔賀や望門を始めとした籠城した側の者たちもそうなのだろう。
蒼穹大将軍が何故か反乱を起こしたその時から、粟野太郎という妹乃を誘拐したと自白した少年を殴り飛ばした時までの記憶は靄がかかったようにはっきりとしていない。
そして、その間での出来事が翔賀たちをこのような死刑一歩手前の状況に陥らせたのだろう。
何ということをしてくれやがったのか。
「反乱の主犯である蒼穹碧は皇である天様御自らの手によって粛清された。残る叛徒は貴様たちだけだ。何か言いたいことはあるか」
「私の命をもってこの者たちの罪を贖えぬでしょうか」
威圧するように翔賀たちに言い放った玄道にこの中では一番の位を持つ琴葉が提言する。
「ここにいる者の多くは導士の力によって操られていた者たちです。が、皇国に刃を向けたこの罪は消えません。それを私の命で償いたく思います」
「自惚れるな。反逆の罪は貴様一人の命で贖えるほどに軽いと言いたいのか?それとも反逆の咎が己一人の身で贖えるほど、貴様は偉いのか?公族でも何でもない貴様が?」
この世界は人の上に人がいる世界だ。それは公族という名の貴族制が如実にそのことを示している。この世界では公族が尊く、公族から見れば庶民は卑しい。それは経済の面からも、それこそ産まれた時点から貴賤は決まる。
この国では『天』という字は公族と皇にしか許されていない。庶民での使用があれば瞬く間に不敬罪でお縄である。
実生活でこれに苦悩することはないだろうが、制限の下にある状態と制限が無い状態、選ぶことができるのならば、ほぼ全員が制限の無い状態を選ぶだろう。
痛い所を突かれたとばかりに琴葉は歯嚙みする。親子ほどの年の差のある相手に琴葉はその頭を回す。
「玄道様、ここにいるのは教徒の多い南での戦いを生き残ってきた歴戦の者たち。この者たちを打ち首にすれば皇国は今以上の劣勢を強いられることになりましょう」
「京極将軍の言葉、わらわも賛同しますわ。天頼玄道殿」
「私もだ。玄道殿」
最初に声を張り上げた人とは反対側、翔賀から見れば右手側から声が上がった。
一人は花魁を思わせるほど豪奢にその長く艶やかな髪を結い上げ、場から浮いていると言って過言の無い紅色を中心に多様に彩られた和服を着た女である。
そして、もう一人は先ほどの女とは逆に深い紫色に生地に白色の柄が描かれた和服を着た男だ。
「是非意見を伺いたく存じます。天織美奈殿、並びに天弓照円殿」
天織美奈と天弓照円、両者とも皇国において戦いに関することを取りまとめる兵部の二柱、『天織家』と『天弓家』の現在の当主である。
「そもそも、両名には龍樹様にお手を煩わせてしまったという罪がある。これを踏まえた上での意見を伺いたい」
小学校の高学年に差し掛かった頃合いだろうか。その程度の背丈と声変わり前の男特有の高い声で玄道は二人の成人に物申す。
光景だけ見れば反抗期に差し掛かった子供が親に嚙み付いているような構図である。その嚙みつき方も内容もちっとも似通っていないのだが。
「前提として今この国は危機にありますわ。蒼穹碧の無茶な攻勢計画は既に崩壊。北と西に留まっていた部隊は悉く全滅したという知らせが入って来ておりますの。その上でこの者たちを失うとなれば戦いにすらなりんせん。それは自滅の道を往くも同義と思いんせんか?」
「仮に首を打つとしても、それは私たちではなく教徒の輩にやらせるべきこと。今手を汚すのは時期尚早に思われるが、いかがかな?」
二人が囁くのは情に訴えるものではなく、ただ冷静に人的損失を憂う、そしてその先に待つ暗い未来を案じるものだ。そこに情熱は一切見られない。まるでそれさえなければ死んでもいいとでも言いそうな声色である。が、内容としては翔賀たちの道に光が差すもの。
この道から落ちれば一巻の終わりだと、そうこの場に罪人として連行された全員が確信できるようなものである。
照円の『いかがかな?』という婉曲な死罪への反対意見の終わりに被せるように、翔賀たちはその頭をより低く下げる。
「皇国にこの身を捧げる覚悟でございます」
照円が降ろした縄をつかみ取るように、琴葉がそう言葉を続けた。
もたらされたのはしばらくの沈黙だ。音一つ立たない、悠久にも思えるような時間間隔が狂いそうな程の静寂、それを破ったのは玄道の声である。
「判決を言い渡す。反逆の罪の処罰は保留とする。ただし、教徒を打ち払わねば反逆の心ありと見做し、その首を撥ねる」
玄道が鳴らした拍子木の高い音と共に裁判の幕は下りた。




