三章#23 反逆者
かつて斯波嘉達将軍によって討伐されたにもかかわらず蘇った導士・馬谷良秀は甚大極まる被害を残して飛び去った。ただ、その最中、鷹峰颯と名乗った説者を倒すことができたのは成果と言って良いだろう。
そこまで考えてから翔賀は閉じていた目を開ける。目の前に見えるのは綺麗の対局に位置しているような色をしたチェック柄のような物体。そして鼻につくのはここに来てすぐの頃に味わった記憶のある土と鉄の匂いだ。
(夢なら意地が悪すぎる)
何とかして目を背けたい現実を前に翔賀は夢という世界に一縷の望みを託す。感覚が無いはずの夢にも関わらず肌から伝わる温度は冷たく、頬を叩こうにも腕は後ろ手に拘束されている。従って逃げようにも逃げられる訳がない。
翔賀が今いるのはまごうことなき地下牢である。
(ふざけるな!)
その怒りが届くかどうかなど分からない。けれど、愚痴の一つや二つ三つ言わねば気持ちが収まらない。憂さ晴らしを兼ね、翔賀は獄中で叫んだ。
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時は少しばかり遡り、導士が飛び去ってからすぐのこと。
翔賀らは蓄積していた疲労が爆発し、その場から動けずにいた。
そんな翔賀たちを迎えたのは労いの言葉でも何でもない刀と槍の林、そして火縄銃である。
扱いは完全に罪人、それも大罪人のものと変わりない。
説明を求めても返されるのは『刑部の天頼玄道様からの御命令だ』の一点張り。話にならないとはこういうことを言うのだろう。
疲れた体に鞭どころか焼きごてを当てられるような仕打ちである。
翔賀を始め、あそこにいた者は全員が牢へと繋がれた。
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「出ろ」
荒々しく、ぶっきらぼうに看守の男が翔賀に呼びかける。
格子戸が開けられ、部屋と翔賀の体とを繋げていた拘束が外される。一撃入れてやりたい気を懸命に押しとどめ、翔賀は先を行く看守に大人しくついて行った。
通されたのは広間である。翔賀や翔賀が要監視を命じた清岡恵が監視を外された時に通された部屋よりも広く、左右には官吏が座っている。そして、部屋の正面の最奥には威厳溢れる金屛風。その前には年不相応に思えてしまう、中学生になるかどうか程度に見える天頼玄道が上座に座している。
だが、こうして部下らしき人物が揃い、その中央で上座に座っているとそれなりの格好にはなっている。
ちらと見れば、南方面を任されていた将軍である京極琴葉や望門を始め、同じ武士として戦った見慣れた顔ぶれがある。
ここにいる人物の共通点。
それはかつて蒼穹碧大将軍と共に南で戦っていた者たち、そして籠城戦の最終盤で打って出た者たちだ。
カンッ!と高い木の音が鳴る。舞台の始まりを思わせるような拍子木の音である。
「これより、皇国に弓を引いた反逆者の裁判を始める」
厳かに告げられたそれは少なからずのどよめきを生み出した。
「我らはこの者たち全員とその一族の打ち首を求める!皇国に歯向かった者どもを断じて許してはならない!」
翔賀から見て左手側、上座の天頼玄道の右側に座っていた男がそう声高に叫んだ。




